教室で聞こえる寝言に耳をすませた結果
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
台湾島の中華民国にある学校なら何処でもそうだけど、昼休みの半分は昼寝の時間に充てられているの。
勿論、私こと曹林杏が通う台南市立福松国民中学も例外じゃないよ。
だけど今日に限っては、目が爛々と冴えて眠れないんだよね。
仕方ないから机に突っ伏していたんだけど…
ああ、駄目だ…
両隣の席に座った菊池須磨子さんと王珠竜ちゃんの寝言で、気が散っちゃうよ。
しかも始末の悪い事に、二人とも「起きてるの?」と誤解する程にハッキリした寝言だからね。
「えっ、熊本の大叔父さんの十七回忌?私も行くべきなのかな?」
寝言とは言え、菊池さんったら相当困惑してるな。
確かに菊池さんは日台ハーフだけど、本人は台湾生え抜きだからね。
そんな菊池さんにとって、日本は謂わば異郷の地。
心の準備なしに行く事になったら、相当に困るだろうな。
そして家族に関する夢を見てるのは、珠竜ちゃんも同様みたい。
「へえ、留学生同士でハロウィンイベント?良いじゃない、お姉ちゃん!」
どうやら珠竜ちゃんは、日本の大学に進学した五歳上のお姉さんの夢を見ているみたいだね。
こうして夢の中で会話している辺り、珠竜ちゃんもお姉さんの事が恋しいんだろうな。
そうして菊池さんと珠竜ちゃんの寝言に聞き耳を立てていたら、思わぬ事態が起きちゃったんだ。
「日本の法事って何を着て行けば良いんだろうね?そもそも熊本までどうやって行くの?」
「いっそ殭屍になり切ったら?ピョンピョン跳ねて行けば、ウケると思うよ。」
まさに偶然の産物。
単なる寝言が、ここまで上手く噛み合うとはね…
「プッ…アッハハ!」
お陰で笑いを堪えられずに吹き出しちゃったの。
「喋っちゃ駄目よ、曹林杏さん!」
「あっ!御免なさい…」
当然だけど先生に速攻で注意されちゃったよ。
何とも情けない限りだけど、バツの悪い思いはまだ終わらないの。
怪しさ全開の私の言動は、珠竜ちゃん達の注目を集めちゃったんだ。
「マズいよ、林杏さん。昼寝の時間に爆笑するなんて。」
優等生な珠竜ちゃんに真顔で言われちゃうと、私も立つ瀬が無いよ。
「それにしても、林杏さんったら何がそんなに面白かったの?そんなに凄い夢でも見たの?」
菊池さんなんか、もう食い気味に問い詰めて来るんだもの。
「いや、ちょっとね…」
言えやしないよ、殭屍の格好をした菊池さんが日本の法事に参列する姿なんて。
はぐらかすのに、本当に骨が折れたなぁ。
他人の寝言に聞き耳を立てるなんて、もう懲り懲りだよ…