172 いざ 裏切り者
会議にて皆の注目を浴びながらユウゾーが発言をする。
「会議の始まる前にもご挨拶いたしましたが、改めて名乗らせていただきます。アサノ ユウゾーと申します、今後ともよしなに皆様方には…」
「よいよい 型苦しい挨拶は、本題に入る前にひとつ妾から報告を忘れておった」
突然ユウゾーの挨拶を打ち切り、陛下は少し畏まり顔には困った様子が見受けられた。
「実はの…我が調査官より先程一報が届いた。敢えて名は出さぬがこの数日内にて敵方の工作員と思われる者がその屋敷に訪問している事実を掴んでおる。その密談までは分からぬがチェチェ国の先の策略から考えるに、おそらく我が国内部の切り崩しを参画しておると推測される。ここに参列しておる卿達に敢えてその名は伏すが各々方身辺には十分注意をはらい、敵方の手にくれぐれも乗らぬようここで念を押しておく」
途端に会議内は大騒ぎとなる。
誰が裏切り者なのですか 其奴の名を明かすべきでは 信じられん馬鹿者が
けしからん不忠者め…
たちまち陛下に対して皆がその処分を求めて弾劾の声が高らかに上がりだす。
ユウゾーはその中に二人ほどうつむき加減な人物を確認した。
「まてまて 先に述べた通りその内容までは報告が上がっておらぬ。つまり現段階ではまだ灰色の状態であるので敢えて名を出すのは控えておる。なれど火のない所に煙は立たず じゃ。その卿達も敵の回し者と知らずに面談した可能性もある。よって皆の者に身辺に注意をするように念を押したのじゃ。くれぐれも軽はずみな行動に出ることをきつく禁じておく、よいな!」
参加した卿達が一斉に深く頭を下げて陛下の言葉を心に刻む。
その後に報告される作戦の詳細は一旦この場では中止となり、別室にて数名の打ち合わせに変更された。念には念を入れ作戦の詳細が漏れることを心配しての処置となる。
無論陛下より作戦が漏れる可能性云々の説明はない、別室にて数名の者で詰めると言う説明で参加した者達はその意味を理解していた。
その後は紛争開始時の各卿の集合場所、各兵の人数等の細かい打ち合わせが行われ会議は一旦終了した。
翌日に選ばれた関係者が集まりニーナから今回の作戦の全般的な動きから注意点について、きめ細かい説明があり疑問点などを洗い出した。
「ふむふむ この発案者はエルフ族の者からだと聞いておる。よくこの地形を理解しての作戦を考えられている」
将軍は何度も頷きながらよく考えられた作戦を吟味していた。
「だがこの作戦の肝は峠の守備隊の奮闘にかかっておるな、ここが簡単に突破されると甚だ不利な展開になると思われるが」
「左様ですな、かなりの強者達が必要になりますが、それなりの被害も出るものと計算せねば」
副将軍クラスの一人から心配する声が上がる。皆も心痛の表情でうなずく。
「それに関して私の私見になりますが、ひとつ提案があります」
それまで黙って聞いていたユウゾーが声を挟む。
「構わん この席でなら自由に発言せよ」
陛下が興味深くユウゾーの発言を許可した。
「私は本来軍の経験がありませんので今まで口を挟みませんでしたが、皆様が砦の兵達に配慮されている様子から何か策はないか考えておりました。素人の意見ですが…」
ユウゾーは砦に籠もる兵達が敵の圧倒的な勢力にて消耗戦になる事が、元々憂いていたのでここに来る馬車内でも何か手が無いかと考えていた。
「この砦にて新武器をお披露目したいと思っています」
「ま 待て この地で新武器を見せぬのがそもそもの作戦であろう?!」
突然の作戦変更に戸惑う一同である。これまでの戦議が無駄になる恐れがある。
「いえ 正確には新武器の一つを見せる事にします」
ユウゾーは最終決戦用の攻撃砲は隠し通し、エルフ達の協力の元に新魔法銃をこの地で敢えて見せておきたい と説明する。
「何故だ 魔法銃も極力見せぬほうが有利であろう?」
「はい 当初そう思っておりましたが、現在少々状況が変わっております」
昨日の会議にて陛下より聞かされた内通者より、この国が新武器を用意している事がもう敵国に伝わっている可能性がある事。
もし伝わっているのなら何故にこの守りの要になる砦で使用せぬのか考える筈だ。
自分が軍を率いる立場なら敵が何処で使用するか気になり、その正体が判明するまで用心深く対応する筈と考える。
場合に寄っては平地決戦の陣にて迂闊に攻撃をせずに慎重な行軍になる可能性がある。
しかし峠の砦である程度見せつけておけば敵はそれなりの構えで突き進んでくるだろう、つまり敵の武器を見切ったつもりで攻撃を躊躇なく仕掛ける可能性が高い。
よって一網打尽として敵を殲滅出来る可能性が高くなる。
新武器により峠の守備兵達の消耗も防げて、時間稼ぎも出来る。
「うーむ 確かに裏切り者達により新武器の情報が流れている事も吟味せねばならぬな。なれど新武器の情報が新型砲も流れておったらどうする?」
「その点は心配ないと思うぞ。あの場では敢えて名は申さなかったが、エルバント家とバーラント家の二人は今だ現物を見ておらぬ、風の噂でしか伝わってはおらぬ筈じゃ。現在も妾の手下が張り付いて一挙手を監視しておるわ」
陛下が愉快そうに笑いながら発言した。
「何と あの二人でしたか、確か先祖は前の王国の貴族出身でありましたな」
「うむ 本来はこの城の留守居役とも思っていたが、此度の不祥事にて一緒に連れて行く事にした」
平地決戦の折には城の留守居役として残していく予定の二人であったが、今回の件にて大きく運命が変わった。
今現在国内にてゴタゴタを起こしたくない為に敢えて陛下は名指しをあの二人にしていなかったのだ。
当然当事者の二人には自分等が置かれている立場をあの会議にて把握している。
そして陛下からの内定者の目に常に晒されている事も、、、。
この先において 謀反かそれとも懸命な働きにより汚名を消し去るかは本人次第となる。
いずれにしても陛下からの監視の目を逃れるわけにはいかない。
「ふむ 敢えて弱い武器を見せて敵を油断させる?」
「はい 弱いと申しても魔法銃と新魔法銃の威力はかなりのものです。敵はかなり苦戦する事間違えありません。時間を稼ぎ平野での準備が整いましたら止む無く撤退と見せかけて敵を平野に誘い出します」
敵は先の砦にてサイコガンと新魔法銃の威力を知り、その対策を練りながら山から降りて陣を構えるだろう。
そしてそこが互いの雌雄を決する合戦場になる。
「だが素直に敵に陣形を組ませるまで待つ必要があるのか?」
もっともな意見だ、敵が山道を下ってくるならまして万を超す兵の流れはかなり縦長の行軍となる。
通常ならばその縦長になる陣形は待ち受けている者達にとっては絶好の攻撃目標となる。
「只敵を追い返すのが目的ならば当然最大のチャンスになりますが、此度は敵をほぼ殲滅させて二度と此の地に侵略する気を潰すためにも必要な事になります」
平野で陣を構え敵が負け戦になり山道を一斉に引き揚げる事は不可能だ。
狭い山道に逃げようとして殺到しても大混乱になるだけだ、これが下ってくる細長い状態なら最悪回れ右にて退却すれば逃げ遂せる。
当然追いつかれた最後部は悲惨な状態にはなるが、敵も横には広がれず縦長に攻撃するしか無い。
チェチェ国の大概の兵は無傷で山頂に辿り着けるだろう、それはチェチェ国が再度陣形を整え攻撃に転じる可能性が生じる。
「…その可能性を潰すためにも敵にわざわざ陣形を作る時間を与えると」
考えれば敵の数は最低3倍の大軍だ、素直に見れば随分と不遜な考えとも思える。
余程の計略が無い限り無謀と思われるがユウゾーにはこの地を利用した策と、まだ見せていない新型砲が控えていた。