大物
岡崎を出発した松平広忠の嫡男竹千代を連れた一行は無事大津に到着。当主の跡取りは総じて我儘ではあるが、まだ数えで6歳の子供。そこまで神経を使う事もあるまい。と思っていた所……。
戸田忠次「太原様。何故こちらに……。」
太原雪斎「松平は我らにとって無くてはならない同盟相手であり、竹千代様は大事な跡取りであります。万全の態勢で臨みたいと考え、こちらに参った次第であります。」
思わぬ大物が……。
戸田光忠「頼んだぞ。」
戸田忠次「雪斎様が来る事を父上は……。」
戸田光忠「先に言ってしまっては断られると思ってな。」
戸田忠次「……。」
大津を出発した一行は大清水まで北上した後、進路を変え。高師原台地と天白原台地の間に挟まれた梅田川沿いを東へと歩を進めたのでありました。
戸田忠次「太原様。」
太原雪斎「雪斎で構いません。」
戸田忠次「雪斎様。何故このような辺鄙な道のりに同行されたのでありますか?船形山でお待ちしていただければそれで宜しかったのでありますが……。」
太原雪斎「まず言わなければならない事として、今川は戸田様の事を信用していないわけではありません。むしろ心配していたのは岡崎から西郡まで。松平が担当した道のりであります。」
戸田忠次「では何故?」
太原雪斎「其方の父上から話を聞きました。誰が今川との和睦を決め、誰が竹千代様を駿河で保護する事を提案したかであります。戸田様が我らと一戦交える決意を固めていた事は知っていました。我らもいくさをする事を覚悟していました。ただその原因が今川の書状の書き方にあった事を見つけた者が居り、話し合いの余地が残されている事を指摘した者が居た事を。その人物が其方。戸田忠次であったと言う事を。」
戸田忠次「私はただ父に伝えただけであります。」
太原雪斎「いくさを決意した場に其方が居たわけでは無い事を聞いています。いくさをする事実を始めて知ったその時に提示したと聞いていますが、それに間違いは……。」
戸田忠次「ありません。」
太原雪斎「其方の指摘が無かったら、今頃私は戸田様とのいくさに忙殺される事になっていました。織田水野とのいくさで窮地に立たされている松平へ援軍を出す事は出来ませんでした。勿論、今あそこにいる竹千代様を駿河に移送する事等以ての外。その感謝の意を伝えるべく、ここに参った次第であります。」
戸田忠次「嬉しいお言葉ありがとうございます。」
太原雪斎「何か聞きたい事があれば遠慮なく話していただきたい。」




