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今川義元から無慈悲な要求をされた戸田康光。よくよく聞いてみると悪い話では無い。ならばこれを活かし、少しだけ歴史を動かして見せます。  作者: 俣彦『短編ぼくのまち』
桶狭間の戦い

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同じ事は

朝比奈泰朝「ところで戸田殿。」

戸田忠次「はい。」

朝比奈泰朝「信長が首実検をしている場所は丘陵地の上ですか?」

戸田忠次「はい。」

朝比奈泰朝「上となると厄介ではあるが……。」

戸田忠次「と言われますと?」

朝比奈泰朝「ここは見ての通り山頂は広く丘となっていますが、斜面は急であります。そのため遠くから近付く敵に気付く事は容易である一方。」


 斜面の真下に居る敵を発見する事が難しい。


朝比奈泰朝「そればかりか……。」


 急坂であるがため、山の中腹まで敵が登って来ても、気付かない可能性がある。


朝比奈泰朝「遠くを気にしさえすれば良い事が災いとなる可能性がある。信長を追い払うためだけであるのなら、数を見せつければそれで良い。しかし此度は違う。確実に信長を仕留めなければならない。後はどのようにして……。」

戸田忠次「朝比奈様。」

朝比奈泰朝「戸田殿。如何為されました?」

戸田忠次「朝比奈様の考え、御尤もであります。しかしこの考え。恐らく信長も同じ事を考えていたものと思われます。」

朝比奈泰朝「ん!?」

戸田忠次「その証拠が……。」


 ここ桶狭間であります。


戸田忠次「今川様は敵の攻撃を全く想定していたわけでは無い事が、この見晴らしの良い。敵をいち早く発見することの出来る場所に陣を構えた事が示しています。しかし誤算が生じました。それが……。」


 豪雨。


戸田忠次「であります。辺りを見通す事すら困難な土砂降りにより、信長を発見する事が出来なかったと見ています。同じ事は信長にも言える事。その事を忘れ、あそこで首実検をしているとは到底思えません。恐らく信長は、首実検をしている姿を餌に。我らを誘き寄せようとしているのでは無いかと。」

朝比奈泰朝「しかしこのまま殿を晒し者にするわけには行かぬ!たとえ罠であったとしても、駿府にお連れしなければならぬ!!」

戸田忠次「私も同じ意見であります。」

朝比奈泰朝「では!」

戸田忠次「私は

『信長と戦う事を止めよ。』

と言っているのではありません。

『今すぐ信長の陣に突っ込むのは避けた方が良い。』

と申しているのであります。」

朝比奈泰朝「それをしてしまったら!」

戸田忠次「信長が殿を連れ、清州に帰ってしまう事を心配されているのでありましょう?」

朝比奈泰朝「愚問!!」

戸田忠次「そのような真似はさせません。信長が今、首実検をしている場所が奴の墓場になります。」

朝比奈泰朝「……何か策があるのか?」

戸田忠次「はい。我らの得手を最大限に活用しましょう。」

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