91 いざ 三つ巴(ゴブリンキング)
ダンジョン内の魔物の攻撃に迎え撃つゴブリン達の戦いが始まる。
ゴブリン達の陣形に誘い込まれるように、ゴブリンの集団の真ん中に突っ込んでいく数百体の魔物。
たちまち距離が縮まりすざましい衝突音が辺りに響いた、同時に双方からの大音響の声が響き渡る。
灰色系ならば1体でゴブリンなら10体は相手に出来るだろう。
だがそれは彼らがその機動力を使い臨機応変に動き回れる事が必要条件に入る。
今まさにゴブリンの待つ中央に飛び込んだ狼達は、当初その機動力にて次々に鋭い牙で倒していたが徐々にゴブリン達は両脇を狭めてゆき、やがて背面までしっかりと閉じると狼達はその機動力に陰りが見え始めた。
後はゴブリン達による数の暴力が開始されていく。動きの止まった敵をゴブリン達は容赦なしの攻撃を加え、当初優勢だった狼系の魔物は次第に数を減らしていく。
「出来た」
丁度ダンジョン内の魔物とゴブリン達の戦いが始まった頃に、ユウゾーは長い魔力展開から丈夫な土壁を作り終えた時だった。
今回ユウゾーはかなり入念に作り上げていた。
当初第一・第二村エルフによる土壁は高さ1メートル厚さ50センチで長さが20メートルの半円形であったが、形こそ同じ半円形であるがユウゾーは当初の壁の直ぐ前に高さ2メートル厚さは60センチ近い壁を出現させていた。
厚みにおいて左程の違いは無いように思われるが、硬さが違う。ユウゾーが丈夫さを優先して魔力を練り込んでいる土壁だ。
流石にかなりの魔力を消耗したらしく、マナポーションを飲みながらゴブリンと魔物達の戦いを手前の1メートルの壁に乘り眺めていた。
皆も同じ様に手前の壁に乘り戦いの状況を見つめている。
「しかしこんな丈夫な土壁を一人でよく作れるものだ…」
他の村のエルフ達は出現した土壁に手をついてその強度と規模に関心していた。
「まぁ 土魔法は何故か得意なんだよね」
そんな声に答えるかのようにユウゾーは隣のミーアに呟いた。
「見ろ!ダンジョンの魔物達が駆逐され始めた」
誰かが指差ししながら大声で叫んでいる。
確かに当初優勢だったダンジョン内の魔物が圧倒的数の力によりみるみる数が減っている。
「ふむ 前哨戦はゴブリンの勝ちか」
ただ見ていても分かるが殲滅寸前の魔物よりはるかに多くのゴブリンの死体が累々と転がっている。
最低でも敵の数より数倍の犠牲が出ているのであろう。
前哨戦は確かにゴブリンの勝ちだが…。
そう言ってマーラは土壁の横に目を移動した。
そこにはダンジョンの出口より現れたオーク系の魔物が5百体以上勢揃いして、前方の戦いを眺めていたのだ。
さらにその後ろから昆虫系のカマキリに似た大型魔物達が次々に出てきている。
これも恐らく最終的に5百体を超えるのではないかと思われる。
やがてゴブリンによりダンジョン内から出てきた魔物は全て駆逐される。
一時の静けさが辺りに漂った時に、突然オークのリーダーらしき魔物が大声を発する。
それに応じてオークが一斉に雄叫びを上げ動き出した。
それに続いて大型カマキリ系も動き出す。
カマキリと遅れたオークの群れも今だダンジョンから出てくる。
優に千体以上の魔物がゴブリンに向かい大声叫の雄叫びを上げ突進していく。
ゴブリン達に少し戸惑いが感じられる。
先程の狼系よりさらに強力な魔物達だ。
いかに数の上では多くとも通常は狩られる立場なのだ。
戸惑いや恐れがあっても不思議ではない状態だ。
森の中から大声響が響き渡る。
突然全ゴブリン達が其れまでと違いピシリと引き締まった。
「見ろ!森の奥だ」
エルフの誰かが大声を出す。
森の奥から湧き上がるように次々と新手のゴブリンが続々と出現し始めた。
「な 何だ。どれだけの数が森の中に隠れていたのだ?!」
まさに雲霞の如くゴブリンが湧き出す。
新たに出現した数は6千近いと思われる。
中には各部隊を束ねていると思われる、一回り大きなソルジャーや更に大型のジェネラルクラスの姿も何体も出現している。
「…万に近い数が再度組織されたな」
マーラも思わずため息を吐く。
しかも指揮官クラスが続々現れ各部隊に分かれたゴブリンは組織戦を挑む模様だ。
「…いる あの中に絶対キングがいる筈だ…」
そうでなければこの数を纏めるには無理がある。そしてゴブリンが組織戦など聞いたことがない。
先の戦いでの生き残り約3千強が中央に集まり、今まさにオーク達の突進を受けようとしていた。
先頭を走るオーク達の群れが突然バタバタと何体も倒れ込んだ。
矢だ 矢の雨がオーク達を襲う。
中央に固まっているゴブリンの集団の更に後方に2千体程の集団のゴブリンから矢が放たれたのだ。
しかし数千の矢の雨が降る中を何本の矢を受けながらもオークの勢いは止まらない。
両魔物がやがて激突による衝撃音が衝撃波となり響き渡り、無数のゴブリンが弾き飛ばされて空を舞う。
オークによる凄まじい激突の有様が辺りに展開される。
と同時にゴブリンの両脇から各2千程の部隊が指揮官により前方に動き出した。
計4千体のゴブリンによる両脇からの包囲戦が開始されたのだ。
激突を受けた中央部のゴブリンは大被害を出しながらも耐えていた。
それに応えるとばかりに両脇の包囲網は確実に狭まり、数千の魔物達を包み込もうとしている。
「ユウゾー魔物が来るぞ」
ダンジョンより遅れて出てきた魔物達が周りの状況に興奮して、目標物が分からずに闇雲に動き回っている。その行き先にユウゾー達が籠もる陣地目掛け駆け寄ってくる。
各自采配に攻撃を任せて近寄る魔物を迎え撃つ。
戦場の雰囲気にあてられオーク 大蜥蜴 リトルリザード さてはオーガーが気が触れたように突撃してくるのを各自撃破していく。
「くぅ 何体湧き出しているんだ」
陣地の土壁前にはかなりの魔物の死体が積み上がっている。
大概は森の中に消えていくが、ユウゾー達が倒した魔物は数百体を越えているだろう。
巨体の突撃に強化された土壁は何とか耐えているが、戦いの途中で一度土壁強化を行っていた。
「お 落ち着いてきた?!」
アーシャがようやく魔物の数が減り一息つける状態で有ると判断したようだ。
第一・第二のエルフ達も矢は無くなり、魔法もユウゾーより分けてもらったマナポーションを飲みながら魔法攻撃を続けていた。
皆が安堵のため息を軽くつく。
自分たちの戦いに集中してゴブリン達の様子が分からなかったが、ようよう辺りを窺う余裕が出てきた。
前方を検めて確認すると、戦闘は今だ続いている。
完全な混戦状態で互いに消耗戦に陥っているようだ。
何方が勝ってももかなりの被害が出るだろう。
「ユウゾー あれを見ろ、キングだ。キングが戰っている」
すでにゴブリンも残り2千体ほどに減り、魔物達も百体を切っているだろう、その中でゴブリンの中心部に一際大きく凶暴なゴブリンがいた。
体はオークより大きくオーガに匹敵する体軀を誇る。
並々ならぬ筋肉で持っている巨大な鉄製の棍棒でオークの頭を叩き割っている姿が見られた。
「何だ あの巨体は? あんなゴブリンが存在するのか…」
皆が呆れ果てその勇姿とも見える姿をただ見つめていた。
戦いは遂に決着を迎えた、残っていたダンジョン内からの魔物達が一斉に逃げ出し始めたのだ。
ただその魔物達を追撃する余力がゴブリン達も残っていないようだ。
しばらくしてゴブリン達から戦いの勝利の雄叫びが何度も繰り返しあがった。




