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右手にサイコガンを持つ男  作者: 西南の風
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34 いざ 呪詛

遅くなりました。明日からも少し投稿時間が送れる予定です。ご理解下さい。


 「呪詛(ずそ)返し・・・」


 知らぬ訳がない。言葉としては・・・。

 呪詛自体はさほど難しい技ではない。無論素質があればである。

 ズブの素人でさえ思いの力、念の力が強い者は其れなりの影響を他者に与える事が可能だ。

 気分が晴れない 何となく体調不良 というレベルではあるが、ただ笑うことなかれ。

 昔良く語られた実話に 丑の刻参り (うしのこくまい)がある。


 これは真夜中に()()に蝋燭を付け頭に被り、白衣装にて山や神社の大木に呪う人の名を書いた藁人形を五寸釘で木に打ち込み相手を呪う儀式であり、ずぶの素人が毎夜この儀式を行ったのはユウゾーの時代まである程度知られた方法であった。


 それによりどれ程の効果があったかは問うまい。

 先に述べた人を思う力の強弱が反映する世界であるから。


 これがそれなりの修行にて習得した者は、更により効果的な呪詛を行なえる事は容易に想像できる。

 当然これを生業(なりわい)にした者もいた。

 その中には陰陽師の名も含まれる。

 

 先の大戦にて敵の当時の大統領に呪詛を行う為に、ある宗派の高僧クラスが参加して儀式を行ったのは知っている人もいるだろう。それが原因かはわからぬが、数年後その人物は不慮の死を遂げた。


 それ程知られている儀式 呪詛 は古今東西話にいくらでも出てくる。

 呪詛の力を弱めるとか無効にするなら手もある。

 だが呪詛返しは違う。ただの呪詛に比べ難易度は数倍以上ランクが上だ。

 

 念の力と力の勝負となる。弱い者が倒される世界で、最悪相手の呪詛にて返り討ちにされた死亡例もある。それほど呪詛返しは困難な技になる。


 その技を習得しているかとオサは聞く。ならば誰が呪詛により苦しめられている相手か、容易に想像がつく。


 「・・・まさか、シャルル様が」










 半年ほど前にその違和感に気づいた。 

 ほんの些細な事ではあったが、何かがジワジワと身体に侵入してくる感があり、少し戸惑っていた。気にしなければそれで良しとのレベルで、単なる気の迷いで済む程度の話だ。

 

 シャルルは当初歳のせいと諦めていた。

 今年で983歳になる。長寿のエルフと言えどあちこちに体のガタ、が出るのは仕方ない事である。


 今までが順調過ぎた。大した体のトラブルもなく、この歳まで過ごしてきた。

 私も人並みに老化の恩恵?を受けこの世界とお別れの準備を始めよ、との知らせを受け取ったのだと思いこんでいた。

 

 幸いに孫や曾孫それに第三村の行末には何の憂いはなく、いつでも先祖や短い間とは言え共に楽しく過ごした夫の元に行けるのは、ある意味待ち望んでいた事でもある。


 夫が眠る大木の下に私を埋葬するように、子でも有る現オサにはかねてからお願いしてあった。

 やれやれ ようやく其の事が叶う時が近付いたと、数ヶ月前から寝込むことが多くなった自分に自問をしていたのだが、この所何かが違うと感じていた。


 半年前から始まった当初は何も気にならなかった胸の中に染み込んでくる小さな黒いモヤモヤが、この所勢いが増している気がする。

 いや 気の迷いではない。最初は相手に()()れない様に慎重に相手の様子を伺いながらの符術を、頃合い良しと本腰になりつつある符術に変換し始めたのではと察した。


 しまった。腑抜けた。もう二百年若ければこのような無様な思いはしなかったのに・・・

 シャルルは歳からくる老化の現象と思い込んでいたのだ。

 何の疑問も無く受け入れてしまった事に自分の老化を重ねてしまった。


 そっと胸に手を置きこの黒い違和感がなんであるかを知るために、何百年か前に夫リュウゾウに習い習得した念の気を我が胸深くに展開した。

 当初それは何の反応も無く、それでもシャルルは根気よくゆっくりと体内の奥深く探りを入れる。


 あった! 見つけたと シャルルは思わず呟いた。


 それはまるで今日の日が来るのを予め予測していたように隠蔽されていた。

 黒いもやもやとした塊は一つ一つを極小さな塊にして、体内の奥深くに散らばっていた。

 それが全て集まれば、いかほどの大きさになるのだろうか?


 これでは何か異変を感じてシャルルが探っても通り一遍等では発見出来ないはずだ。

 シャルルは畏怖を感じた。

 いや 送り込まれた黒い塊にではなく、ここまで周到に用意された事と、この技を施した術師に対してだ。

 並々ならぬ相手であり、これを生業(なりわい)にしている者の手による事は明らかだ。


 思い当たる人物が何人かいる。だが、どの者も一長一短がある。

 ・・・もしかして数人が組んでいる?

 ならば雇った黒幕は誰か? これについても心当たりが一人いる。


 そこまで考えてシャルルはゆっくり(かぶり)を振った。

 それよりもこの小さな塊が自分が思っている事と一致するのか確かめるのが先だと。


 小さな塊の一つを慎重に探り始める・・・。

 やはりだ 間違いない。 呪 (じゅ)だ! 呪詛を送り込まれていた。


 念の気の発動にかなりの体力を消耗し、シャルルは荒い息をしばし繰り返した。


 一番の対応策は夫リュウゾウが語った 呪詛返し だ。

 呪った相手にその呪いをそのまま送り返すにより相手の術師に多大なダメージを与える事が出来るという。

 だがシャルルは其処までの技は夫に教わっていなかった。

 出来るのはこれ以上の呪を受け付けない防御の技だ。


 これは体力勝負になる。今のシャルルでは非常に分が悪い戦いになる。

 今現在シャルルは衰弱して寝たきり状態なのだから・・・

 

 悔やまれる。もっと早く察すれば。もう二百歳若ければ・・・。




 「くっ。き奴が感づいたぞ。呪が入り込めぬ。流石シャルルだ。しかし手遅れよ。もうかなりの呪詛を送り込んだ、我等は数人にて交代に呪を送れるがき奴は一人。所詮体力の消耗にてその生命を短くするだけよ」


 ダークエルフと呼ばれる黒魔術の使い手3名が密かに怖い笑い顔を見せた。



 それでもシャルルはその後一ヶ月に渡り、敵の呪詛を防いでみせた。

 それに費やした体力と気力は凄まじいものであったが、やがて限界が近づき徐々に衰退の蓄積が重なっていき10日程前のある晩に昏睡状態に落ち込んだ。


 周りの騒動を背にシャルルは昏睡の中、不思議な気を感じていた。

 誰だろうこの気は? 何となく懐かしい気を感じる。 

 

 死に向かっていく者は知らずに魂の浄化が図られていくと言う。

 死後の世界に適応する為に俗界の垢を少しづつ落としていき、魂が持つ元々の純な状態を取り戻していく為に。


 今シャルルはまさに純な魂を持ちつつある状態に近付いていた。

 それが遠くにいるある人物の気を感じるまでに高まっていたのだ。


  こ これは、 あの方の気だ。  間違いなど無い。

  戻って来たのね そう私を迎えに ああ 早く会いたい


  リュウゾウさん 私はここに居ます 時間がない 早く来て下さい 急いで・・・。


 昏睡状態だったシャルルは突然に目を覚まし、もうほとんど見えなくなった目で必死に誰かを探そうとしていた。

 そして呟くような声で、あの人が リュウゾウさんが戻ってきた。と何度も繰り返した。


 その日からシャルルは昼間はひたすら眠り、夜の気が集中する時間に目覚め、残り僅かな体力を使い念をリュウゾウに送り続けては、疲れ果てまた寝ると言う日々になった。 

 そしてその日が来た。それまで昼に目覚める事のなかったシャルルが目を覚まし、


 「 帰ってきた あの人が 早く誰か門までリュウゾウさんを出迎えに行って。」


 そんな筈はないと誰しもそう思った。だがその口調は今まで違い、凛として誰もが無視出来ない気迫に満ちている。そして再び眠りに入っていく。

 

 娘であり村のオサでもあるシャルロはあまりの気迫と歓喜に満ちた母の言葉に、近くに待機していた警備兵を呼ぶと 念の為に門まで行って状況を確認して欲しい と依頼する。


 警備兵が座を外し暫くすると突然の歓喜の大声がここまで響いてきた。

 何事かと部屋の皆が眉をひそめている最中、興奮した様子の警備兵が慌ただしく戻ってくる。


 とてつもない情報を両手に抱えて。


 




 「・・・なる程、すべて理解いたしました。()(たび)の事を」


 ユウゾーは静かにオサであるシャルロからの顛末の説明を受け入れた。



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