康光の死
阿知波城の攻略を終えた戸田宣光は二連木城に帰還。軍目付を務めた戸田忠次も駿河に戻らず同行。その理由は……。
戸田忠次「お加減如何でありますか？」
戸田康光「おぉ。忠次か。久しぶりじゃの。」
戸田康光に会うため。岡崎城に在番していた康光が何故二連木に。それは……。
戸田康光「なぁに。大したことは無い。少し疲れが出ただけである。案ずるな。」
体調不良。戸田康光は今川義元より岡崎城での役目を解かれ、二連木において隠居生活に入ったのでありました。
戸田康光「駿府に戻るのか？」
戸田忠次「はい。今川様に此度のいくさを報告し、論功の任にあたります。」
戸田康光「それは何より。」
戸田忠次「ところで岡崎には誰が入られたのでありますか？」
戸田康光「朝比奈（泰能）様の御嫡男が務める事になった。私はもう用無しになってしまったな。」
戸田忠次「斯様な弱音を吐かれてはなりません。」
戸田康光「自分の身体は自分が一番知っている。今はのんびりさせていただく事とする。」
別の部屋。
戸田宣光「見ての通りである。父は長くない。」
戸田忠次「……。」
戸田宣光「あの場では言っていなかったが、父は忠次の事に感謝していた。今川とのいくさを決意したあの時、思い留まらせてくれた事を。」
戸田忠次「私は何もしていません。父光忠の前で独り言を呟いただけであります。」
戸田宣光「その選択肢を提示していただけなかったら、今頃我らはどうなっていたかわからぬ。父に代わり御礼申し上げます。」
戸田忠次「頭を下げられましても困ります。」
戸田宣光「三河が乱れ。織田、水野との争いも激化している。今川様が我らをどう起用するのか見えない。兄も含め、我らはこれ以上の権益の拡大を望んでいるわけでは無い。無いが、私は二連木。叔父上は大津。そして兄は田原に知多と活動拠点が分かれている。いつ誰が楔を打ち込んで来るかわからない状況にある。織田、水野の恐れもあるし、味方である今川が仕掛けて来る可能性もある。
太原様が亡くなられ。朝比奈（泰能）様の体調思わしく無く三河に顔を出す事が無くなってしまわれた。そして父も……。今、我が家中で今川様と話を繋げる事が出来るのは駿府を行き来する事の出来る忠次。其方をおいて他にはいない。地味な仕事であり、必ずしも実入りの良い仕事でも無い。括弧付ではあるが、人質の役目も背負わせてしまっている。申し訳無いと思っている。」
戸田忠次「いえ、私のような者が家の役に立つのでありましたら喜んでお引き受け致します。」
その年の末に戸田康光。翌年には朝比奈泰能が逝去。今川義元は三河支配の再構築を迫られたのでありました。
