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手詰まり

 阿知波城攻略の緒戦に惨敗した今川軍。しかし兵数や武器の量で敵を圧倒している状況には変わりが無い。ただ地の利は敵方。何処から何が飛び出して来るかわからない状況にあり、迂闊に近付く事は出来ない。


 少し戻って駿府。


太原雪斎「御味方が手詰まりになった時が其方の出番であります。兵の数で以て敵を城に追い込みます。後は兵糧攻めに持ち込み、飢えに苦しませれば勝手に崩れていきます。しかし注意しなければならない点があります。それは……。」


 味方が今川直轄では無い事。


太原雪斎「今川が上位ではありますが、国衆は独立した勢力であります。故に今川は国衆にお願いする立場にあります。これは私も同様であります。安祥でのいくさがその事例になるかと。」

戸田忠次「はい。」

太原雪斎「長期間の攻城戦は現実的な作戦ではありません。しかし忠次殿が意見を述べる時は、味方が手詰まりになってしまった時。短期での決着は望めない状況にあります。現地に通じる方が困っている中、詳しくない忠次殿が良い意見を出すのは難しい。」

戸田忠次「……そうですね……。」

太原雪斎「その場合……。」


 阿知波城。

 先手を討ち取る事に成功するも、今川勢は多くの兵力が残されている。数で以ての力攻めを想定し、木戸柵側の備えを強化する城方。そんな中……。


「申し上げます。」

「ん!」

 

 戻って駿府。


太原雪斎「城攻めを短期で終わらせる方法としましては、撤退。」

戸田忠次「それも選択肢に……。」

太原雪斎「勝てない時は無理をしてはいけません。次に甚大な被害を覚悟の上での力攻め。被害を少なくしたいのでありましたら内部分裂も視野に入ります。ただこれらも難しい。しかし勝利を収めたいのでありましたら……。」


 阿知波城。

 戸田忠次は、牧野家家臣能勢甚三に宝飯郡千両からの山越えを依頼。能勢はこれを快諾し実行。現れる事等あり得ない城の背後からによる敵方の侵入に阿知波城内は大混乱。これを確認した戸田忠次は総攻撃を指示。後は多勢に無勢。木戸柵を破られた所で城方は降伏。今川方が勝利を収めたのでありました。


 戻って駿府。


太原雪斎「論功につきましては、成果を上げた方が不満を覚えないようにする事が第一であります。しかし注意しなければならない事があります。」

戸田忠次「どのような事でありますか?」

太原雪斎「身内同士による諍いであります。勝った側負けた側双方が身内の場合、負けた側の権益を恩賞に用いるのはお勧めしません。次の火種になってしまいますので。ですので極力感状。出しても金銭で対応した方が良いと考えます。」

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