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 翌日、再び連合王国首都に向かう私と乙女、ユーリア、スザナ、大佐とその部下達。大佐も一緒に行くんかい、というツッコミは心の中だけにしておいた。本隊が移動する前に医療防疫担当参謀が現地を視察し衛生環境を整える、と言われたらそれもそうだなと思うが、先に教えてくれてもいいんじゃないかな?報連相って知ってる?

 私達を乗せた車は、今度は首都の大通りを駅に向かって進んでいく。古そうな石造の建物とコンクリートのビルが混在する角を曲がると、煉瓦でできた美しい駅舎が見えてきた。丸屋根がなんだか東京駅っぽい。冬枯れた並木に縁取られたロータリーから眺めると絵葉書みたいだ。

 車から降りて観光気分でふらついていたら、駅員と何かを話していた大佐が戻ってきた。

「我々は帝都行きの臨時編成列車に乗車予定です。ここには一時停車後すぐの発車になりますので、早めに待機しておくようにしてください」

「了解しました」

 私が敬礼を返すと、大佐は部下と一緒に駅事務室に消えていった。入れ替わりにポーターが私達の荷物をカートに積み上げ、列車が入線予定のホームに運んでいく。ホームと言ってもほぼ平面で、日本のように高さはない。そのへんはリールの駅と一緒だ。さすがにこっちの方がリールよりも活気があるが、貨物輸送が主なのか列車待ちの乗客の姿は少ない。どっちかというと警備なのか軍服姿の方が目立つ。機関車の吐き出す蒸気の臭いが立ち込める中でよく磨かれた木のベンチに腰掛けると、乙女が横にくっついてきた。

「なんか、映画みたいですね。こういう電車……じゃないか。汽車?初めて見ました」

「ね。ホームの屋根も綺麗」

 ホームにかかっている屋根には明かり取りの窓が開いていて、そこのステンドグラスみたいな凝った装飾が色とりどりの光を落としている。この時代の技術的な限界で大きな一枚窓が大変なのかもしれないけど、こういう工夫っていいよね。きらきらした目で見上げている乙女は士官服ベースの軍服姿で、徽章だけ階級章ではなく小鳥が羽根を広げた意匠になっている。騎士になるにあたって私に与えられた紋章だ。誰が決めたのかは知らないけど、大佐だとしたら私を「コートリー」ではなく「小鳥」と認知していることになる。つまり日本語を完璧に理解したうえでこの紋章を決めたことになる。とても怖い。いやでもあり得ない話ではないんだよな。地図で見る限り、この世界のこの時代にも日本はあるっぽいし。大佐は極東植民地に駐在武官として派遣されていて、現地のいくつかの言語には馴染みがある。民俗学の研究者でもあるので、諸外国語の辞書辞典の類は館にも置いてあった。『乙女=聖乙女=マリーア』の例もあるし、わりと可能性はある話なのだ。

 ベンチであれこれおしゃべりしているうちに、灰色の煙を吐き出す機関車が近付いてきた。二両……三両連続した機関車が、かなり長さのある列車を引っ張っている。途中に窓の少ない無骨な車両が混じっていて、見間違えでなければ隙間から機関銃がにょっきり生えていた。装甲列車ってやつ?軍服姿の兵士もやけに多い気がする。臨時編成って言ってたけど、軍用ってことか。次々通り過ぎていく車両を見送っていたら、やけに派手な金の縁取りが入った客車が流れてきた。中央には帝国の象徴、鷲の紋章入り。窓にはカーテンが引かれていて中は見えないが、やたらと重厚感のあるそれに嫌な予感が増していく。

 気が付けば大佐が横に立っていた。腕時計を確認すると、私ににっこり微笑みかけてくる。

「定刻通りですね。貨物の積み下ろしが終わったらすぐ出発しますので、我々も」

「あの、大佐?」

「はい、何でしょうか」

「この列車って、ひょっとして」

「皇帝陛下の御料車です。帝都まで我々も同乗させていただくことになりました」

 やっぱり。だから事前に教えてくれないかな?そういうサプライズはいらない。

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