18 いざ 新都市へ
「ユウゾー これは?」
「私からの贈り物だ。中を確認したら袋に仕舞い込め」
周りの視線を気にして素早くミューに小袋を渡す。手にとりおずおずと中身を覗き込むミュー。思わず息を飲み込むミュー。
小袋の中身は昨夜ユウゾーが遅くまでかかり作成したポーション類。
上級 1本・中級 3本・下級 10本 他にマナポーション・毒消し・状態回復 等 各数本。 冒険者にとって必要な薬品類。
「お守りだ。邪魔にはならないだろう。早くしまえ」
ミューを急かして魔法袋に仕舞わせる。
「有り難いが、ここまで良くしてくれる理由が知りたい…」
理由 はて? そうあえて言うならこいつは危なっかしい。1人で対応する事も多いし何かトラブったら命取りになる。私から見て孫のようなミューは目が離せない存在なのだ。しかしそれを素直に言うと反発がでるだろう。
「この世界で初めての知り合いはお前だし、色々冒険者として教えてもらった。
私の都合で少しこの地を離れるが、今までのお礼として送らせてもらった」
ミューは暫し考えを纏めている感じだったか、何かを吹っ切ったように笑顔になる。 そうだな 私もユウゾーと組むのは楽しかった。これを大事に使わせてもらう。有難う。 そう言って魔法袋に仕舞い込んだ。
「では行こうか。まずはギルドで昨日の精算だ」
「少し待っててくれ」
ギルドでの精算が終わった後にミューはそう言うと掲示板に貼ってあるクエストから一枚を剥がし、受付にて何か話し込む。
明日からの仕事の準備かな? 偉いぞ。
待合室の椅子に座りながらぼんやりと見つめていた。
旅たちに関してたいして買う品もないのだが、便利な魔道具も昨日購入したし何があるかなと考えていた時にポンと肩を叩かれ、振り向くと数人の冒険者がニヤニヤと笑いながら親しげに話しかけてきた。
「あんたが最近ミューがご熱心な相手なのかい?」
ご熱心な相手? そんな素振りはミューからは見れないが、確かに村に居る時は案内役を兼ねて一日中二人でいる姿を見られているだろうし、見ようによってはそう見えるか。
「ミューが最近羽振りがよいが、あんたが貢いでいるのかい?」
少し意図が見えてきた。確かにミューの装備等は見れば一目瞭然だろう。
面倒になるかな。どう対応するか考えていた時、受付のカウンターからミューがそれは物凄い勢いで走ってきた。
「カリナ、何をしている。まさか余計な事を話していないだろうな?」
「お前の昨夜ののろけ話はまだだ」
「ギャー!」
ふむこの感じはそう悪い間柄ではなさそうだ。
狼狽えるミューをその数人の冒険者がさも楽しそうにさらに煽っている。
「ごほん ミューの知り合いか?」
頃合いを見てミューに問いかける。
「おっと これは失礼。オレはカリナと言う。そしてこの二人が…」
カリナと名乗った女が代わりに答え、他の二人も紹介した。
簡単な自己紹介によると、この冒険者三人とミューは一緒に一軒の家に同居している間柄らしい。
昨夜ミューが戻ってきた時、鎧やら剣が大層高級な仕様に変わり、驚いて散々問い詰めた結果どうやら男が絡んでいると判明。
今日昨晩の酔いを抜くためと仕事の物色を検討していたら、話題の二人がギルドに現れたので、ついちょっかいに及んだ次第。
肝心のミューは顔をふくらましてそっぽを向いている。
「ユウゾー 行くぞ」
ミューは会話を打ち切り入り口に向かい歩きだした。
ユウゾーは含み笑いを堪えている三人に挨拶を終えミューの後を追う。
「全くカリナは…」
暫くの間ミューのご機嫌は治らなかった。
一般商店であれこれ備えて最後の支払いは、ミューが支払うときかなかったのでそれほど高額ではないので好意に甘えることにした。
そろそろ昼食時間だと話していたら、前方よりカリナ達三人組とばったり。
狭い村の中だからそりゃー可能性は有るわな。
これも縁だと三人組も引き連れて村で一軒の食堂に入り込む。
時間的に混んではいたが大きめの丸テーブルに5人で掛け、皆がそれぞれの好みの品を注文する。
食事の合間にも女性同士の会話が賑やかに切れることなく続いていく。
明日は久しぶりに4人で組んでの仕事になるそうだ。
ギルドでミューが確認していたのは最後の1名がまだ空きがあったので申込みに行ったようだ
食事が終わっても互いに時間があるので、食後のお茶を飲みに出かける。
この店には個室が一部屋ありそこに陣取る。
甘いクッキーも注文し皆美味しそうに食べていた。
無論この店と食堂での食事代はユウゾーが支払った。
ここでも女性同士の会話は止まらず、お茶とクッキーの追加が必要なのは当然の結果であろう。
話も再々ユウゾーの事について質問が出たが、答えられる範囲での回答でお茶を濁した?
ほぼ2時間以上お茶時間が続き、洋々開放された後に、ミューに半年後の再開を約束して四人組と別れる。
ただこのお茶会は有効な話を随分聞くことができ、今後のこの世界での活動に大きく役立ちそうだった。
特にこれから行くオレオン市は国が直轄地での管理をしているので、目立つことは極力注意が必要とのアドバイスを受けた。
宿に帰り少しのんびりした後、明日の準備にかかる。
大した作業ではないが数個ある袋の中身をそれぞれ目的別に分類し、すぐに必要な品が出せるように振り分けた。
袋のレベルが上がれば容量が増加するが、それまでの間の我慢だ。
袋の整理が完了し、後は食事を待つだけ。
その間 裏庭で少し剣の素振りをして体を動かす事にする。
食事が終わればする事もなくなる。
明日に備え気が早い者は寝る支度に取り掛かる。
ユウゾーは二階の窓からもう少し夜空を見てから寝ることとした。
翌朝早めにお願いした朝食を終え、宿の店主に礼を言い広場の馬車発着場に向う。何台もの馬車が停まっており、それぞれ人足達が忙しそうに荷の積込み作業を行っていた。
オレオン行きを確認し規定の料金を支払、しばし出発まで人足達の働く様子を馬車の中から眺めていたが、馬車の御者が乗り込んだ客達に説明を始めた。
いつもは馬車単体でオレオンに向うが、今回ギルドより大量の部材搬送および有力商店の馬車を含めて三台で隊を作ってオレオンに向うとの事だ。
冒険者ギルドより支援の護衛4名が追加されて 計6名の護衛者に守られているから安心してくれと心強い説明だな。
各馬車に2名配置されるので、もうすぐ護衛者が乗り込んだら出発になるらしい。馬車は普段10名乗れるが、今回客は6名だけなので十分スペースはある。
客6名の内二人は冒険者風の為、ユウゾーを含んで9名の戦闘力が見込める。
準備ができたのか護衛2名が乗り込んできた。その顔を見てユウゾーは固まった。護衛のうち1名がミューだったのだ。
「よう オレオンまで宜しく」
ニヤリと悪戯が成功したと言う顔でミューが挨拶した。
馬車が動き出す。先頭はギルド専属車次が商人の馬車最後が定期馬車だ。
隣のトトロ いや客に訳を言って席を変わってもらい、ミューの隣に座り直して憮然とした表情で護衛の二人を見る。
もう一人の護衛も知っている顔だ。確かリリーだったな、昨日ぶりだな。
ミューとリリーは互いの顔を見合いクスクス笑い出した。
余程ユウゾーの顔が可笑しかったのだろう。ユウゾーは更に憮然となる。
昼前に森の境界となる絶壁の岩山群を過ぎ、大草原地帯に景色が変わった所で道の横に昼食を兼ねて休憩となった。
人はもちろんだが馬にも休息は必要なので、皆一度馬車から降り小用と昼食を各自取るのだ。
昨日大量に屋台で買い込んだ食材をミュー達にも分け与えて食事を終えた。
馬車に乗っているだけなので左程腹は減らないが、食べれるときには食べるのが冒険者のモットーだ。
やがて隊を組んでオレオンに向う。この草原はコボルトと一回り大きい灰色狼系が襲ってくる事があるとミュー達が後ろを監視している。
一日目は無事に遭遇せず予定の野営地に到着する。
馬車内でユウゾーを省く5名が寝る予定で、まずは皆食事の準備を思い思いの場所で作り始める。
当初ミュー達護衛者で食事をしていたが、ユウゾーが数日分の特製スープ作りを始めると強烈な香辛料の香りが辺りに撒き散らされ、まずミューがたまらず鍋の前で完成を待っていた。
野菜と肉はたっぷり魔法袋に入っているし、各種香辛料も買い貯めしてある。
特製スープと上等のステーキそれと柔らかめのパンを夢中でミューは食べ始める。
その様子に他のメンバーもユウゾーの周りに集まり当然のように鍋のスープをよそい始める。
仕方なく肉も食べるかと尋ねると全員が頷く。
香辛料をたっぷり使い肉を焼く。一人一枚の約束で焼き始める…。
明日からが少し不安になったのは内緒だ…。
皆でたらふく食べ終わると少し休憩後、寝床作りを開始する。
馬車の横に愛用のワンタッチテントを広げる。
馬車は魔物からの防御の為にコの字型に停めてあるので空いている一角を魔法袋から防御柵を出し並べる。
道具屋で求めた少し高級な魔物除けを複写で大量に作成してあったので、これを馬車の周りにバラ巻く。
一段落して周りを眺めると全員の目がユウゾーに集中している。ミューが頭を抱えている姿を見てようよう気づく。
やりすぎた! ついいつもの調子で防御を固めてしまった。
でも壕を掘っていないから何とか誤魔化せるかな…ユウゾーは懸命に考え込む。
見張りは2名で三交代との事。魔物がでたら支援すると伝えて慌ててテントの中に潜り込んだユウゾーである。