187 いざ 再探索
安倍閣下 ご冥福をお祈り申し上げます。
ミーアとミューがよく聞こえる耳で誰かの声をとらえていた。
「おいユウゾー 誰か人の声がするぞ…こっちだ」
二人がゆっくりと声のする方向に動き出した。
誰がこんな森の奥深くまで入り込んだんだ?!
進行方向右側に全員が注意深く進んでいく。
「うん? 何かと戦っているのか…」
二人が早足で動き始める、ユウゾー達にはまだその声は聞こえてこない。
全員がいつでも戦闘に入れる準備をしながら尚も早足で進んでいく。
「いかんユウゾー 先に行く!」
ミーア達二人が走り出した、その後を皆が追いかける。
聞こえる?! 微かに何かと争う声が風に漂いユウゾー達にも届いてきた。
おう、何か聞こえている。間に合えばよいが…。
二人の姿はもう追えない、森の民と野生児の二人は動きが早い。
突然 魔物と思われる大きな叫び声と重量物が倒れ込む地鳴りの音が聞こえてくる。
懸命にミーア達が駆け出した方角を進んでいくと、突然視界が広がり何人もの人影を発見した。
その何人もの人影は地面に倒れている巨大な物を眺めていた。
「おーい 怪我はないか?!」
ユウゾーのその声に反応してその人影達が振り向いた。
広がった地形は川の河原であり、ミーア達以外の他の者達にも覚えがある顔であった。
一週間近く前に別れた別働隊の2パーティ達であった。
倒れている魔物の側に座り込んでいる者が何人もいた。
倒れている魔物は…オーガーか?! かなりの大物だ。
「うむ 私達は怪我はないぞ、パーティの何人かが軽い怪我をしている」
「ああ 助かった、支援有難う」
パーティのリーダーと思われる者が皆に礼を言う。
座り込んだ何人かがポーションを飲んでいる。
良かった、酷い怪我人もいないようだ…。
しかしかなり大きい魔物だ、ユウゾー達も魔物に近づき繁々と眺めていた。
「うん 本来はこんな場所におらず、森のもっと中央部にいるのだが、、」
「…はぐれ だろうな」
ミーアとミューが話し合っている、何か例えば仲間内での権力争いに負けてこんな場所に逃げてきたのかも知れない。
「ユウゾー 回収してくれ。私達の魔法袋はそろそろいっぱいになるしな」
いいのかと 他のパーティに視線を向けると、皆が頷いている。
ならばとユウゾーはオーガーを魔法袋に回収する。
おう あの巨体が消えていく。
他のパーティ員達が感嘆の声を上げた。
時間的にも地形的にも丁度いい 今夜はここらで野営だな。
合同にて夕食後にこの約一週間にて判明した簡易地図にて皆での検討会が開かれていた。
「なる程、川は結果的に大きく曲がりながらも元の位置近く迄また向きを変えているのか」
「そうなる、まぁ今後はどう流れるのか不明だが…」
「道を作るとなるとどちらが有利だろう?」
「川沿いは結構岩が多い、ただ水に関しては有利だ」
「森の中は道作りは容易だ、だが水が不利だがな」
そうは言ってもこの探索にてユウゾーの土魔法にて三ヶ所の水場確保には成功している、戻りしなにその水場の状況を再度確認する予定になっている。
「ほう それは助かる、水さえ出れば最短コースが有利かな」
「ふむ あくまでもここまでの状況だがな」
この先水が出るかどうかは掘ってみないとわからない。
ここまでの状況を一旦持ち帰り検討しなければならない。
「よし 明日は水場の状況を確認しながら最短コースから戻るとするか」
ふむ この水場も問題なし。
掘った井戸の中を確認しながらユウゾー達は開拓村へ一旦戻る途中であった。
「良質な水が出ている、この森は豊かなのがよくわかる」
ユウゾーは掘った井戸の土壁が崩れないように再度強固な魔法を施し満足していた。
明日には最初に別働隊と別れた地点まで帰り着く、開拓村まで後少しとなる。
暫く開拓村方面に進んでいくと大勢の人の話し声や道作りに関わる人々の働く姿を見つける、現場に近寄り測量班の責任者に話しかけ、この工事に関わる各責任者に集まってもらい、今後の道作りに関しての参考資料と先の様子などをわかるものは話して道路造りの参考にしてもらう。
各責任者から協力の感謝をいただきユウゾー達は開拓村へと帰っていった。
「「「おかえりー」」」
妻達や関係者からの慰労の言葉がかかりようやく皆の元に帰ってきた実感が湧いてきた。
ふう 帰ってきたなー 思わずユウゾーも小さく呟いた。
「どうだった 大森林の中は?」
子を抱きながらマーラが近寄りユウゾーに尋ねる。
「ああ 川の手前の為か魔物の数は多いがさほど手こずる相手には遭遇しなかった」
そう言って可愛い子どもを抱き上げた、我が子はまだ慣れていないのか暫くユウゾーを胡散臭く見ていたがマーラを求めて暴れだす。
マーラが笑いながら子を引き取り少しあやしているとたちまち大人しくなっていく。
むむむ 今は辛抱 辛抱…。
妻達の笑い声が周辺に響き渡る。
「で 次はいつ出発するのだ?」
妻達は期待の目でユウゾーを見ている。
えーと せめて一週間はのんびりしたいのだけど…。
「了解だ 一週間後だな?」
何故か妻達は元気だ、しばらく大森林にて入り込み野生感が復活したのだろうか?
次は誰が参加するのかと話し合いが行われていた。
「おい ユウゾー 儂も連れて行け」
ギルマス?! いつの間に来た? それに参加したいだと? 自分の職を忘れてないか?
はい? 暇だと… 絶対に職場放棄だろう、違う? 将来の冒険者ギルドの下見?
いや 確かに暇だと言っていたぞ。 それに仮にも責任者がいないギルドはやばいぞ!
なに ダンカン氏が兼任する…。 それ 絶対無理やりだろう…。
…ああ 了解だ まったく、俺はどうなっても知らんからな。
第二次探索隊が正式に決定した。
後日ギルマスはこんな面白そうな話しに参加しないのはもったいないと本音を語った。
すったもんだの二次探索隊は約10日後に新開拓村から再度出発した。
ギルマスは仕方ないとして、何とグレイシア様まで参加希望が出て皆が必死の思いで止めさせて何とか最悪な状況を回避する。
本人はかなりご不満の様子で、お付の者から後日グレイシア様のご機嫌がなかなか直らずに元に戻るのに苦労したと報告があった。
「うーむ やはり大自然の中は落ち着くの」
出発して一週間を過ぎた辺りでギルマスは完全にリフレッシュモードに入っていた。
メンバーはユウゾーにミュー・ミーア・ニーナ・ギルマスそして前回と同じく黒ダイヤのパーティが大森林の中を半分ピクニック気分にて進んでいく。
川沿チームは別働隊の3チームにて探索を行っている。
前回のギーガー騒動を受けて1チーム追加となったのだ。、例の如くユウゾーが各種入った魔法袋を渡してあるのでそれほど心配もないと思う。
「さて ここからは未踏の地だ」
前回からの続きの開始と皆に注意をして、斥候役のミューが先に動き始める。
恐らくこの地点が大森林の中間地点に近いだろうと思う、ミューの後ろにミーアーがユウゾーから借りた磁石にて先頭のミューに進行方向の細かい指示を流している。
「ふーん 面白いものを…、あれで方向を決めていくのか」
ギルマスもミーアが持つ磁石を覗き込みしきりに感心していた。
「ああ 大概の場所には迷うこと無く進んでいける」
特別に磁場の強い場所以外は安心して方向を決定出来る、こんな大森林では下手すると太陽の位置さえ分からなくなる程高い樹木に包まれる事もあるが、磁石のお陰で迷わず移動出来る。
「迷い…お前たちの国では磁石とやらが当たり前に普及しているのか?」
「…ああ それ以外に結構危ない物もな、、」
小さな声でギルマスに話しかける。
「ふーむ 厄介な国だな、お前の国は」
ごもっとも、だから小物は別にしてあまり余計な物は作りたくはない。