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「閣下ー、誰か来ますー」

 二時間ほど経った頃、二階の掃除をしていたスザナが床の穴から私に声を掛けてきた。階段を上って窓から外を見ているスザナに並ぶと、遠く町まで続く斜面が見通せる。そこを隊列を組んで上ってくる集団が見えた。まだ遠くてはっきりとは分からないが、おそらく一個分隊規模。トレッキングで遊んでるとかでなければ、向かう先は私達の納屋だろう。

「ありがとう。掃除を続けてて。一応、武器は携行すること」

「了解です」

 ぴっと敬礼するスザナを残し一階に戻り納屋の外に出ると、そこからでも向かってくる集団を目視できた。斜面に建ったここは、哨戒にも有用らしい。ああやってわざわざ出張ってくるってことは少尉を撃った件絡みだろうな。人数を揃えてきたのであれば、単なる伝令ではなく拘束目的か、それとも報復か。

「ユーリア、皆を連れて二階へ。とりあえず掃除を進めてて」

「了解しました」

 ユーリアが小銃を担いで階段を上ると、その後に続いて民間人の二人と乙女も上っていった。心配そうな顔を見せる乙女に笑顔で手を振り、戸口から外を窺う。その頃には分隊の姿もはっきり見えるようになっていた。人数は十一人。下士官を先頭に、小銃を装備した兵士が続く。少なくとも友好的には見えない。こちらが見ているのに気付いているのかいないのか、小屋に近付いた分隊が二人組ずつに分かれて包囲するように散っていった。下士官がそのうち二人を連れてまっすぐ向かってくる。納屋から外に出ると、下士官は兵士を待機させて一人で私に向かってきた。

「ハナ=ミーア・コートリー大尉殿で間違いありませんか」

「はい」

「南部方面軍司令部付憲兵軍曹のエルマーです。司令部より至急出頭せよとの命令であります、閣下」

 敬礼して命令書を差し出す軍曹から紙を受け取る。手書きのせいで全部は読めないが、形式で出頭命令だというのは判断できた。

「了解しました。……随分物々しい様子ですが?」

「は。通常の任務の範囲であります」

 通常の任務、ねえ?まあ警戒する気持ちはよく分かるのでいいけど。

「では、私の部下と民間人二名も同行します。よろしいですね?」

「……は。問題ありません」

 軍曹の目が一瞬泳いだが、ここに皆を置いていくわけにもいかない。今回のやり方を見る限り、私が居ない間に襲撃してくる可能性は十分にある。距離的に町からでも私が防御を張っておくことはできると思うが、目の届く範囲に居てもらった方が安心だ。

 私が皆を呼びに戻ると、外から笛の音が聞こえてきた。戸口越しに整列していく兵士が見える。二階からは乙女が顔を覗かせていた。

「一度町に戻るから、皆荷物をまとめて。ここはいったん閉鎖します」

 階段を下りてきた皆に指示する。荷物をまとめると言っても、掃除中だったのでまだ荷解きすらしていない。持ってきた背嚢を担ぎ直すだけだ。兵士を見て青い顔をしているミラを安心させるように、乙女が傍に寄り添っている。男の子──名前はピーターらしい──も固い表情だが、何かをユーリアに伝えている。

「閣下、彼が言うにはあの兵士達は安全だ、と。頼りにはならないが、乱暴なことはしていないそうです」

「そうなんだ?」

「なんだかいつも大変そう、とのことです」

 憲兵がいつも大変そう?南部戦線、大丈夫?

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