戦い続ける理由
戸田忠次「……そうですね。井伊様も実の男子は居ません。養嗣子。直親様を迎え入れてはいますが、家中の中に。これを快く思っていない者が存在します。もし此度のいくさで井伊様が。となりました場合……。」
戸田宣光「ひと悶着?」
戸田忠次「はい。直親様の実の父君は、井伊家重臣の讒言によって亡き者にされています。その成功体験を知る人物が井伊家に残っていますので。」
戸田宣光「ところで忠次。」
戸田忠次「はい。」
戸田宣光「此度のいくさについて1つ聞きたいのだが?」
戸田忠次「答える事が出来る範囲でしかありませんが。」
戸田宣光「ではお尋ねする。」
……いつまで続けるのだ?
戸田宣光「うちの総大将は今川義元様。その義元様の意向により此度のいくさは始まった。」
戸田忠次「はい。」
戸田宣光「織田による兵糧攻めに苦しむ鵜殿様を救い、大高城までの動線を確保する事が最大の目標であったと聞いているがこれに?」
戸田忠次「間違いありません。」
戸田宣光「大高城からの出入りを阻む鷲津と丸根の砦を手中に収める事に成功した。」
戸田忠次「はい。」
戸田宣光「この成果に気を良くした殿は、鳴海城の安全も確実なものにするため中島丹下善照寺の砦に照準を定めた?」
戸田忠次「はい。」
戸田宣光「その途中、殿はお亡くなりになられた。」
戸田忠次「はい。」
戸田宣光「中島丹下は落としたが、善照寺は……。」
戸田忠次「佐久間信盛以下意気軒昂であり、兵糧が尽きるまでには多くの月日を費やさなければならないと見ています。」
戸田宣光「善照寺を奪う事が出来れば、鳴海の出入りも容易になる。これはわかる。此度信長が善照寺を経由した事も聞いている。善照寺を奪えば、沓掛大高間の安全をより高める事が出来る。それもわかる。しかし善照寺が鳴海を抑えているように、鳴海も善照寺に睨みを利かせている。丹下中島は我が手にある。鳴海から善照寺に向け兵を動かす事も可能となっている。今、無理をして攻めなくても良い様に思うのだが?」
戸田忠次「理由は2つあります。亡き殿が指示した最期の意志を達成したいのが1つであります。しかしこれは現実的な目標ではありません。」
戸田宣光「だろ?」
戸田忠次「はい。しかし善照寺を囲う。織田家筆頭家老である佐久間信盛を窮地に立たせる事に意味があります。」
戸田宣光「と言うと?」
戸田忠次「それが2つ目の理由であります。それは……。」
織田信長に奪われた今川義元と、同地で亡くなられた方々の亡骸をそれぞれの国許にお運びするためであります。




