後巻
松平元康は大高城へ搬入する兵糧米と共に沓掛城を出陣し、大高城から半里程離れた地点に到着。そこで……。
酒井忠次「殿。ここから先。何処から敵が飛び出して来るかわかりません。」
石川家成「此度は大高城に兵糧を入れた後も役目があります。兵の損耗を抑えなければなりません。殿の見解をお聞かせ願いたい。」
松平元康「敵は我らが丸根と鷲津を強行突破すると見ているに違いない。実際、その通りである。どうせ戦わなければならぬ相手。一戦交える分には構わない。ただ注意しなければならないのが……。」
鳴海城に睨みを利かせている丹下砦と中島砦。
松平元康「丹下と中島は、善照寺と違い鳴海と地続きでは無い。故に一時、砦を手薄にしても問題は無い。つまり……。」
大高城へ動いたのを見計らって、丹下中島からも織田の兵が襲い掛かって来る可能性がある。
松平元康「故に遮二無二突っ込む事は出来ぬ。それならば……。」
鷲津砦。
「申し上げます。」
「ん!?」
「砦が囲まれています。」
松平元康と岡崎の衆で出来る事は、兵糧を運び入れる事とその護衛のみ。とてもでは無いが、鷲津砦を取り囲む余裕は無い。松平元康が大高城への搬入を後回しにした。と言うわけでもなく……。
「左三つ巴の旗印。朝比奈泰朝であります!」
松平元康は大高城搬入の手助けを朝比奈泰朝に依頼。とは言え朝比奈が鈍足の搬入部隊に付いて行くだけでは芸が無い。大高城の安全を確保するためには、攻め落とさなければならない砦であるのだから……。
朝比奈泰朝「味方を囲んでいる敵を更に外から囲むのでありますね。」
松平元康「鷲津が囲まれれば、丹下中島の両砦も鷲津の救援に対応しなければなりません。丸根は大高の事が気になりますので身動きを取る事が出来ません。ただ丹下、中島の兵も相手にしなければならなくなりますが……。」
朝比奈泰朝「殿にくっついている連中の中で、使えそうな奴を引っ張ります。」
松平元康「ありがとうございます。」
朝比奈泰朝は井伊直盛を引き連れ鷲津砦を攻撃。思わぬ敵襲に他の砦が浮足立つ中、松平元康は部隊を動かし、見事。大高城への搬入を果たしたのでありました。
鵜殿長照「松平殿。ありがとうございます。」
松平元康「敵に囲まれる中、良くお守りなされた。今川義元に代わり御礼申し上げます。しかし我らにはまだ任務が残っています。兵糧の整理を……。」
鵜殿長照「お任せ下さい。……松平殿。すぐに出られるのでありますか?」
松平元康「我らは朝比奈様に助けていただきました。その朝比奈様は今、いくさの真っ只中。今度は我らが朝比奈様を助ける番であります。」




