「手のひらを指と指の隙間まで嘗め回してもいいかしら」 「嫌ですけど!?」
いかれたメンバーを紹介するぜ
「亡命さん、あなたにはセブンナイツの補佐として働いていただければと思います」
支給されていたブレザーの制服を身に纏い、メッセージに添付されていた地図を頼りに学校に着いて、校長に会議室に案内されて、ふかふかすぎて逆に落ち着かないソファーに座ったかと思うと、いきなりこの話だ。
労働、労働、ああ蟹工船。結局私はプロレタリアートの呪縛からは逃れられないというのか!
「あの、どうしてそのようなお話になったのでしょうか」
「総理大臣のご提案です。生徒会の財源は国の税収ですが、赤字続きなことを気になさって」
はい、私氏、無事死亡のお知らせ。
無理ゲーだ。国のトップの命令なんて断れるわけがない。
「ちょっと、そういった経験もないですし、不安なんですが」
「亡命さんにお願いしたいのは、生徒会の財政の立て直しです。セブンナイツの河合太郎氏が本学の生徒会長ですので、あなたには会計係としてサポートをお願いしたいのです」
何故私に生徒会の会計なのだろう。
会計事務所でバイトしていたことは伝えていないはずだ。
それに十代にして国会議員の優秀な人物が生徒会長をしている生徒会ならわざわざ私のヘルプなんていらなさそうに思う。
「えっと、私のサポートって役に立つんでしょうか」
校長は小首をかしげた。
おじさんがしても全然可愛くない。
「河合太郎氏にはちょっとした欠点がありまして。彼は美的センスに優れており総理の衣装のデザインなどを手掛けているのですが、どんぶり勘定で金遣いが荒いのです」
それはちょっとした欠点ではなく、最早致命傷ではないだろうか。
労働は嫌だが、まあ、学校の生徒会活動くらいなら大した労働ではないだろうから、何とかなるかもしれない。
「そうですか、分かりました」
「ご快諾ありがとうございます。期限は一週間でお願いします。現在冬休み中で授業がなくて、生徒会と部活だけの状態なので生徒会室にそのまま向かってくださいね」
快諾じゃないし、渋々だし……。えっ、一週間?
「年末に総理が来校されるので、それに間に合わせたくて」とか期限後出しは、酷くね?
バイトで年配の人とは良く喋るけど、同級生と話すのは慣れていなくて苦手で緊張する。
廊下を歩くと自意識過剰ではなくて、視線が突き刺さって針山状態である。
「あ、亡命ちゃんだ」「亡命ちゃん、ネットニュース見たよ」
亡命ちゃんというネーミングは昨日のライブですっかり定着してしまったらしい。
というか私、ネットニュースになってんの?
「おはよう、亡命ちゃん」
制服を着崩さずに身に纏った、切れ長な瞳の黒髪ロングクールビューティー女子が私に微笑みかける。心の中で委員長というあだ名をつけた。
「初めまして、わたしは生徒会副会長の黒崎知砂よ」
いきなりあだ名を撤回しないといけなくなった。
委員長かと思いきや生徒会の副会長サマでした。
見くびってすみませんでした。
美しい副会長の目線は私の手に注がれている。
「これが総理を救った手なのね。握ってもいいかしら」
「え、ああ、どうぞ」と答えると、ぎゅっと手を握ってきた。
同性といえどこんな美人に手を握られると緊張するな。
「ありがとう。手のひらを指と指の隙間まで嘗め回してもいいかしら」
「は、いやっ、嫌ですけど!?」
美少女スマイルに騙されて思わず「はい」って言いそうだった。
とんだ美人局だ。
急に廊下が騒がしくなり「きゃあああ!セブンナイツの河合太郎様よ!」と歓声が上がった。
「可愛いだろう? 河合太郎さっ」
ピンク色の長髪の男が立っていた。彫りの深い顔に、ぱっちりとした二重のイケメンは、魔改造してフリルに塗れた制服の上にマントを纏っている。
可愛いだろう、河合太郎って、まさか韻を踏んでいるつもりか?
「お前が亡命だな?」とマントをはためかせた。
このマント、もしやセブンナイツとやらの制服か?
亡命ちゃんが定着したので無駄だろうが一応「阿保芽衣です」と本名を名乗る。
生徒会室に入ると、会長は王族が座るみたいな椅子に悠々と腰かけた。
「うちの生徒会には今まで会計がいなかったんだ。お前が今日から会計だ。よろしく頼むぞ」
嘘でしょ、そんなの勘定奉行のいない藩みたいなもんじゃん。
「じゃ、じゃあ、今までどなたがお金の管理を……?」
「俺様だ!」と会長はばっとマントを広げた
よりによってどんぶり勘定野郎のお前かよ!
「うちの生徒会のいかしたメンバーを紹介するぜ。二年アルファ組で副会長の黒崎知砂はシャッターアイの持ち主で、一度見たものは何でも記憶できる。だからいつも学年トップだ」
「すっ、すごいですね」
才色兼備ってやつか。流石二年生で副会長なだけはある。
「だから、総理の一挙一動をすべて記憶しているんだ」
「きっ、気持ち悪いですね」
「ふふっ、ニワカ扱いされるくらいならキモい方がましよ」
クールビューティーな見た目に反して闇が深そう。
関わりたくないが、敵にも回したくない。
某モンスターをボールでゲットするゲームなら、パーティーに加えるか最後まで悩むやつだ。
「書記の常盤金成は三年アルファ組で、パソコン系に詳しい効率厨だ」
書記先輩は緩く波打ったショートヘアにプラスチックフレームの眼鏡をしたやせ型の男子だった。ブレザーの中にパーカーを着ている。
「亡命は二年アルファ組っスよね。最短下校ルートは教室の窓から一階まで降りて裏門に行って塀を伝って帰るといいっスよ」
「効率を重視するあまり、民家の正面でここを曲がってくださいっていうおかしなカーナビみたいになってるんですが」
困っても絶対に効率厨先輩に相談はしない。あと、何で私の学年とクラスを知っている?
「トリは俺様の紹介だ。可愛いだろう? 三年アルファ組で生徒会長の河合太郎だ。俺様の右腕として働ける喜びを存分に噛み締めるがいい」
ナルシスト、一人称が俺様、謎の上から目線のスリーコンボときた。これでもかというくらい俺様要素を盛り込みすぎていて若干渋滞気味だ。
これは、いかしたメンバーでなくいかれたメンバーの間違いではないか?
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