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今川義元から無慈悲な要求をされた戸田康光。よくよく聞いてみると悪い話では無い。ならばこれを活かし、少しだけ歴史を動かして見せます。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
桶狭間の戦い

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回送

 連戦続きの松平元康と朝比奈泰朝を沓掛に戻した朝比奈信置は、岡部元信の居る鳴海城を拠点に善照寺砦の包囲を強化。中島砦に井伊直盛。星崎と丹下砦に葛山信貞。そして信置自らは善照寺の東側を抑えながら清州方面からの反撃に備えたのでありました。

 一方、織田方で刈谷城主水野信元の北進を阻止するべく西尾城の牧野保成が陸から。布土城の戸田尭光が海から。それぞれ水野領の圧迫を指示。そして長い間、飢えに苦しんでいた大高城主鵜殿長照に対しては……。


戸田忠次「伊丹様。遠いところから御足労いただきありがとうございます。」

伊丹雅勝「朝比奈様からの急な報せ故。少々時間が掛かってしまいました。お詫び申し上げます。」

戸田忠次「いえ。これだけの船を用意する事が出来るのは伊丹様をおいて他に居ませんので。」

伊丹雅勝「……確かにな……。」


 伊丹雅勝は摂津の生まれながら、幼少期。管領細川氏の抗争に巻き込まれ摂津を脱出。様々な国を流浪した後、迎え入れられたのが駿河の今川氏。そこで同朋衆として仕えながら義元の信頼を高め。現在は今川水軍の一翼を担うまでに出世を果たした人物。


伊丹雅勝「しかし目立ち過ぎてしまったな……。途中の佐治に通行料を払おうとしたのだが、断られてしまった……。」

戸田忠次「それで良かったと思います。」

伊丹雅勝「ん!?何故そう思うのだ?」

戸田忠次「佐治様は今川の家臣でありますが、織田や水野とも通じているからであります。今川と織田がこのような状況にある中、伊丹様の船を。信長の経済の源泉とも言える熱田や津島に通じる海を通す事は許されません。しかし戦ってしまいますと、今川との縁を断ち切る事になります。知多南部と付け根は今川の権益。それに挟まれている佐治が今川と袂を別つ事は不可能であります。」

伊丹雅勝「『戦って勝てる相手では無いため素通りさせた。』

の言い訳をするのに丁度良かった。と言う事か?」

戸田忠次「その通りであります。勿論、これだけの船が必要であったからお願いしたのでありますが。」

伊丹雅勝「そうだな。鵜殿様と城兵の様子を見ると……。」


 陸路での移動は難しいな……。


戸田忠次「しかし船旅も楽なものではありません。それにひとたび病が発生してしまいますと、船内全体に深刻な被害を及ぼす恐れがあります。故に体力の回復は必要不可欠でありました。遠方からの回送をお願いした理由は、そこにもありました。」

伊丹雅勝「……わかった。鵜殿様と城兵を無事に帰還させる事を約束する。で。そんなに多くは無いが、(積み荷を指差し)氏真様からだ。兵糧に使ってくれ。」

戸田忠次「ありがとうございます。」

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