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 トラックの車列が停まったのはただ畑の広がる場所だった。わらわら下車した中隊の兵士達が、私達の乗っていたトラックから木箱を手際良く下ろしていく。弾薬と重火器を運搬する兵士だけで数十名になるだろうか。貴重品のトラックはここで折り返しイーペルに戻る。この先、目的の鉄道駅まで約1時間。後はひたすら人力頼みだ。馬車を使えば、とも思ったが、馬やロバは維持に莫大な飼料が必要になる。私はその辺の草を食べていればいいのかと思っていたが、それだとまるまる1日食べ続けてようやく維持が可能なレベルだそうだ。荷物を運んだり人を乗せたりしようと思うと、より効率よくエネルギー補給のできる餌がどうしても必要になる。それに荷物を運んでいない間も何か食べさせなければ飢えてしまう。ガソリンさえあれば走るし、エンジンを止めれば維持のための燃料がいらない自動車は極めて優秀な機械なのだそうだ。トラックを生産しているのも大佐、ザクセン家の系列工場らしいので頑張ってもらいたい。

「コートリー中尉、よろしいですか」

 シュメルツァー大尉に呼ばれて道路脇に寄ると、中隊長が待っていた。彼もヤンセン中尉と同年代くらいだろうか。

「聖女様、今後の行動予定について説明します」

「ありがとうございます」

 若手士官にはもう『聖女様』で定着しているらしい。なんかまあ…いいけどさ。

「これから中隊はリール鉄道駅を目指します。薄暮のうちには駅までは到達できるものと見込んでいますが、共和国側の防衛体制がはっきりしません。事前情報によればリールには一個警備中隊のみとなっていますが、イーペルの敗戦がどのように伝わったのかによって体制は変わってくるものと思われます」

「はい」

「よってまずは一個小隊を先行させ、敵の防衛体制を偵察したいと考えております。それで…大尉殿が、聖女様もその偵察部隊に参加してもらいたい、と」

「はい」

 あっさり答えたら中隊長が何とも言えない顔をした。あ、偵察で先行するってことは危険なのか。普通は覚悟が必要なんだ。突撃の時に毎回先行させられてたから感覚が麻痺していた。

「……では、先行する小隊を選別します。失礼します」

 ぱっと駆け足で去っていく中隊長を見送ると、シュメルツァー大尉が地図を広げた。共和国語で何か書いてあるので、たぶんこの辺の地図なんだろう。

「これからコートリー中尉には鉄道駅を目指して前進してもらいます。直ちに戦闘になるかどうかは何とも言えませんが、十分に警戒してください」

「了解しました」

「中尉は共和国語の心得は?」

「ありません。ただ、ユーリア伍長が日常会話程度なら可能だと言っていました」

「なるほど。では、私が同行する必要は無さそうですね」

 大尉は共和国語…余裕でできそうだな。あれか、共和国側との交渉要員として選抜された感じか。

「先行する小隊では中尉が最も階級が上です。後続が到着するまでの間は中尉の判断で共和国側との折衝が可能ですが、判断に迷うようなら我々の到着を待ってください」

「はい」

 完全に敵地の真っ只中、単独で都市に突入する部隊の責任者が私でいいんだろうか。もし戦闘になったら、と思うとまた足元がぐらつくが、ここまで来たら後戻りはできない。

「聖女様、可能であればすぐに出発したいのですが」

「いつでも行けます」

 太陽がじりじり地平線に沈もうとしている。とにかく、やってみるしかない。ユーリアとスザナを手振りで呼び、私は中隊長の後に続いた。

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