帽子をうらやむもの 帽子がうらやむもの(ウタほたるのカケラ〈US〉出張版【サイズS】第2iS片)
帽子、テンガロンひとつ(豹柄)しかもってません。
彼は帽子をうらやんでいた。
あたまにひょいってのっけられて、おでかけに連れていってもらえるし。帰ってくれば、その日のおでかけがどんなだったか、彼にも聞かせてくれる。
日に焼けたり、雨に濡れた姿を見たときは、その苦労に頭がさがる想いもするけど。すくなくとも帽子をかぶってるあいだは、かぶっていた本人が、感謝に頭をさげることもないだろうね。むやみにそんなことをしたら、帽子は足もとへと落ちてしまう——あごひもがあるタイプの帽子なら、ともかく。
おでかけがおわって帰ってきてから、枝をはやした裸んぼの木みたいな帽子かけにかけるときに、ちょっとねぎらってもらえればいい。
帽子って、なんて素敵な仕事なんだろう。
帽子は彼をうらやんでいた。
自分はその窪みを満たすために、なにかを容れてもらえることもなく。ふせるようにして、ひとのあたまにひっかけられて、あちこちへ連れまわされるのに。
ところが彼ときたら、大半は棚の中でひっそりと過ごすものの。いざ仕事となれば、その半球を描く窪みを満たされて。中身をこねられたり、ラップを張られて冷蔵庫に寝かされたり。
器としての役割を、これ以上なく果たすのだ。
さかさまにふせられて、どこかにひっかけられることなんて、まずない。
ボウルって、なんて素敵な仕事なんだろう。