寺部城の戦い
今川義元が松平元康に攻略を命じた寺部城は今の愛知県豊田市にある城。15世紀中頃に鈴木重時が築城し、周辺地域を支配。16世紀に入り、鈴木重教が岩津城付近で松平清康と戦闘する等勢力の拡大に奔走。しかしその後三河に進出して来た今川義元に服属したのでありましたが……。
石川清兼「織田信長に誑かされ離反。今に至っています。」
酒井忠尚「元康様。如何致しましょう?」
松平元康「寺部を落とさぬ限り、我らに次は無い。是が非でも勝たねばならぬ。」
石川清兼「御意。」
松平元康「ただ敵は城に籠っている。力攻めは得策では無い。」
酒井忠尚「はい。」
松平元康「鈴木重辰は織田からの支援を受けているため、武具兵糧に不足は無い。しかし兵糧はいづれ尽きる。それまで囲い続けるのも選択肢の1つではあるが、気になるのは後詰めの存在。幸い今川様が織田(信長の弟)信勝の調略に成功。織田家中が分裂しているため信長自らがここに来る事はあり得ない。残るは……。」
松平元康は寺部城を攻めた際、後詰めに来る事が予想される広瀬、挙母に梅坪。そして伊保の城砦を瞬く間に攻略。後顧の憂いを断った元康は全軍で以て寺部城を包囲したのでありました。が、ここで気になる情報が……。
「申し上げます。水野信元が出陣。行き先は不明であります。」
石川清兼「寺部には影響は無いと考えますが……。」
酒井忠尚「しかし今、他に水野が動く動機は無い。もし奴がここに向かっているのであれば厄介。」
松平元康「時間を掛けるわけには行かぬか……。」
石川清兼「我らは殿の為でありましたらいつでも命を投げ打つ覚悟にあります。」
松平元康「いや。ここで兵を損耗させてしまっては、水野とのいくさに支障を来す事になる。力攻めは避けるべき。……石川。」
石川清兼「はっ!」
松平元康「命を投げ打つ覚悟がある。と申したよな?」
石川清兼「はい。」
松平元康「それならば……。」
その夜。寺部城に火の手が。炎は瞬く間に城を覆い尽くし、城内は大混乱。慌てて飛び出して来た者共に対し、予め待ち伏せしていた松平隊が迎撃。翌朝。寺部城は陥落。
酒井忠尚「鈴木重辰に間違いありません。」
石川清兼「善し。それでは勝鬨を……。」
松平元康「上げるのはまだ早う御座います。いくさはまだ終わっていません。」
鈴木重辰の亡骸を確認した松平元康は兵を展開。狙いは寺部城救援のため出陣していた水野信元。両者は今の愛知県大府市にある石ヶ瀬で遭遇。思わぬ敵襲に驚いた水野隊は、矢合わせするも退却。更に追い縋ろうとする松平隊に対し、
松平元康「もう良い。所期の目的は達した。これ以上深入りするのは危険である。」
と下知。兵をまとめ、岡崎城への帰還を果たしたのでありました。




