96
次に運び込まれてきたのは、上半身に火傷を負った兵士だった。右腕から首にかけて桃色の瘢痕が残り、顔と胸にも白い痕が広がっている。右目は失明しているようで白く濁っていた。腕の形は残ってはいるが、完全に固まって動かないようだ。
「……行きます」
緊張した面持ちの乙女が騎兵銃を掲げると、銃口から光がぽつぽつ飛び出した。私のものより若干赤みがかっているように見えるそれが処置室を漂い、一つ、また一つと兵士の体に降り注ぐ。その度に皮膚がじわじわと延び、痩せた肉が盛り上がっていった。ふわふわ飛び交う光が最後に右目に触れると、明るい茶色の瞳が瞬いた。
ふうっと大きく息を吐く乙女の額には、ぽつぽつ汗が浮いている。最近は負担を感じないせいで忘れていたが、そういえば私も最初はぶっ倒れたりしていたっけ。もはや懐かしい。
「どう?疲れた?」
「はい……。思ってた以上に。でも、大丈夫です」
そう言う乙女の顔は、やりきった感じですっきりしていた。これで不思議パワーその二、治癒も習得。第二の聖女誕生だ。
感謝の言葉を述べる兵士に対応する彼女は、私よりも聖女っぽく見える。神の加護を受けるのは無垢で純真な少女の方が似合うよね、やっぱり。
火傷の彼で本日の治癒は終了だったので、スザナと別れて乙女と二人、館に向けてぶらぶら歩いていく。大佐の館と軍病院はどちらも郊外にあって、歩いて二十分くらいだ。街の中心部までは反対に進んで三十分くらい。のどかな田園風景が広がるこの辺りも、冬になると少し寂しい感じだ。治癒で疲れているのか口数の少ない乙女と並んで、薄曇りの空の下をゆっくり進む。
乙女の治癒の力。今日は辛そうだったけど、繰り返しているうちに変わってくるだろうか。光の色がどこか違う感じがしたのは……個性みたいなもの?よく分からない。
乙女の能力発現を、大佐に報告した方がいいだろうか。
治癒の力があると分かれば、大佐の彼女に対する扱いも変わってくるだろう。今までも丁重ではあったけど、今後は第二の聖女として扱われることになる。場合によっては、私とは別行動でその能力を発揮するよう求められるかもしれない。
横を歩く乙女の頬は、寒さで少し赤くなっている。まだまだ子供の彼女に、戦場で立ち回ってほしくはない。治癒や防御は、彼女の安全のためには必要だと思う。何もできない東洋人の女の子がすんなり生きていけるほど、この世界が甘いとは思わない。利用価値があると思わせるのは大事だ。報告しなかったとしても、あの大佐のことだからすぐ察するだろう。それなら先に伝えた方が面倒は少ないかもしれない。でも……。
空の高いところで、小鳥が円を描いて飛んでいる。吐く息が白く広がり、そして消えていった。