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私達が乗り込んだのは、御料車の後ろに連結された客車だった。さすがに皇帝と同じ車両ではないらしい。少し安心した。客車の中は日本の電車みたいにシートが並んでいる訳ではなく、通路に沿ってドア付きの個室が並んでいるタイプだ。個室は四人掛けで、荷物置き場もある。四人ということは私達四人で一つの個室。大佐とは別室。素晴らしい。布張りのシートは少し硬いが、荷馬車よりもずっと快適。丁寧に磨き上げられた木の内装にレトロな電球の照明。いやこの時代だとレトロではなく最先端なのかな?まあとにかく、貨物列車に詰め込まれるとかではなくて良かった。今まで移動といえばトラックの荷台とか荷馬車とかだったからね……。大佐が絡むと移動手段のグレードもかなり違うようだ。貴族だしな。私も騎士だけど。しかも皇帝直属の黒鷲騎士。そして全権委任の黒鷲官。全く実感が湧かないが、あの時渡された短剣は今も腰ベルトに下がっている。返品できないのかな?これ。私には相応しくありませんとか何とか、適当に理由つけて。
私達が席について少しすると、列車はするりと動き出した。がたんと揺れることもなく、気が付けば景色が流れていた、という感じだ。さすが皇帝の乗る列車、運転士も良い腕をしている。
「ユーリアは帝都に行ったことあるの?」
「はい。まだ幼い頃でしたが、家族と。もう様変わりしているでしょうね」
「私も行ったことありますよ。ここ来てから、登録ありましたから」
「へえ。どんな街?」
ユーリアとスザナは二人とも帝都経験者か。少し年代の違う二人の話を聞いているうちに、窓の外は街並みから田園風景に変わっていった。所々に冬枯れた木立が影を落とす以外は、茶色い地面が延々広がっている。なんかいいな、こういうの。仕事辞めてあてもなく旅に出たいとか考えていたこともあったけど、今変な形で叶っている気がする。向かう先が戦場なのはどうかと思うけど。
三十分くらい経った頃、私達の個室のドアをノックする音が聞こえた。スザナが立って応対に出る。外にいたのは侍従服を着た男性だった。何事かを小声で話し合っていたスザナがくるりと振り返る。
「閣下ー、皇帝陛下が呼んでますー」
「……はい」
うん、なんか予感はしてた。何の意図もなく皇帝御用車に同乗するわけがないもんね。
「マリーア、行くよ」
「あ、はい」
声を掛けると乙女も素直についてきた。申し訳ないが、せめて一人きりにはならないように巻き込ませてもらう。侍従を先頭に通路を進むと、横の個室から大佐がにこやかに出てきた。
「私も同行しても?皇帝陛下に御挨拶申し上げたい」
「はい」
「ありがとうございます」
侍従が反応するより前に即答する。この際大佐も巻き込んでしまえ。壮年の侍従が物言いたげな表情を見せるが、気付かないふりをした。




