第二話 出会い
「おーい、ゆうくーん!ボール、見つかった?」
「はるちゃん、ごめん、まだ……」
「どこ行っちゃったんだろうね」
どうしようもなく俯く僕に、はるちゃんはやさしく答えてくれる。
「ねぇ、もう帰らない?」
「そうだね…」
諦めて帰ろうとした瞬間………。
(吊り橋の先で待ってる。あなたのボール、私が持ってるよ)
女の子?どこから?
ゆっくりした口調で、親しげに話しかけてくる。
耳元で囁かれた様な声だったが、はるちゃん以外近くには誰もいない。
「ごめん。はるちゃん、先に帰ってて」
「どうしたの?」
振り返りながら、そう尋ねる。
「忘れ物をしちゃったから取りに戻らないと」
何故だか分からないが、あの声は本当のことを言っているような気がした。
しかし、”女の子の声が聞こえたから”とは言えないので、はるちゃんには先に帰ってもらうことにする。
「私も行くよ。一緒のほうが安心できるし」
「ちょっと離れたところだし、わるいよ」
「わかった。気を付けてね」
納得していなそうだが、先に帰ってくれるようで安心した。
「吊り橋ってあの吊り橋だよね。お父さんが『渡ってはいけない』って言っていた」
ダメだといわれていることをすることに後ろめたさを感じるが、ボールを見つけたいという気持ちとそれ以上の好奇心から吊り橋を渡ることにした。
吊り橋までの道は、進む度険しくなる。一応、道は存在するが、整備されていないため木や草が内側に伸びてきて、とても歩きやすいとは言えない。
「これだよね…」
いつ架けられたのかも分からない古い吊り橋。一面には霧が広がっていて、よりいっそう暗く感じる。
そのせいなのか、ここに来るまで感じなかった恐怖を覚える。
「いかないとダメだよね」
やはり気は乗らないが、ここまで来たなら何としても渡らないといけない。そんな思いから勇気をだして吊り橋に右足を乗せる。
”ギィィ”
片足を掛けただけで、吊り橋が悲鳴を上げるかのように音を鳴らす。
(壊れるなんてことはないよね……)
そう思いながらも、足を進める。
”ギィ” ”ギィ”
一歩、また一歩と進む度、音が鳴る。
「はぁ…」
ようやく渡り終えたという安堵から思わずため息をついた。
(もう少しだよ、がんばれ)
またあの声だ。この先に……。
僕はボールのことなんて忘れて、謎の声に気を取られていた。恐怖心すらも忘れて。
好奇心に身を任せて、先に進む。
「ここは?」
林を抜けると、開けた空間がある。そこに、一軒の古びた家。
いつの間にか、一面に広がっていた霧は消えていた。
「だれ?」
あの声だ。
振り返ると女の子が一人。きれいな黒髪が腰の下まで伸びた幼げな女の子。
僕と同じくらいかな?
「どうしてここにいるの?」
「どうしてって、きみが呼んだんじゃないの?」
「私が?なんで?」
この子じゃなかったのか?でも確かにあの声と同じ。
気のせいだったのだろうか………。
「ご、ごめん。誰かに呼ばれたような気がして、それでここに来たんだ」
「そうなんだ」
(やっぱりこの子じゃないのか)
不思議なことを言われてキョトンとしたような顔をしている。
「それで、きみはどうしてこんな所に居るの?」
「ここ、私の家だよ?私だけの家」
この子だけの家?
「お母さんやお父さんは?」
「いないよ?」
まさか。こんなに幼い子がこんな所に一人でいるわけがない。
親が帰ってくるのが遅いとかそんなものだろう。
「ねぇ、ちょっと話さない?ずっと一人では退屈だし」
「まだ時間もあるし、ちょっとだけなら」
この子のことが気になったので、少しだけ付き合うことにした。
「さぁ、入って」
女の子の後について家の中に入る。
外見からは想像ができないほど中はきれいに整えられている。
「そこに座って」
ドアからそう離れていない机に案内される。
机の周りには椅子は一つだけ。本当に一人だけで住んでいるのだろうか。
「ちょっと待ってて、もう一つ椅子持ってくるから」
そう言い、奥の部屋へ向かう女の子。
「手伝うよ」
座っているこの椅子は小さな女の子が一人で持つには大きすぎる。
「ううん、ここで待ってて」
「わかった」
奥に何かあるのかな、見られてくないものとか。
そんなことを考えながら女の子が戻ってくるのを待つ。
(なんだろう、あれ…)
「お待たせ」
自分と同じくらいの大きさの椅子を引きずるように持ってくる。
「やっぱり手伝うよ」
女の子の元へ行き、椅子を運ぶのを手伝う。
「これでよしっと」
「ありがとう」
はにかんだような顔でお礼を言う。
とてもかわいらしい顔をしている。
「どうかしたの?」
首をかしげながら僕に尋ねる。
「な、なんでもない」
ほんのり赤く染めた顔をそむける。恥ずかしいような気がして思わずそうしてしまった。
「私、ミイっていうの。あなたは?」
そういえばお互いに名前を言っていなかった。ミイっていうのか、珍しい名前だ。村のみんなの名前とは何か違う。
「僕は、ゆう。高橋優」
「ゆうくんって言うんだ。よろしくね、ゆうくん」
曇りない笑顔でこちらを向く。なんだか恥ずかしくなってきた。
どれくらい経っただろうか、外はすっかり暗くなっていた。2人でいろんなことを話した。普段どんなことをしているのかや好きなこと…などいろいろと。
「お母さんたち、まだ帰ってこないの?」
「お母さんなんていないよ。私一人だけでここにいるから」
少し寂しそうな顔でそう言いうつむいたが、すぐ今まで通りの笑顔に戻った。
「もうおそくなっちゃったし、あの橋のところまで送って行ってあげるよ」
「いいよ、一人で帰れるから」
途中まででも一緒に帰ってくれると言ってくれたことは嬉しかったが、別れた後は、ミイちゃんも一人でこの家まで帰ってこないといけなくなるので断ることにした。
「遠慮しなくてもいいのに。じゃあ、行くよ」
「うわっ!」
視界が真っ白になり、体が軽くなる。まるで空中に浮いているような感覚がした。
そんな経験をしたことは無かったが、きっとこんな感じなんだろうだとその時は思った。
「ついたよ、ゆうくん」
目を開けると、あの吊り橋の所に居た。
「どうして?」
「じゃあね。もうここには来ちゃだめだよ」
さっきまで少し離れた場所にいたはずなのに、一瞬で吊り橋の傍にいる。何が起こったのかわからず混乱している僕に忠告?みたいなことを言ってきた。
「どういうこと?」
「さぁ、早く帰らないとみんな心配させちゃうよ」
言葉を濁すだけで、ミイちゃんは何も答えてくれない。
そして、また視界が真っ白になった。
「ゆうくん、ねぇ、ゆうくん。起きて!」
「…はるちゃん?ここは…?」
女の子の姿が見当たらない。それに、どうしてはるちゃんがここにいるのか分からない。
「ゆうくんが忘れ物をしたから…って言ったから、先に帰ったんだけどいつまで経っても帰ってこなかったから、心配で探しに来たの」
(はるちゃんが一人で?)
「そしたら、ここにゆうくんが倒れてたんだよ」
「ごめん…。急いで帰らないとだね」
どうしてあんな所に倒れてたのか分からないが、みんなをこれ以上心配させるわけにはいかない。
「ただいま…」
「こんな時間までどこに行ってたの?心配したじゃない」
「ごめん、ボールを探してたんだけど、見つからなくて」
「そう、でもこんな時間まで探す必要はなかったでしょ?」
別にずっと探していた訳ではない。ずっと探していた訳ではないのだが、それ以外なにをしていたのか明確に思い出すことが出来ない。
(確か、女の子と一緒にいたような…。なんて名前だったかな)
すごく大切な事だったような気がするが、どうしても思い出すことが出来ない。
「そんなに、そのボールが大事だったの?」
違う、そんなんじゃない。ほかに何か大切なものが……。
「まぁいいわ。先にお風呂に入っちゃいなさい。その間にご飯の用意しておくから」
「うん…。ありがとう」
「はぁ、なんだったんだろう。夢だったのかな」
どうしても夢だったような気がしなかったが、あんな所で倒れていたし、状況的にはそうだったと思うしかなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです。
一応、次回の投稿予定日は9月24日を予定していますが、来週は時間があるのでもしかしたら、日曜日よりも前に投稿するかもしれません。
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※次回の投稿予定日2023/9/24 17時