なぜそこに
刈谷城近く朝比奈泰能本陣。
伝令「申し上げます。村木砦に敵兵。戦闘に突入しています。」
朝比奈泰能「緒川から打って出たか……。敵兵に気になるものは無かったか?」
伝令「黄色に永楽通宝が3枚の旗印がありました。」
朝比奈泰能「黄色に永楽通宝……信長の旗印では無いか!何故あいつが村木に居るのだ!!」
戻って熱田。
織田信長「船を出すぞ。」
船頭「織田様。今日の風では船を出す事は出来ません。」
織田信長「一刻でも早く水野の下へ赴かなければならぬ。」
船頭「そのお気持ち。重々承知しています。しかしこの風で船を出すのは危険であります。風が止むのを待ちましょう。」
織田信長「だから出すのだ。」
船頭「と言われますと?」
織田信長「知多半島の大半は今川方。穏やかな波を待って船を出しては敵に狙われる事になる。其方も嫌がると言う事は敵も嫌がっている事を意味する。安全に緒川に辿り着くのは今しかない。」
船頭「……しかし。」
織田信長「何かあったら末代まで面倒を見る。頼む。」
船頭「何かあった時は、織田様も無傷ではありませんよ。」
織田信長「お頼み申す。」
船頭「……仕方ありません。信長様とは長年の付き合い。ただ責任は持てませんよ。」
織田信長「ありがとうございます。」
冬の季節風吹き荒ぶ中、織田軍を乗せた船が出航。信長の予想通り、知多半島の今川方で妨害を試みるものは無し。知多半島を回った織田軍の船は水野信元の権益である衣ヶ浦に入り、緒川城に到着。すぐにでも兵を動かしたい信長が周囲を叱咤するも織田兵の多くは船酔い。流石に戦うのは難しいと判断した信長は緒川城に宿泊。そこに訪ねて来たのが……。
水野信元「信長様。驚きましたよ。まさかこの風の中、船で来られるとは……。」
織田信長「陸路が使えない以上、これしか方法は無かった。」
水野信元「戸田も指を咥えて眺めるしか無かった事でありましょう。」
織田信長「逆に帰りが危ない。故にこのいくさ。勝つ他無い。村木の状況を教えていただきたい。」
水野信元「はい。砦の北側が手薄ではありますが、攻め込むには不向きであります。」
織田信長「ふむ。」
水野信元「北を除く三方から迫る事になりますが、敵も備えを怠ってはいません。東西に堅固な門。南は深い堀に守られ。壁に狭間を設け、弓矢で退ける考えであると見ています。多くの損害を覚悟しなければなりません。」
織田信長「なるほど。その中で最も攻め難い場所は何処になる?」
水野信元「南であります。」
織田信長「……わかった。ならば南は私が受け持つ。日の出と同時に戦闘に入る。」




