177 いざ 砦攻防戦2
新手の敵が山道から続々と現れ、今までと違う陣形を展開した。
「何なんだ あの陣形は」
先程までの綺麗な隊列ではなく三人が一塊になり、その三人の横は大きく隙間が空きまた三人が一塊になっていく陣形だ。
隣の三人組には10米ほどの距離を空けてある。
後列はその大きく空いた隙間の中間にまた三人が一塊になり横に整列している。
「…恐らく分散して被害を防ぐつもりだろうが、あの体勢からどう展開するのか」
ニーアは敵の陣形を観察しながら思案顔で考え込んでいる。
広場の横幅百米をほぼ一杯に使い兵は一列30名程度が横に並ぶ。
そうこうしている間に縦の列も20列ほどになってきた。
「ニーナ 今なら敵も塊になっているが 撃つか?」
「…いや ユウゾーとの約束もあるし敵に此方の新型銃の有効距離を教えるわけにはいかん。ここはひとつ敵のお手並みを見てみたい」
その気になればこの広場の先まで新型銃で攻撃できるが、ユウゾーより届く有効距離を敵にはなるべく知らせるなと言われている。
ここは暫しの我慢とすべきだ とニーナははやる仲間に念を押す。
「第一列突撃! 後列三歩前へ…第二列突撃! 後列三歩前へ…」
なる程 敵の意図がわかってきた。
第一列の30名ほどが小走りに砦に向かい突撃を開始してきた。
その第一列が先に十米程進むと第二列に突撃号令が発せられた、順に間隔を空けての波状攻撃に変更されたようだ。
当然兵の大きな塊がなくなり縦・横にも広がる、此方の新型銃対策と思われる。
次々と兵が投入される様子をニーナは注意深く観察していた。
「ニーナ 敵が二百米以内に入ってきたぞ」
「うむ エルフ隊なるべく先頭を狙って攻撃開始!」
10丁の新型銃が一斉に攻撃開始となるが、成果は先程の戦いとは違い敵の被害も少ない。
「よし 弓の攻撃範囲に入った、全軍射て!!」
砦の守備隊長が大声を上げて敵殲滅を開始した。
敵の怒号が広場中に響き渡り砦に向かい必死の形相にて襲いかかってきた。
其の数 約千5百名ほどだ。
「うむうむ ここまでは順調だな、後は砦前の攻防か」
敵の軍師と将軍と思われる二人が味方の突撃状況を見ながら頷きあっている。
「それにしても厄介な武器を開発したものだ」
「いや どうも敵方には迷人がおるらしい。最終確認等をとりたいがどうも協力者が心変わりしたのかいまいち情報が入ってこなくなってな…」
「何と 敵に気づかれましたかな、それはそれとして迷人とはこれまた厄介な…」
「うむ どうせ金か待遇に転んだと思われるが、要注意である事には間違いない」
「迷い人は自分の本能に正直な者が多いと聞いています。この戦いが勝利の折にはじっくりと口説き落とせば良い事です」
「まったく まったく」
どうもこの世界では転移者の評判はあまり芳しくないようだ。
「ニーナ 先頭の奴らは盾を二重にしてサイコガンを防いでいるぞ。出力を上げて対応するか?」
三名が一組になっての攻撃がようやく意味が判明した。
真ん中の兵士が持つ盾に両脇の兵が半分づつ被せて身を寄せ合いながら前進してくる。
「…いや 出力を上げるのは簡単だが、此方の手の内を晒すことになる。頭か足または両サイドの半分は従来と同じ厚さだろうからそこを狙ってくれ。ここは辛抱だ」
「了解 皆に徹底をする」
敵も色々試して 此方の兵器の品定めをしているな…。
ニーナも新型銃を横に置きサイコガンにて敵の頭を狙い撃ちする方式に変更する。
三人の内真ん中の兵を倒せば陣対が崩せる、エルフ達も懸命に押し寄せる敵を倒していく。
と 突然敵を狙う事に集中していたエルフ達に弓矢の攻撃が襲ってきた。
なんだ?! 慌てて敵の陣を確認するといつの間にか敵弓矢部隊が千名程集結して矢攻撃を仕掛けてきた。
しまった! 眼下の敵に夢中になりすぎた。
砦の上部にいる5名のエルフ達に敵の弓矢部隊の殲滅に切り替えさせる。
再度新型銃に持ち替え弓矢部隊へ猛烈な攻撃を繰り返した。
激しい戦いは夕方近くまで行われ ようよう敵が一時諦めて引き下がっていった。
「エルフ隊 傷の手当を急げ、負傷状況を知らせてくれ」
仲間のエルフ達は負傷者が何名か出たが、持参しているポーションにてほぼ回復したようだ。
しかし砦兵達は死傷者数が百名程出ている。
エルフ達が比較的被害が少ないのはユウゾーから支給された鎧・兜のお陰であろう。
ユウゾーが懸命にエルフ達の為に作り上げた品だ、頑丈なのに意外と軽い。
事実最初の弓矢攻撃の際にニーナの兜や鎧に数発命中したが貫通せずに弾き返してくれた。
「ふっ ユウゾーに感謝だな、添い寝時にはサービスせねば」
良からぬ事を呟くニーナであった。
「さてさて 思いもよらず敵は渋とうございますな」
「何か手はないか 早く此の地を抜かぬと面倒だぞ」
「それについて二つの手を進めていきたいと思います」
「うむ 説明せよ軍師どの」
一つの手は夜討ちを交代で行い、敵を不眠状態にして注意力低下を図りながら、別働隊がこの山を回り込み敵の側面攻撃を仕掛ける二面作戦を提案する。
「敵の側面到着までどれだけの日数が必要だ」
「…ほぼまる二日と見れば宜しいかと」
「ふむ ならば夜討ちは程々の攻撃で時間稼ぎで良いな?」
足の達者な者を中心に別働隊2千名が選ばれ、早速夜の帳に溶け込んで移動を開始した。
「さて夕食も終えた事だし、敵の注意を向けるか」
砦内では交代に休んで英気を養う準備をしていた途中であった。
突然の怒号の大声が砦前の広場に響き渡った。
「何と 敵は夜討ちか 皆配置に着け」
暗闇に響く敵の大声に皆が反応する。
「おい これで何度目だ もうすぐ夜が明けるぞ」
砦内の兵達から悲鳴にも似た声が広がる、もうすぐ夜明けとなるがその夜間に敵は数度の夜討ちを仕掛けてきた。全員がほぼ寝る間もない攻撃であった。
「…寝る間もないか、意外とそれが敵の狙いかもな」
兵達の不満を守備隊長とニーナが互いに納得がいったと頷きあっている。
「夜中は我らの集中力を削ぐ攻撃で、昼間に本格的な攻撃を…」
「それもあるがもしかして…同時計画を悟らせないために仕掛けているやも」
同時計画? 可能性として一番の懸念材料である山を迂回しての側面攻撃…。
二人は合点がいったと顔をしかめ合う。
昨夜からの攻撃はどうも中途半端なのだ、ある程度攻め込んだら潮が引くように退却する。
無論砦側の疲労を増して判断力低下を狙っているとも考えられる。
なんせ敵は圧倒的に多数だ。敵は適度に休息を入れながら兵の疲れを最低限にする事が可能である。
それに対して此方側はほぼ全員が毎度防御に当たらざるをえない。
数日は持つだろうが、三日以上の不眠は流石に辛くなる、正常な判断が段々困難になる。
「今日から右側面の監視にも強化して何人か物見が必要だな」
朝焼けの空の下 迫りくる敵兵を睨みながら今後の対応を話し合う二人であった。
兎に角各行動はこの目の前の敵兵を追い返してからの事になる。
ニーナは自分の頬を軽く叩き気合を入れ直す。