勇者パーティーの荷物運びは、雨にも風にも負けず、ひたすら勇者たちについていく
王都の城門。大勢に見送られ、華やかに旅立つ若者たちがあった。
世界中を絶望に陥れている魔王を倒すべく、結集された勇者パーティーである。
まずは勇者メーブル。
赤茶色の髪に、一見優男とも見える風貌を持つ青年。
しかし、彼は古の時代、魔神を倒したとされる勇者の末裔であり、その再来とも言われる天賦の才を誇る。
剣術、頭脳ともに優れた智勇兼備の若者である。
二人目は戦士マドック。
体つきはメーブルよりも大きく、彼以上のパワーを誇る。
近年開かれた王国剣術大会にて、ダントツ優勝をしたことから、パーティーに抜擢された。
見た目は眉も太く豪傑そのものであり、見物人の中には「マドックが勇者」と勘違いした人もいたとか。
そして、三人目はカトリーヌ。女の魔法使いである。
長い金髪に露出度の高い紫色のローブを着て、妖しげな魅力を纏う。
むろん、その実力は本物。火、水、土、風、雷と数々の属性の魔法を使いこなし、数々の魔法コンテストを総なめにしてきた。
その実力は魔族や魔王にも通用すると判断され、このたびパーティーに選抜された。
四人目となるのは、女僧侶セレン。
黒髪のおかっぱ頭で、おしとやかな淑女である。
しかし教会のトップ、大司教の孫娘であり、高い神力を誇る。
回復魔法にかけてはまさにエキスパートであり、彼らの冒険の生命線といえる存在となるだろう。
大勢の市民が熱狂的なエールを送り、メーブルも声援に応じる。
「みんな、ありがとう! 僕たちは必ず魔王を倒してきます!」
そして――そんな輝く四人の陰にいる、もう一人の若者がいた。
荷物運びのモアン。
ぼさっとした黒髪頭で、冴えない顔つきの彼の仕事は、勇者パーティーの荷物を運ぶこと。ただそれだけ。
経歴もいたって平凡。王都近くの小さな村出身で、野良仕事をして暮らしてきた。
このたび家族に楽をさせたいという一心で、勇者パーティーの荷物運びに志願する。
腕力と体力は人一倍あるので、荷物運びを任されることとなった。
いわばパーティーの五人目といえるモアンだが、誰も彼を五人目とは思っていない。王も、民衆も、勇者たちも、他ならぬ自分自身も。
かくして勇者パーティーは旅立った。
「勇者メーブルに栄光あれ!」
「マドックさん、お気をつけて~!」
「カトリーヌちゃん、可愛い~!」
「セレン様、どうかご無事で……」
大勢の声の中に、モアンを激励する言葉は一つもなかった。
***
勇者パーティーの冒険が始まった。
輝かしい経歴を持つ彼らだが、魔王の手下である魔族や魔物もやはりそう甘い相手ではない。
悪戦苦闘しつつ、旅を続けていく。
モアンは大きな岩ほどの荷物を背負いながら、彼らの足並みに懸命についていく。
しかし、ついていくばかりではない。彼には次々指示が飛んでくる。
「薬草が切れた! リュックから出してくれ!」とメーブル。
「はいっ!」
装甲の硬い敵と遭遇し、マドックの剣が折れる。
「ちっくしょう、マジかよ! おいお前、予備の剣出してくれや!」
「はいっ!」
カトリーヌから一時的に魔力を増幅させる魔法薬を出してくれと頼まれるが、種類が多く、どれがどれだか分からない。
「紫の小瓶のやつよ! しっかりしてよね!」
「す、すみません!」
荷物運びとはいえ、時にはモアンも傷を負う。手強い魔物からの逃走中に足を挫いてしまうこともあった。
怪我の治療は僧侶セレンの役目だが、やはりモアンの優先順位は低い。
「申し訳ありません、モアンさん。他の方を回復したら、あなたの捻挫を回復しきれませんでした……」
「いえっ、いいんです。ありがとうございます!」
まだ痛みの残る足首を庇いつつ、モアンは歯を食いしばってパーティーについていった。
そして、さすがは勇者パーティー。
苦戦はしつつも、最後には勝利を収める。
今日の相手は巨大な毒トカゲ。カトリーヌが炎魔法で弱らせたところを、メーブルとマドックが剣による波状攻撃で一気に仕留めた。
「やったなぁ、マドック!」
「おうよ!」
モアンは力こそあるものの、戦う術は知らない。
敵が現れれば避難することしかできない彼にとって、堂々と立ち向かう勇者たちはまさに宝石のように煌めいて見えた。
そして、自分には荷物運びしかできないが、その仕事だけはやり遂げようとかげながら誓うのだった。
勇者パーティーの活躍の噂は各地に広まり、行く先々で歓迎されるようになった。
ある都市の市長は、メーブルたちが到着するや否や、国賓を迎えるような態度であった。
「ささ、勇者様たち、こちらへどうぞ。最高級の宿と最高級の料理を用意しております」
「ありがとうございます」
しかし、モアンに対しては――
「え、と、あなたは?」
「ぼくはモアンと言います。荷物運びです」
「ああ、そう……」
市長は「こんなのもいたのか」という態度を隠さない。
どうやら、歓迎の準備は四人分しかないらしい。
「あなたにも宿を紹介しましょう。ささ、どうぞ」
場末のみすぼらしい宿屋に案内される。
部屋には蜘蛛の巣が張っており、ベッドもろくに洗っていないのか、ひどい臭いがした。
しかし、モアンは不満など感じなかった。
勇者たちの役に立てている。そのことが彼の心を十分に満たしていた。
時が経つにつれ、それに比例するように冒険の過酷さは増していく。
出くわす魔物や魔獣は強くなり、特に幹部級の魔族の強さときたら、この世のものとは思えなかった。
さらには国や人々を救うために東奔西走する日々。酷暑や極寒、湿気や乾燥など、環境にも苦しめられる。
それでもモアンは、ひたすらに勇者パーティーについていった。
自分には荷物運びしかできない。だけど、荷物運びは全うしてやる。どんなに暑くても寒くても、雨が降っても風が吹いても嵐でも、彼は歩き続けた。弱音など一つも吐かなかった。
***
そんな日々が半年ほど続き、モアンはついに決定的なミスを犯してしまう。
五人で川にかかった狭い橋を渡っている最中、背後から怪鳥が飛んできた。
最後尾のモアンは、荷物を死守しなければならない場面である。
しかし、反応が遅れた。リュックを爪で引き裂かれ、荷物の大部分が川に落ちてしまった。この川は激流であり、食人魚もいるので、落ちた荷物は諦めるしかない。
「あ、あああ……!」
モアンは責任感から川に飛び込もうとするが、メーブルに止められる。
「よせ!」
冒険の予定を大きく変更せざるを得ない出来事だった。
この日の夕方、野営地で、戦士マドックはモアンを厳しく叱責した。
「ふざけんなよ、てめえ!!!」
顔を真っ赤にし、頭突きするような勢いである。
「すみません……!」
「食料も薬品も予備の武具も……ほとんどパーだ! あれほど背後には気をつけろって言っただろうが!」
まさしくその通りで、モアンとしては謝ることしかできない。
「すみませんすみません、って本当に分かってんのか!? ああ!?」
マドックが胸ぐらをつかみ、拳を振り上げる。モアンは目を閉じる。
しかし、これはどうにか他の仲間が止めた。
マドックはモアンを睨みつけ、吐き捨てるように言う。
「お前はもう荷物運び辞めちまえ。ちょうど近くに大きな町がある。そこ行って、『勇者パーティーとはぐれた』って言いな。悪いようにはされねえだろ」
モアンはこれには答えず、皆を見回す。
魔法使いカトリーヌも、僧侶セレンも、冷たい目をしている。無言だが、その瞳がモアンを「この役立たず」と責め立てる。
メーブルが首にかけていたネックレスを渡す。銀製の高価なものであり、気休め程度だが魔除けの効果もある。
「君ももう限界だろう。これを路銀にするんだ。できれば、僕たちが眠っている間に町に行って欲しい。今までご苦労だった」
勇者パーティーの皆から、クビを宣告されてしまった。
荷物運びモアンの冒険はここまで。
アドバイス通りに行動すれば、モアンはおそらく故郷に戻れる。
明日から五人は四人になるだろう。こうして夜は更けていった。
翌朝になり、メーブルが目を覚まし、テントから顔を出す。
すると――
「モアン……!?」
モアンは土下座をしていた。
どうやら一晩中やっていたようだ。
メーブルが皆を起こし、改めてモアンに話しかける。
「ずっとそうしてたのか……?」
モアンは頭を下げたまま、こう叫んだ。
「続けさせて下さい!!!」
悲痛な叫び声だった。
「荷物運びを続けさせて下さい! もうあんなミスはしません! ぼくは少しでも勇者様たちの力になりたいんです! お願いです! お願いです! お願いですっ……!」
メーブルは仲間と顔を見合わせる。
無言で、何らかのメッセージを交わす。
そして、モアンの肩に手を置いた。
「分かったよ。これからも荷物運び、よろしく頼む」
「ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!」
モアンの熱意が叶った。
どうにか許されることができ、モアンは荷物運びの続行を認められた。
***
勇者パーティーの旅は険しさを増す。
火炎竜、ダークデビル、暗黒道士といった町一つを簡単に滅ぼせるような怪物や魔族と出くわすようになる。
しかし、この頃になるとメーブルたちも大きく成長していた。
「皆さん、回復します!」
セレンの回復魔法で、全員の大怪我が瞬時に治る。
「降り注げ、隕石! メテオスコール!」
カトリーヌも日々の修行を経て、天変地異級の魔法をマスターした。
「どおりゃあっ!!!」
マドックの剛剣は鋼鉄でできた魔導人形をも真っ二つにする。
そして、勇者メーブルはというと――
「灼熱よ、我が刃に宿れ! ――焔滅斬!」
炎魔法を刃に付加させる技を編み出し、大幅にパワーアップを果たした。
厳しい冒険が彼らの才能をさらに開花させた。四人の実力は今やトップクラスの魔族にも引けを取らない。
魔王軍に対し、攻めに回る局面が増えていく。
荷物運びのモアンはというと、彼らの指示にある程度迅速に応えられるようにはなったが、とても戦うことはできないし、せいぜい腕力と体力が多少増したぐらい。
しかし、どうにか以前のような大きなミスはせずに済んでいた。
今日もモアンの目の前で、メーブルたちは勝利を収める。
「すごい……すごいや!」
勇者パーティーの戦いぶりを見て、その姿に感動を覚えるのだった。
そして、ついに――
メーブルたちは魔王城に突入、最奥にいる魔王と激闘を繰り広げる。
その戦いはもはや神話のような凄まじさであり、モアンは見ることすらかなわなかった。
セレンが結界を張った安全な場所で、結果を待つしかない。
モアンは祈るように、彼らの勝利を唱え続ける。
「勇者様たちが勝つ。絶対勝つ、絶対勝つ、絶対勝つ、絶対勝つ、絶対勝つ……」
モアンに遠くにいる仲間に活力を与えるような能力はない。
しかし自分が唱えるのをやめたら、メーブルたちが負けてしまう。そんな気がした。
一心不乱に唱え続けた。
声が潰れるほどに、「絶対勝つ」と唱えた頃、メーブルたちが戻ってきた。
「モアン、勝ったよ」
四人とも、ボロボロだった。余力などどこにもない。
しかし、笑顔だった。
モアンは同じく満面の笑みで、なおかつかすれた声で出迎える。
「やったぁぁぁぁぁ……。すぐ、治療薬を用意しますね!」
こうして一年間もの冒険を経て、勇者パーティーは魔王に勝利し、見事王都に凱旋を果たした。
***
王都で祝勝会が開かれる。
王国最大のホールで、国王自らが進行役となって、勇者メーブルたちを祝福する。
壇上に上がった四人に、民衆が惜しみない歓声を浴びせる。
四人とも、この一年ですっかり顔つきが凛々しくなっていた。
当然である。それだけの修羅場をくぐってきたのだから。
荷物運びのモアンはというと、ホールの片隅に席を用意され、そこで座っていた。
その表情には安らかな笑顔があった。
祝勝会は順調に進む。
メーブルたちは拡声機能のある魔道具を使い、それぞれの冒険の思い出を語る。
様々な質問にも答える。特に苦戦した敵、冒険で楽しかったこと、怖かったダンジョン……。
時折交えられるジョークは、多くの笑いを誘った。
ひと段落ついたところで、国王がメーブルに問う。
「祝勝会も盛り上がってきたところで、勇者よ、何かここらで言っておきたいことはあるかね?」
メーブルは大きくうなずく。
「あります」
国王から促され、メーブルは話し始める。
「皆さん、僕たちにはもう一人仲間がいたことはご存じでしょうか」
観衆がざわつく。
「もう一人? 五人目?」
「誰……?」
「いたっけ?」
誰も覚えていない。
「それは、荷物運びをやっていたモアンです」
会場の片隅にいるモアンが目を見開く。
まさか、自分の話題が出てくるとは思わなかった。
「モアンの仕事は、僕たち勇者パーティーについてきて、リュックで荷物を運ぶこと。そして、状況に応じて武器や道具を取り出すこと。この二つです」
一部の人間が「誰でもできそうだな」とささやく。笑い声も聞こえる。
「僕たちは最初、彼を仲間だと思ってませんでした。そうですね、“動く道具袋”ぐらいにしか見てなかったと思います。そのため、彼と会話することもほとんどなかった」
冒険を始めてすぐの頃は、モアンは必要な時以外は、声をかけられることすらなかった。
マドックやカトリーヌは名前すら呼ばず、「お前」「あなた」で済ませていた。
彼らのような選ばれた人間が、荷物運び如きと対等に会話するなど、ありえないことだった。
「そして、冒険からひと月ほど経った時、僕たちの精神は早くも限界を迎えていました」
限界はすぐに訪れた。
メーブルたちは全員その道のエリート。にもかかわらず、魔王軍は予想以上に強かった。
どうにか勝ってはいるが、すでに幾度も「こんなはずじゃ」とプライドをズタズタにされていた。
皆に後押しされ、冒険に出たことを後悔し始めていた。
「そして、僕たちは彼が寝静まっている時に決めたんです。『今に荷物運びは逃げ出すはず。それまでは頑張ろう』と」
荷物運びが逃げてしまえば、補給もままならなくなり、冒険をやめる理由ができる。
モアンを原因にしてしまい、魔王討伐をリタイアすることができる。
しかし、せめてそれまでは頑張ろう、と決めた。
「僕たちはモアンが逃げ出すことを願って、冒険を続けました。モアンが逃げれば、僕たちも逃げられる。しかし、彼は逃げませんでした。荷物運びだって決して安全なわけじゃない。魔物と肉薄することもある、死と隣り合わせの仕事です。でも、彼は逃げなかった」
モアンが逃げないと、メーブルたちも冒険をやめることができない。
「どんなに大変な目にあっても僕たちについてくる彼を見て、僕たちは感動したのかというと……そうではなかった。むしろ苛立ちが募っていきました。モアンは僕たちを真の勇者だと信じて愚直についてくる。ひたむきな彼を見るたび、僕の心はえぐられていきました。どうにか彼が逃げるように仕向けられないか、そんなことばかり考えていました」
そして、あの事件が起こる。
モアンが荷物を川に落とすという致命的なミスを犯してしまう。
「あのミスは橋という狭い場所で彼を殿にしてしまった僕らのミスでもあった。ですが、これはチャンスだと思いました。そして四人で相談し、マドックに悪者になってもらいました。モアンを殴りつける勢いで、荷物運びをやめろと厳しく忠告したんです。その後は優しく励まして、路銀としてネックレスまで渡して……。これでモアンは逃げるだろう。そう思ってました」
しかし――
「モアンは逃げなかった。それどころか、一晩中土下座して、僕たちに頼み込むんです。『荷物運びをやらせて下さい。お願いします』と。分かりやすい逃げ道まで用意したのに、彼は逃げなかった」
メーブルは観衆から目を逸らす。
自分の恥を晒す痛みに耐えようとするかのように。
「僕は自分が恥ずかしくなりました。その場で自分の首を剣で突き刺したい気分だった。きっと他の三人も同じ気持ちだったと思います。こんな、これほどの男を、僕たちは今まで蔑ろにしてきたのかと。そして、僕たちは変わりました」
勇者パーティーが躍進を始めるのはこの頃からだった。
「僕はもはや世界を救うためじゃなく、モアンのために旅を続けました。モアンにかっこいいところを見せたい、パーティーが全滅するにしても最後に死ぬのはモアンになるようにする。後で聞くと、他の三人も同じ気持ちだったようです」
モアンは荷物運びとしての矜持を見せた。
ならば、自分たちもモアンに恥ずかしくないような勇者パーティーになりたい。
たとえ使命を果たせず、五人まとめて死んだとしても、あの世でモアンに「あなたたちは立派だった」と言ってもらえるような死に方をしたい。
世界のためではなく、モアンのために四人は冒険を続けた。
「僕たちは飛躍的に強くなりました。モアンもまた、変わらず僕たちについてきてくれました。どんな敵が現れても、後ろにモアンがいるというだけで、力が湧いてきた。魔王との戦いの時もそうです。モアンに『勝った』と報告したいがために、僕たちは戦ってました。国や世界のことなんか、まるで考えてなかった。そして、勝つことができたんです」
メーブルは他の三人を見て、うなずくとこう宣言する。
「モアンがいたから……僕たちは冒険を続けられたし、魔王に勝つことができた。こう断言できます。モアン、ありがとう!!!」
しん、と静まり返った。
そして、大きな歓声と拍手が湧いた。
世界のためでなくたった一人の荷物運びのために戦った彼らを責める者は、一人もいなかった。
さっそくモアンが壇上に呼ばれる。
国王からも握手を求められる。
こんなことになるとは思っていなかったモアンは、顔を真っ赤にしている。
「よく、ずっとついてきてくれた」とメーブル。
「モアン、お前がいなきゃ俺たちは魔王にたどり着くことさえなかった」マドックが笑う。
「ありがとうね、モアン」にこりと微笑むカトリーヌ。
「本当にお疲れ様でした」セレンも優しく労う。
彼らの言葉にモアンはたどたどしく答える。
「ぼ、ぼくの方こそ、勇者様たちの力に全然なれなくて……いつも悔しい思いをしていました。でも……でも……今みたいに言ってもらえて、本当によかったです……!」
勇者パーティーのみならず、国王も微笑む。皆が微笑む。
モアンもまた、勇者パーティーの一人だったと国中から認められた。
魔王を倒した四人ではなく“五人”を祝福する会はさらなる盛り上がりを見せた。
***
それからおよそ一年の時が過ぎた。
勇者たちはそれぞれ、国を担う人材としての道を歩んでいた。
勇者メーブルは国に仕え、軍事顧問として兵士たちを鍛える。
戦士マドックは剣の道場を開いた。この道場はやがていくつもの支部が建つ大道場となる。
魔法使いカトリーヌは魔法学校の教師となり、厳しくも優しく教鞭を執る。
僧侶セレンは教会に戻り、その力で、人々に救いと癒しを与えている。
荷物運びのモアンは故郷の村に戻っていた。
国から出た褒賞で家族のために大きな家を建て、幼馴染の村娘と結婚し、幸せに暮らしている。
メーブルたちとは今でも親交があるという。
そんな彼を取材すべく記者が訪ねると、若干ふくよかになったモアンが出迎えてくれた。
彼は今の気持ちを笑いながらこう述べた。
「こうして勇者様たちが勝ち取った平和を味わっていると、まさに肩の荷が下りたという気持ちになれますよ」
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。