好機ではあるが
攻めあぐね、立て直しを図るべく退却する事を決断した森可成。しかし本多忠真が仕掛けた柵に邪魔され、兵を動かす事に四苦八苦する織田信広。そして両者に挟まれ密集を余儀なくされる中、見えない敵方の弓矢により側面を狙われる池田恒興。
井伊直盛「ここで突っ込めば、敵に大損害を与える事が出来るのであるが……。」
本多忠真「なりません。森の種子島隊と槍隊が覚悟を決め、踏み留まっています。」
井伊直盛「あそこを突き崩せば……。」
本多忠真「敵方を瓦解させる事が出来ます。」
井伊直盛「しかし其方は……。」
本多忠真「許可しません。」
井伊直盛「もし私が信置様であったらどうする？」
本多忠真「それでありましたら、そもそも私はここに居ません。松平の所にいました。」
井伊直盛「（戸田）忠次の依頼か？」
本多忠真「その通りであります。」
井伊直盛「私が其方の静止を振り切ろうとしたらどうする？」
本多忠真「止める事は出来ません。」
井伊直盛「ただこの行為に……。」
本多忠真「賛同する事はありません。」
井伊直盛「其方の兄であり、忠勝の父である忠高殿の事が……。」
本多忠真「兄の最期。忘れた事等ありません。」
井伊直盛「……そうか。其方が駄目と言うのであれば、うまく行かないと言う事なのであろう。わかった。私はこの門を死守する。」
本多忠真「ありがとうございます。」
井伊直盛「その代わりと言っては何なのだが、池田隊を狙っている弓矢隊を。」
本多忠真「すぐに戻します。」
徐々に渋滞は緩和され、信広隊に続き池田隊。そして井伊や本多の攻撃に警戒しつつ森隊も山を下りたのでありました。そこへ……。
「振り回されに振り回されたらしいな。」
池田恒興「これは！殿！！」
森可成「軍令を違反した事。沓掛を奪えなかった事。全ての責は私にあります！！」
織田信長「いや、いくさは時の運も左右する。気にしなくても良い。それに其方らが動いた事により、良かった事もあった。」
織田信広「と言われますと……。」
織田信長「一時的にではあったが、善照寺周りが手薄となった。今はそうでは無いが。其方らが敵を引き付けている隙を使い……。」
善照寺砦への兵糧の搬入並びに兵の入れ替えを行う事が出来た。
池田恒興「と言う事は信盛様も……。」
織田信長「いや、信盛は引き続き善照寺を担当してもらう。別の者が急に入って対応出来る状況に無いからな。それに……。」
池田恒興「何でありましょうか？」
織田信長「敵が追って来なかったと言う事は、本気で我らと雌雄を決したいわけでも善照寺を奪おうとしているわけでも無い事がわかった。恐らく奴らは……。」
