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 目を開くと、相変わらず薄曇りの空が広がっていた。なんだかんだ寝ていたらしい。横ではスザナがすうすう寝息を立てている。

「ごめん、寝てた」

「おはようございます。特に異状ありません」

 目隠しの布をくぐって出ると、外でユーリアが一人座っていた。なんかユーリアにばっかりこういう役回りをさせている気がする。

「代わるから今からでも休んで」

「そういうわけにはいきません。私の職務ですのでお気になさらず」

「じゃあスザナを起こして少し休んで。次の休憩はいつになるか分からないから」

「了解しました」

 ユーリアが布の向こうに消えると、少し経ってスザナが這い出てきた。まだ半分寝ている顔で私の隣に座る。

「おはようございます」

「おはよう。よく休めた?」

「ふぁい」

 あくびを噛み殺しながら答える彼女はいつも通りに見える。この数マイル四方の戦場で死んだ敵兵の数は千名では利かないはずだ。午前中だけでも人の形をしていない残骸や、雑に積まれた人の山を目にしてきた。体から溢れた諸々が放つ臭気は今この場にも漂っている。正直スザナがどうして耐えられているのかよく分からない。軍の記録だとまだ19歳。はるか東の植民地から1人でここまでやってきて、看護婦として働くはずが正式に帝国軍に入隊し、私みたいなわけのわからない存在の下に配属されている。逃げ出したくならないのだろうか。

「あのさ」

「はい」

「スザナはその、大丈夫?」

「はい。元気あるです」

「あー…えっと」

 くっきりした黒目がくりっと私を見つめている。嘘はついていなそうだけども。

「戦争だからさ。たくさん人が死ぬでしょ?そういうのは、大丈夫なのかなって」

「あー、はい。大丈夫です。人たくさん死にますね、ペナワも同じです」

 ペナワ、はスザナの出身地だったか。戦場と同じくらい人が死ぬ?

「ペナワって何があるんだっけ?」

「錫とゴム採れます。錫は海の中まで掘ってるのでよく崩れますね。よく人も潰れますが、お金欲しい人たくさん来ますので大丈夫です」

「へー……」

 つまり鉱山があって落盤事故が多くて、事故死を見慣れてる、と。……いや見慣れるか?

「ゴムもトラの住む所ですので。トラに殺される人よくいますね」

「トラ、いるんだ」

「たくさんいます。大きいトラも人のトラもたくさん。夜は危ないから家から出ちゃダメと怒られます」

「人のトラ?」

「はい。ゴムの森に住んでます。みんなトラの入墨してますね。言うこと聞かない人襲います」

「ん、と?」

「お金払えば大丈夫ですよ。お父さんも仲良しでした」

 えーっと、これは虎の刺青をしたヤクザ集団がいてみかじめ料払わないと殺される、的な話?スザナはどんな修羅の国で生きてたの?てかお父さんが仲良して。

「お父さん、何してる人なの…?」

「商人です。錫とゴム、帝国の会社に売ってますです」

「ああ」

 なんか納得した。こっちの生活の中で、ユーリアみたいに女性で教育を受けている人がそんなに多くないのは分かった。植民地出身のスザナではなおさらのはずなのに、学校に通って看護婦としての訓練まで受けているのは何故なのか引っ掛かってはいたのだ。帝国御用達で地元のヤクザとも繋がりのある卸売商社の社長令嬢ってところか。わりとハイスペ女子だった。

「帝国は優しいですね。トラいませんですし。お金もたくさん貰えますね」

「そう、なんだ?」

「はい。だから私、大丈夫ですね」

 にこにこそう言うスザナの表情の裏側が、少しだけ見えた気がした。

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