しんがり
朝比奈信置「今、あそこに居る森は恐らく殿軍。信長を逃がす時間稼ぎのために留まっていると見て間違いは無い。忠次の見立ての通り、森の玉薬が枯渇している可能性が高い。しかしもし森が玉薬を隠し持っていた場合、我らは計り知れない打撃を被る恐れがある。」
戸田忠次「……はい。」
朝比奈信置「勿論、その危険を冒してでも森を討ち果たす事が出来れば大戦果。狙う価値はある。ただ……。」
そこに信長が居ない以上、避けるべきである。
朝比奈信置「信長はこのまま清州に帰る。清州には多くの兵とそれを束ねる事が出来る将が居る。すぐ反撃に打って出ると見て間違いは無い。そうなった時……。」
松平元康と朝比奈泰朝の部隊が耐える事が出来るのだろうか?
朝比奈信置「泰朝は鷲津砦を奪った直後に移動したばかりでなく、いつ大高城方面で異変が発生しても良い様対応している。元康に至っては大高城への兵糧搬入からの丸根砦の攻略。休む間もなく中島、善照寺の砦へ兵を展開させている。皆強兵ではあるが、疲れが出ていないはずは無い。彼らの手立てをしなければ、信長の反撃に対処する事は出来ない。唯一対処する事の出来るのが私が率いている部隊である。森可成との戦いに兵を損耗させる事は許されぬ。」
戸田忠次「……はい。」
朝比奈信置「今すべき事は、森にこれ以上の侵入を許さない事が1つ。もし奴が我らに挑み掛かって来るのであれば仕方が無い。」
戸田忠次「はい。」
朝比奈信置「ただ奴が退却を試みた場合は……。」
追い掛けない。
朝比奈信置「森が退却する事は信長が安全地帯に退いた事を意味する。つまり追い掛けても無駄。加えて森は我らよりもこの地に詳しい。何処で待ち構えているか定かでは無い。」
戸田忠次「はい。」
朝比奈信置「それに信長と森が退いた方が良い点もある。それは……。」
沓掛城から大高城の間が安全地帯となる事を意味するからである。
朝比奈信置「そうなれば今、大高城方面も手入れしなければならない泰朝を中島に回す事が出来る。元康を沓掛に移動させ、休ませる事も出来る。そして私が後顧の憂い無く、善照寺攻略に乗り出す事が出来る。
此度の目標は大高城と鳴海城の安定化。そのためには両城を取り囲む砦を取り除く必要がある。大高城周りは達成する事が出来た。後は鳴海城を囲む3つの砦である。」
戸田忠次「力攻めをされるのでありますか?」
朝比奈信置「丹下と中島はその予定である。しかし善照寺は違う。包囲した上、兵糧攻めにする予定である。」
戸田忠次「それでは信長に反撃されてしまうのではありませんか?」
朝比奈信置「まぁな。でも私の狙いは別の所にある。」




