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【完結】クラヴェル家の厄介そうでいて厄介でないご婚約~入れ替わってない入れ替わり令嬢と、幽霊屋敷の引きこもり公爵~  作者: さき


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29:クラヴェル家とエメット家の決起

 


 アレンの決起と同時にクラヴェル家はパーティーの準備に取り掛かった。

 だが今の今まで主人に合わせて外部との交流は無に等しかったため、何をして良いのか手探り状態だ。本来ならばメイド達に指示を出すはずのエステルも、パーティーといったら村の広場で行われていたものしか記憶にない。あれはあれで楽しかったが、社交界の婚約発表パーティーとは別物ということぐらいは分かる。


 さてどうするか、まず何をしようか……と屋敷中が首を傾げている中、エステルはエメット夫妻に助言を貰おうと提案した。

 エメット夫妻はクラヴェル家に次ぐ権威を持つ家だ。社交性もあり、先日開かれたパーティーも素晴らしいものだった。

 なにより彼等はアレンを愛してくれている。アレンが協力を求めればきっと助けに来てくれるに違いない。

 そうエステルが訴えればアレンは少し照れ臭そうに笑い、「『どうして協力させてくれなかった』と怒られるところだった」と話しながらエメット家への手紙を認めた。



 ◆◆◆



「手紙を貰った時は、本当にアレンからなのか何度も確認してしまったわ」


 そう嬉しそうに話すのは、エメット家の夫人。彼女の話にエステルも笑って返した。

 アレンが手紙を出したところ夫妻はすぐさま返事をくれた。助言どころか協力をすると、それどころか事前に屋敷に来て指示と準備をし、そのうえ当日にはメイドや給仕を手伝いに寄越してくれるという。

 そして今、夫妻はクラヴェル家の屋敷を訪れ、夫君はアレンとパーティーについての詳細を話し、そして夫人はエステルとお茶をしていた。


「素敵な屋敷ね。落ち着いていて薔薇も綺麗。それに可愛い犬と綺麗な猫もいる」


 日当たりの良い一角でくっついて眠るギデオンとレディに視線をやり、夫君が嬉しそうに微笑む。

 そんな彼女を見つめ、エステルは改めて感謝を告げ……、そして少しだけ声色を落として「あの……」と恐る恐る話し出した。


「ルゼール伯爵が仰っていたことなんですが……。私は本当にエステル・オルコットなんです。確かに肖像画とはあまり似ていませんが、でも嘘なんて吐いていません。私が肖像画のエステルなんです」


 夫人の様子を窺うようにエステルが説明する。

 現状、いまだ自分こそがエステル・オルコットという証明が出来ずに居り、先日の衝突の一因でもある。

 それに対してエメット夫人はどう思っているだろうか。

 アレンを息子のように大事に想っているからこそ、彼の婚約者が彼を騙して公爵家に入り込もうとしている出自の分からぬ娘と知れば冷静ではいられないはず。今はこうやって落ち着いて話をしてくれているが、もしかしたら内心では……とエステルの胸に不安が湧く。


 だがそんなエステルの不安を他所に、夫人は優しく微笑んだ。


「私達は……いえ、私達も、素敵なお嬢さんとの婚約を喜んでるわ。息子同然のアレンが『最愛のエステル』だと感じる貴女こそ、私達にとって娘同然のエステルよ」

「ありがとうございます。私を認めてくださったことも、アレンを今日まで大事に想ってくださったことも……」

「私達の方こそお礼を言わせて。エステル、この屋敷の扉を開いてくれてありがとう」


 夫人に優しく手を擦られ、エステルはそっと彼女の手を握り返した。

 細くしなやかで触れているだけで優しさが伝わってくる手だ。その優しさは手を伝いエステルの胸にまで届き、じんわりと胸が温まってくる。

 もっとも、感動するエステルを他所に夫人は握られていた手をぎゅっと強く握り返してきた。優しさを伝えるための優しい握り方ではない。それよりもだいぶ強い。

 エステルが疑問を抱いて夫人を見れば、穏やかなだったはずの彼女の笑みが一転して意地悪気な笑みに変わっているではないか。


「それで、パーティーではどうするの? ルゼール伯には痛い目を見せてやらないと!」


 ねぇ! とはしゃぐように話すエメット夫人に、エステルは一度パチンと目を瞬かせた。だがそんなエステルの反応を見てもなお夫人の闘志は冷めぬようで、それどころか「徹底的にやりましょう!」と更に闘志を滾らせ煽ってくる。

 彼女もまたルゼールに対して怒りを抱き、一矢報いてやるべきだと考えているようだ。

 だが考えてみればそれも当然ではないか。夫人にとっては息子同然のアレンが侮辱されたのと同時に、昔から懇意にしていた亡きクラヴェル夫妻への侮辱でもある。これに怒りを抱かぬ者はいない。


 それが分かると次第にエステルの胸にも嬉しさが湧いた。そして同時に闘志も湧き上がる。


「実は考えている事があるんです。当日に……」


 そう声を潜めて話しだせば、エメット夫人が瞳を輝かせてグイと身を寄せてきた。




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