33 いざ 祖父
ユウゾー、 ユウゾー、 しっかりしろ!
誰だ? 耳元で煩い・・・あれ、俺は倒れているのか? 何故だ・・
「おう 気がついたな。もう大丈夫だぞ」
マーラか そうか俺は気を失ったのだな。
軽く頭を振りながら、マーラの助けを借りふらつく体で起き上がる。
「凄い精霊達だったぞ。あんな数の精霊は初めて見た。あの精霊たちがそれぞれ先祖の霊を連れてきたんだから頭の中が可笑しくなっても不思議じゃないな。よく頑張ったな」
えっ 精霊? 先祖の霊を連れてきた・・?
「なんだその顔は? ははあ 初めての体験か、エルフ達は体験者が多いが、精々数名の先祖霊だな。あれ程の数になると流石にどんなエルフでもビビるわ」
そうなんだ・・いまだふらつく体と頭でユウゾーは必死に現状把握に努めた。
「それで、アサノ リュウゾウはお前の関係者でいいんだな?」
最終結論をマーラは求めてきた。
「・・そうだ、俺の祖父の名だ」
とたんに周りから途方もない歓声が上がり、皆飛び上がり喜びだす。
大歓声がいつまでも止まず、抱き合って喜ぶエルフ達をユウゾーは呆然と見ていた。
その中でマーラが警備兵の一人を捕まえ指示をだす。
「聞いて 見ただろう。この状況を正確に長老たちに伝えろ。急げ!」
兵は正気に戻り脱兎の如く、村の中を目指し駆け出した。
「すごい・・シャルルお祖母様の言うことが現実に起こった・・」
一人のエルフの呟きは大歓声の中で誰の耳にも届かなかった。
報告を受けた長老たち及び村のオサ関係者も当然喜びに湧いた、ただ病人が寝ている手前最低限の喜びの声しか発せなかった。
一人のエルフが寝ている病人の耳元に、静かにしかして喜びの力強い報告を告げるのであった。
「お母様 長年の夢が今日かないます。おめでとう・・」
そのエルフはいまにも泣き出しそうに目に大粒の涙を溜めていた。
「オサ!この後の対応をどうしますか?」
「まずは私が会います。貴方はお祖母様の側にいて」
ユウゾー達は村の中の一番大きな家に案内された。
そして客間らしい部屋に案内された。
しばし待機の後にこの村のオサらしき中年女性が警備兵を一人連れ添い入室し、案内のエルフ達に旅の慰労と今回の成果を聞き共に喜んだ後に、ユウゾー以外は護衛兵を含めて一旦退室となる。
改めてユウゾーと向かい合い、繁々とユウゾーの顔を眺めてポツンと呟いた。
「似ている・・面影がお父様そっくり・・・」
遠い昔を思い出すように、優しげな顔つきで語り始めた。
まず村に入るなりいきなりの騒動を詫びて、今回の顛末を話してくれた。
「何処からお話すればよいかしら・・少し昔話しになるけど順だって語りましょう」
それはユウゾーにとってとてつもない昔話しになる。
いまから600年以上前に当時この一体は森の中にあり、私の母シャルルは仲間と共に食料調達の為に狩りをしていた。その母の前に突然の眩い光と共に傷を負った人族と思われる男が姿を現し、そのまま地に伏し倒れ込んでしまった。
とっさの事でよく状況が分からぬままに、流石に傷を負った人族をそのままには出来ずに村に運び込んだのだが、その人族はお礼らしき言葉を数語喋ったが意味は通ぜず、そのまましばらく意識が戻ることがなかった。
その者は不思議な武器らしき物をもっており、エルフではそれが何であるか男が回復するまで待つ必要があった。
数日後ようやく意識は戻ったが、体の傷は意外と深く回復までは暫し養生が必要な状態であり、困ったのは互いに言葉が通ぜず、日常生活のやり取りに困難な日々が暫く続いた。
傷もようよう塞がりだしてから、男は何とか動けるまで回復の兆しがみられ、手振りで自分の持っていた物がないか尋ねた。
奥から預かっていた物を手渡すと男は非常に感謝を述べ、しきりに見たことがない姿勢でお礼の気持ちを丁寧に現した。
と突然にふらつく体で武器を杖代わりに立ち上がり、家から出ていこうとするのを必死になって止めている最中に、村に魔物が襲来した事を知らせる鐘が連打され、母は弓矢を片手に男に外に出るなと身振りで伝え、自分は仲間の元に応援に走り出す。
村の入口ではすでに戦闘が始まり、魔物はオークが5体。
普段ならそれほど手こずる相手ではないが、小さな村でさらに腕利きのエルフ達は狩りに出掛けている間の襲撃で、女 老人主体の防衛となると少し被害を覚悟の戦闘になると母は判断し、鐘の連打で狩りの仲間が異常を察して戻るまで皆にふんばれと奮起を上げオーク撃退に躍起となっていた最中に仲間の数人がオークの攻撃をうけ傷つき倒れ込んでしまう。
仲間の危機を救うべき母は弓から剣に切り替えオークに斬りかかるべく、数歩走り出した時に、後方から大きな爆発音が村中に響き渡る。
と同時に前方のオークが急に顔面から血を流し苦しみだした。
何事?思わず後ろを振り返ると助けた人族が片膝立ちにて、杖代わりの武器を構えている姿を見つける。その母に気づいた男は手振りと異国語で早く攻撃しろと急かしている様に感じ、慌てて走りよりオークの首筋に剣を振り下ろす。
さらに近寄ってくるオークに向きを変えた時またしても轟音が響き、襲ってくるオークが同様に顔面を押さえて苦しみだした。
再び走り込みオークに剣を振り下ろす。残り3体のうち一体はすでに他の村人に倒されており、残りの2体は不利を感じたのか逃走体勢に入っていた。
そのオークに村人達の矢が何本も背に命中していた。
母は人族の男に礼を言うべき振り向くと、男は地面に伏して倒れ込んでいた。
慌てて側に寄り確認すると、塞いだばかりの傷口から新たな血が流れ出している。
皆の手を借り家に運び寝かしつけ再度看病生活に戻った。
「ここまでが母と父の出会いに関しての話となります」
なる程、祖父は戦死ではなく異世界に紛れ込んだのか。
話によると大怪我をしていたと言うから、それが引き金になったのか?
結論の出ない話にこれ以上の推測は無理か・・・
「少し聞きたいがユウゾーさんも母がよく言っていた不思議な技を使うのか?」
「不思議な技?」
「紙で己の下僕を召喚したり、相手を呪殺したりの技です・・・」
後半の説明は小声になった。
なる程、陰陽師の事か・・・確かに家系の血にはその流れが受け継がれているかも知れないが。
「陰陽師のことですね。残念ながら祖父龍造が最後の使い手となります。祖父が戦死した時に我が父徹造はまだ幼い子供であり、正式に陰陽師としての修行は行っていない。当然私もそのような教えは受けていないのです」
オサは暫く落胆した表情でユウゾーを見ていたが、頭を僅かに横に振り、
「何故にその修業とやらをせぬのか?私にも父リュウゾウの血が流れているから判る。ユウゾーは父リュウゾウに匹敵するほどの気の流れを持っています。
だから母はユウゾーさんの気を感じ、父がこの世界に戻ってきたと歓喜の声をあげたのです」
そこだ一番知りたかったのは。何故この10日程、毎晩夜中に導く声が聞こえたのか・・・
不思議とは思っていても対応が取れなかった。
「毎夜私は不思議な声に疑問を感じていたのですが、なる程あれはシャルル様が・・」
何の事かとオサは首を傾げたが、ユウゾーの説明を聞き真っ青になって、
「念話ですね。母の得意な技の一つです。但し今の状態の母がそれを行うのは持っている命の炎を燃え尽くす行いです。それほどまでに父の再開を望んでいたのですか・・」
母の女性として父を慕う心にオサは深く感銘していた。
「ユウゾーさんは、その陰陽師と言う技を引き継いでないのですね・・残念です」
うん? 何だろう。今の言い回しやら先ほど見せた落胆ぶり、探ってみるか。
「誠に申し訳ないです。何か陰陽師の技が必要な事が?」
少しの沈黙の後、オサは引き絞るような声で一言発した。
「呪詛返し です・・・」




