兵糧入れ
松平元康「『大高城へ兵糧を入れよ。』
でありますか!?」
今川義元「左様。先のいくさの報告を受け、其方が適任である。と見込んでの事である。」
松平元康「有難いお言葉ではあります。」
今川義元「奥歯に何かが挟まっている物言いだな。遠慮せずに申してみよ。」
松平元康「はい。大高城は敵に囲まれ、安全に行き来する事が出来る最寄りの沓掛城からも距離が離れています。城代の交代をする際、その都度織田といくさをしなければならない。と聞いています。」
1559年の大高城代交代の際、島田菅沼氏の菅沼久助等当地に入る予定の無い国衆も招集。彼らの助けを借りる事により、やっと包囲を突破する事が出来たのでありました。
松平元康「此度の役目は兵糧の搬入。大高城には多くの兵が駐屯しているため、届けなければならない兵糧は大量。多くの人手が必要となりますし、当然動きも鈍くなります。そのような方々を守りながら敵の包囲を突破しなければなりません。それ相応の規模の兵が必要となります。
加えて此度は片道ではありません。兵糧の搬入を終えた後、帰らなければなりません。そこまでを想定した場合、岡崎の衆だけでは難しいと考えます。」
今川義元「……なるほど。ならばこうするか?」
松平元康「どのように。でありますか?」
今川義元「兵糧に搬入した後、其方がそのまま大高に留まる。と言うのはどうだろう?さすれば帰りの心配をしなくても良くなる。如何であろうか?」
松平元康「……そうですね……。」
今川義元「不満な点があったら申してみよ。」
松平元康「今の大高城の状況を教えていただけますか?」
朝比奈泰朝「包み隠さず申しますと、兵糧は枯渇寸前であります。現在は草木の実を食べ、飢えを凌いでいます。」
松平元康「斯様な地に岡崎の衆を放り込むわけにはいきません。私独りが残ります。」
今川義元「そうでは無い。」
松平元康「何がそうでは無いのでありますか?我ら松平の者が、自らの手と足で運んだ物だけでは敵の攻撃と味方の士気を維持する事は出来ません。他に居ないのでありましょう。兵糧を運び入れる事が出来る人材が。この今川には。」
朝比奈泰朝「元康様。言い過ぎでありますぞ。」
今川義元「いや。……確かにその通りだ。其方以外に大高城へ兵糧を運び入れる者は居ない。しかし私は其方と其方の家臣を棄てるために大高城への兵糧の搬入と大高城の守りを頼んでいるのではない。」
松平元康「……と言われますと?」
今川義元「此度は……。」
私も動く。




