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太原雪斎「戸田殿と竹千代様が駿府に赴く際、吉美で別れていただきました事。覚えておられますでしょうか?」
戸田忠次「はい。竹千代様は堀江まで船で。そこから陸路駿府に向かわれたと聞いています。私は佐鳴湖まで船に乗せていただきまして曳馬。そこから天竜川に出。あとは船で見付に向笠。馬伏塚そして高天神と見せていただきました。」
太原雪斎「竹千代様は?」
戸田忠次「曳馬に見付、向笠。久野と掛川を経て駿河に入られたと聞いています。」
太原雪斎「何かお気付きになられた事、御座いますか?」
戸田忠次「……全て今川様が直接管理されている?」
太原雪斎「はい。戸田殿と竹千代様に見ていただいた場所は全て今川が拠点として管理。多くの家臣が駐留しています。そしてここに掛かる費用は基本、本国である駿河で賄っています。」
戸田忠次「流石にそれは……。」
太原雪斎「費用については問題ありません。駿河には金山がありますし、海もあります。甲斐の産品は全て駿河を通過しなければなりません。甲斐には海がありませんので。海が無ければ塩を作る事が出来ません。塩は生きていく上で絶対に必要な代物。その甲斐の塩をほぼ独占しているのが我が今川であります。同じ事は信濃にも言えます。」
戸田忠次「……はい。」
太原雪斎「しかし駿河に富を蓄積するだけでは広い遠江を維持する事は出来ません。ですので遠江各地に拠点を設け、そこに多くの家臣を配備。有事の際、すぐに対応する事が出来る体制を採っています。
ただ彼らは現地に派遣された駿河の者。遠江にも所領が無いわけではありませんが、それだけでは足りません。遠江は三河同様。統治は基本。その土地の方に委ねていますので。
そこで重要となりますのが、駿河からの輸送であります。今回、戸田殿に見ていただきましたのは全て補給拠点であります。一方、竹千代様に見ていただきましたのは統治の拠点であります。そして両者は連結しています。佐鳴湖、天竜川は曳馬。見付、向笠は共通。馬伏塚は久野。そして高天神は掛川であります。
今話した内の片方を失った瞬間。もう1つも苦境に立たされる事になります。私が他国に進出を図る際、陸と海双方が。可能な限り同時に進む事が出来るようにしています。」
戸田忠次「佐脇は今橋、長沢。東条は岡崎。西条を押さえる事により安祥を。」
太原雪斎「その通りであります。しかし三河の輸送には問題点があります。お気付きでしょうか?」
戸田忠次「私の父が受け持っている所でありますか?」
太原雪斎「その通りであります。吉美から大津まで陸送になっている事。三河に向かう物資の全てがそこを経由している事。何れ解決しなければならない問題であります。」




