92 いざ 魔石回収
ゴブリン達から勝利の雄叫びが上がる。
万を超す数で3千以上のダンジョンから溢れた魔物を倒したのか、喜びもひとしおではないがそれなりの犠牲も払っての勝利だな。
大きな広場には双方の死骸が万を超す。
無論圧倒的弱者と認識されているゴブリンの死骸がほとんどである。
なれどそれだけの被害を出しながらも通常は只狩られる立場からの勝利だ。
正直この圧倒的死骸の多さから素直にゴブリン達の勝利とは認めにくいが、それは第三者の目からの意見だろう。
当事者のゴブリン達から見れば、たとえどれだけの犠牲を出しても譲れない一戦であったのだと認識すべき事だろう。
さて 次のゴブリンの動きは?
ゴブリンにとって前面で陣を張っているユウゾー達は沢山の仲間を倒した敵と認識している筈だ。
彼等の行動に依っては互いに最終決着の目もある。
注意深くゴブリン達の動きを観察する。
暫しゴブリンキングに率いられている一団との緊張した睨み合いが続いた。
その緊張を突然破るが如くキングが大声で何やら叫ぶ。
来るのか?!
ユウゾー達は皆身構えた。
だがゴブリン達はキングの指示を受け、全員まわれ右にてゆっくり森の中に消えていく。
最後までユウゾー達を睨んでいたキングもやがて向きを変え森に歩みだす。
ふう 引いてくれたか…。
ユウゾーは森に消えようとするゴブリンキングの後ろ姿を見送った。
「行ってしまったな。 少し残念だな」
マーラそんなに戦いたかったのか?
「いや 伝説のキングだぞ。その魔石にどれだけの価値があるかと思うとな」
おいおい それが本音か?
「魔物の魔石のお陰で必要な物資も調達出来るしな。それよりこの状況だ、ユウゾー土壁に出入り口を開けてくれ」
膨大な数の死骸を前にエルフの皆の目がゼニーマークに変わっている…。
この世界の生あるものは皆逞しい。つい先程までの死闘からもう立ち直り、現実の世界に戻っている。
苦笑しながらユウゾーは人一人通れる穴を土壁に開けた。
途端に次から次に飛び出すエルフ達に、周りに十分気をつけろと声掛けするユウゾーであった。
「おーい みんなご飯だよ。早く戻っておいで」
いつまでたっても戻らぬエルフ達に呼びかけるユウゾーである。
ようやく皆が疲れ果ててご帰還となる。
解体作業を伴うため魔石回収もなかなか進まないようだ。
皆魔物の解体に依る返り血で少なからず汚れている。
でもそこまで根を詰めなくとも…。
「違うぞユウゾー。これだけの数の死骸に森の魔物達も気が付かぬはずがない。今晩は大群が押し寄せて死骸の大食事会となるだろう」
魔物達の好物は無論死肉であるが、魔石も好物で食べまくるそうだ。
あっ なる程。だからその前に大きな魔石を回収しておく訳か…。
必死になって皆が回収していた訳を理解したユウゾーである。
「そ そうか。だがまず食事をしないと体がもたんぞ」
皆が食事に夢中になっている時に、ふと疑問が浮かび隣りにいたニーナに問いかけた。
「なぁ 少し聞きたいが、ダンジョン内で魔物を倒すと光の渦に消えていくのに、何故に今回は消えずに普通の死骸になるのだ?」
ゴブリンは此方の森にて育っているから仕方ないが、ダンジョンから出てきた魔物は何故に消えていかぬのかユウゾーには理解出来なかった。
せめてダンジョン生まれの魔物は消えていけば、魔石だけが残るので回収は楽になると思う。
「ふむ それがダンジョンの摩訶不思議なこだわりの一つだな。逆を考えてみれば良い。冒険者たちがダンジョンで亡くなると魔物と同じ様に光の渦になり消える。どうにも理解できない現象だろ?」
ふむ ふむ確かにダンジョン内ではそんな現象を聞いた事がある。
ユウゾーは幸いにもその現象に立ち会った事がないのだが…。
「さて 何としてでも今晩中に大物の魔物達を解体して魔石を回収せねば」
そうだね目の前に宝の山があるのだ、徹夜くらい当然計算に入っているのだろうが、皆の安全が問題だよな。見張りを立てながらの解体作業でも夜間になればそれだけ危険が増すからな。
あれ? 少し待て…もしかしたら。
ニーナと反対側に座っているマーラに顔を向け尋ねる。
「なぁマーラ 外の死骸をダンジョンに運べばかなり手間が省けるのでは?」
急に何を言うかと怪訝そうな顔をしたマーラが、その後直様ユウゾーの考えを理解した。
「なる程 ダンジョン内に持ち込めば勝手にダンジョンが処理してくれるかも…」
他のエルフ達は今一理解していないようだ、第一かなりの重量のある魔物をどうやって運ぶのだと、そんな時間をかけている訳にはいかない筈だ。
遅れて他の我が妻達もユウゾーの言葉を理解した。
「試してみる。その間ユウゾーは出来るだけ大容量の魔法袋の作製を頼む」
アーシュとニーナが同時に動き出した。他の妻達も立ち上がる。
今だ理解の外にいるのは第一と第二村のエルフ達である。
「何をユウゾー達は言っておるのだ?ダンジョンに運ぶ?魔法袋を作る?」
だよね 突然の会話内容が今一理解出来なくて当たり前ですよね。
まだ推論だからもう少し時間が欲しいとユウゾーは伝える。
答えは妻達が帰ってきたら判明するからな。
妻達に予備の魔法袋を全て渡し、妻達は外に飛び出した。
妻達はなるべく大きめな魔物を選定し、次々に魔物を袋に回収すると皆がダンジョン目指し走り去っていった。
その様子を理解が追いつかない残りのエルフ達が呆然と見つめていた。
「なぁユウゾー 今とんでもない光景を見たような気がするのだが…」
第一村のリーダーがユウゾーに問いかける。
魔法袋の追加作業を始めようとしたユウゾーは何がとんでもない光景なのか首を傾げた。
リーダーの疑問は妻達が魔法袋に回収していた魔物の数が理解を超えていたらしい。
1体200キロを超す魔物達を一つの袋に最低5体は入ったとの事だ。
あっ またやらかしたな。
ユウゾーは事の認識を理解して少し額から汗がでた。
この世界魔法袋の最大容量は約1トンとの話しを思い出したのだ。
金額は億単位がついても可怪しくない品だ。
それを事投げにポンポン何袋も渡しているユウゾーにかなりの疑惑を抱いたようだ…。
さて どうやって説明すべきか新たな汗が吹き出るユウゾーであった。
「ユウゾー成功だ。数十体の魔物が光の渦に消えた。おまけにドロップ品も出たぞ」
大喜びのマーラから報告が飛び込んできた。
「何だ? まだ魔法袋を作ってないのか?」
その言葉に新たな疑惑が生まれる。
マーラさん これ以上爆弾宣言は止めて下さい…。
ようやく他の村のエルフ達の様子がおかしい事に気がついたマーラが慌てだした。
自分が発した言葉を思い出したのだ。
「いや 兎に角だな 成功だ。うん成功…」
では 作業を続けると 出て行こうとするマーラを他のエルフ達が足止めして説明を求めた。
マーラを取り囲みあーだ こーだと言ってる隙きにユウゾーはこっそりと脱出する。
表で次の魔物回収が終わった妻達に付いてダンジョンに向かう。
そこで追加の魔法袋を作製する予定だ。
マーラには悪いがしばし人質になってもらおう。
あの場所で魔法袋を作製したらそれこそ飛んでもない騒ぎになるからな。
ダンジョンにて魔物を袋から出しやがて光の渦に消える間に新たに5袋の魔法袋を作る。
アーシャが一人用心棒としてユウゾーの作製現場に残る。
他の妻達が新たな袋を手に魔物の回収に走り出した。
「大丈夫なのか ユウゾー」
事の次第を聞いたアーシャが心配そうに尋ねる。
わかりません……。
錬金術で更に追加の魔法袋を作成中のユウゾーは半ばやけ気味に応える。




