194 いざ 仮拠点設置1
北側にあるもう一つの川に到着して、次の朝周辺の状況を確認する。
「問題は草原の中に例の大蜥蜴がどれほど生育しているかだ」
「どれ テストしてみるか」
マーラが魔法袋から大きめの魔物の骨付き肉をとりだし、思い切り草原に放り投げた。
カーブを描いてかなり遠くに落下する。
たちまち草原の草がざわつき何頭もの大蜥蜴の尻尾が飛び出してはまた消えていく。
中には大蜥蜴同士が争っているのも確認された。
「ほう かなりの数がおるぞ…」
こいつらをどうにかしないと開拓は進まない。
「ユウゾー どうやって対応するんだ?」
「・・火攻めだ」
その為に各村から火魔法の得意な援軍を招いたのだ。
この季節は北側の山から冷たい風が吹き出す。北から南だ。
「ほう それは盛大な野焼きだな…」
ギルマスはユウゾーの思惑を瞬時に理解した。
この大草原を焼いていこうと考えているのだ。
まずこの川に隣接している場所を確保して、背を川に向け南の方角に火を放っていく。
乾燥が進んでいる季節だ、かなりの勢いで燃え広がるはずだ。
「済まないがエルフたち3名ほど組んで、野営している仲間達をここまで誘導してくれないか?その間俺たちはこの大平原に足場を作る」
まかせろ!
元気なエルフ3名が飛ぶように仲間の野営地に走り出した。
彼女達の足ならばものの一時間で野営地に到着するだろう。
そて こちらも大平原への足場作りを開始する。
「いいかい皆、川沿いに向かって思い切りぶちかまして!」
オオーーー!!!
まずは足場作りとどれだけの延焼になるかのテストです。
豪快な火球が10発程飛び交う。
ストップ ストップ!! 慌てて皆を止める。
豪快な野焼きが開始された。折からの風にも煽られて、火炎が大草原を走り出す。
す 凄い! 計算以上の延焼が発生していた。
たちまち数百m程度焼け野原になり、ようやく沈火した。
考えていたより効率的かも…。
大草原は突然の火災により逃げ惑う魔物たちがパニックになり、中には火元に向かい走り込む魔物が火と煙に巻かれて倒れているのも何匹か見られた。
「…ユウゾー これは予想よりも凄いな」
ミーアが呆然と今だ燻っている草原を見て、呆気にとられて呟く。
「ユウゾー 次の号令はいつだ?」
おーい エルフさん、目がいってしまっているぞ!
火は人を狂わす と言うが、エルフ達あんたらもか…。
とりあえず川沿いに数十m程 そして南の方角に最大数百m程の延焼地帯が発生した。
ゆっくりと気をつけながらユウゾー達は大平原に降りていく。
更に川沿いに計百m程度進んだ時に後発隊が大騒ぎしながら到着する。
「うおー 凄いぞー」
「な なんだこれはー」
「おおー 私も火で燃やしたい!」
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ま 待て すでに少し可怪しい者が出てきているぞ…。
ユウゾーは少し焦りだす。
後発隊が到着したので、全員で昼飯にする、少し皆を落ち着かせねば。
丁度時刻はお昼だ、昼食にしながら皆にこれからの予定を話していく。
基本川沿いに進みながら大平原を川沿いに焼き払っていく。
何処かで適性な場所があれば拠点なり仮拠点を構える。
そしてあたり一面を焼き払い将来の農地確保を行っていく。
ふむ こんな説明でも目が輝いてやる気充分だな…。
どんだけ火魔法を使いたいのだろうか。
午後からは火魔法は支援エルフ達30名にて交代に焼き払ってもらう。
他の者達は支援エルフ達の護衛役をお願いしたい。
とち狂った大蜥蜴が現れる可能性があるからだ。
姫さんの付き人3名は護衛役をしっかり頼むぞ。
さて、ならば午後からの作業を開始とするか。
たちまち十数発の大火球が乱れ飛ぶ、辺り一面は火の海が出現する。
大蜥蜴達が逃げ回っているのが目視できる。
その様子を呆然とユウゾー達は見ていた。
順調に川沿いの道は延びていく。
「す 凄いな、辺り一面たちまち焼け野原に変わっていった」
ミーアが感心しながらその様子を見ている。
「う うーむ ここまで効果的とは…」
ミューも唸りだす、それはユウゾーも同じ思いであった。
たまに火に狂った魔物が出てくるが皆のサイコガンにより倒されていく。
「ヒヤッホー 燃えろ もえろ あたいが一番!」
「なんの こちらの方が威力があるわい」
「お默まり!まだまだ二人とも青い 青い!」
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お願いです 皆さん、もう少し冷静に…。
「ゆ ユウゾー様 わたくしも火魔法は使えます!」
・・姫さん あんたもか。 ユウゾーは頭を抱える。
ギルマスも呆れた顔でエルフ達を見入っていた。
皆の気もちも分かる気がする、今回の目的は焼き払う事だ。
ここは大平原 燃やし尽くしても誰も迷惑をかけない。
思う存分自分の最大火力を放出できる。
自分の限界を確かめる事が可能なのだ。
全てを燃やし尽くせと…。
午後から更に二百m程進んだ所で少し早いが本日は終了とする。
皆の魔力もそろそろ限界に近づいているだろう。
ポーションで回復しても良いが、自然回復が一番。
野営の設置を皆にお願いして、ミーアとミューに護衛をお願いしてユウゾーは森へ戻っていく。
この先大平原には木が少ない、今後何日この大平原に滞在するか分からぬ為に、ユウゾーは森の中の倒木を見つけては切断の魔導具にて薪を作っては魔法袋に次々に入れていく。
できるだけ多く集めて置きたいのだ。
まぁ最悪足りなければユウゾーの防御柵も利用できるが、なるべくそれは使いたくない。
それなりに薪を集めてユウゾー達は野営地に戻ってきた。
何だ? 皆の野営地のテントの中に姫さんと妻達のキャンピングカーがある。
何事と思ってみたが、直ぐに理解が出来た。
何の為のキャンピングカーなのかと…。
第一の目的は皆の不満のない快適移動目的。
第二の目的は皆の不満のない快適居住空間作りであった。
特に妻達のキャンピングカーは中二階設計で4名がそこで寝ることができる。
快適な寝床、シャワー、トイレ付き。さらにくつろぐ場所もある。
姫さんの方は更に大型ベットに快適な居間。
キャンピングカーを使わぬ理解がない、ユウゾーはすっかり野営に慣れた自分を反省する。
なれどエルフ達が羨ましそう…。
はいはい 少し待っておくれ、直ぐに何個かの風呂場とトイレを作りますから…。
俺も皆と同じ外でテント生活なのだから…。
ユウゾーはばたばたと働き出す。
そんな時に事件が起こった。
見回りをしていたエルフが川で不審な物を見かけた、馬 が泳いでいる?!
なんでこんな場所で…? それに何頭も?
呆然と見ているそのエルフに他のエルフが近寄り、何をしていると尋ねる。
黙って指を指すと、そのエルフも固まる。
二人は不思議な事もあるものだと互いに見つめ合う。
「おい…もしかしたら長老が教えてくれた、アトピーいやエルピー違う…」
「「ケルピー だ!!」」
それに反応したのか、その馬もどきが恐ろしい声を上げ始めた、とても馬の嘶きとは掛け外れていた。
「うおーー 魔物だ 魔物が出たぞ!」
サイコガンを慌てて抜いて構え始めた。
悲鳴を聞いて何人かが駆け寄ってきた、ユウゾーにも誰かの悲鳴にも似た声が聞こえていた。
「何だ 可笑しな声が・・」
皆で食事の準備に追われていたが、直ぐに川の方角に向かい走り始めた。
サイコガンが何発も発射された光が見えていた。
何事か? 駆け寄ると、一人のエルフが呆然と指さす方向を見た。
馬が死んでいる? 何人かが集まり河原に銃を構えながら降りていた。
大騒ぎの中、ユウゾーも河原に降りていく。
事情がよくわからぬが何故に馬を撃ったのだ?
ケルピーだ 魔物だ、 誰かが叫んでいる。
ケルピー? 初めて聞く名だな…魔物だと?
おっ! ユウゾーもようやく理解する、上半身は馬だが下半身は魚の形であった。