171 いざ 再登城
初夏の麦の刈入れが順調に終わり、一息ついていた時に城より迎えの一行が到着した。
ギルマスとユウゾーに再度訪問の依頼の文書が大臣名経由にて届いた。
やれやれとユウゾーは今回はニーナを同行者として城へ向かう。
ミーアが少し拗ねているが今回は前に提示した作戦に関しての質問もあるだろうし勘弁してもらう。
本来は提案者のマーラが一番適任者だが、懐妊しているし長旅の無理はさせたくない。
ニーナは元々マーラの副官として任務していた事もあり、マーラとの意思疎通は完璧である。
状況によっては緊急な事態も予測されるので、エルフ各村への連絡に対して敏速に対応出来るように予め皆と打ち合わせしておいた。
無論残る妻達の不満がでぬよう、懸命に毎夜頑張るユウゾーである。
連日の遅くまでのユウゾーの頑張りで、出発の朝は目に隈状態ではあったが、皆が不満なくにこやかに手を振りながら暫しの別れとなった。
「…ユウゾー あまり頑張りすぎるのもどうかと思うぞ」
ギルマスが疲れ果てているユウゾーの顔を呆れながら覗き込む。
「ユウゾーは驚くほどタフだぞ」
ニーナが笑いを堪えながらギルマスへ返答する。
「そ そうなのか…確かに6名の妻達を満足させるのは、、、うーむ 羨ましい…」
おい 何が羨ましいだ、いい歳したバァさんが…。
怖くて面と向かっては決して言えないが。
何だかんだと五月蝿いギルマスの追求を躱しながら王都への旅は続く。
「おう ユウゾー殿お久しぶりである」
前回訪問時に同席した将軍が陛下が現れるまでの接待役として会議室にて待機していた。
「お久しぶりです将軍、先に送りました新型砲の具合はいかがですか?」
好評だとは聞いていたが実際にその武器を使う立場の人からの意見は重要になる。
「それよ 60名毎の2グループにて交互に近くの森の外れを立ち入り禁止にして訓練を続けておる。皆の腕前もかなり上がってきてな」
嬉しそうに訓練の成果が出ていることを説明してくれた。
「そうそう予備のマガジンとやらをもう少し供給出来ないものか、せめて続けて5発撃てればと思う」
1回でマガジン内に入っている7・8個の魔石を全て一瞬でエネルギー放出させる為に、1発の威力は高くとも撃てる数が少ないのが気がかりなようだ。
「当初の魔道士クラスによる魔力充填では追いつきませんか?」
「残念ではあるがマガジン内の魔石を充填させるのに手間取るのが現実で、しかも一人で3回程補充すると魔力切れを起こすのがほとんどだ。無論ポーションにより回復させるが直ぐに元に戻る訳でないし…」
そうか、、つい森のエルフ達を基準に考えていたな とユウゾーは反省した。
彼女達はほぼ全てがレベルカンストに近く元々只人族より豊富な魔法量を持っていたので、2人が撃ち手そして1人が魔石補充担当でかなり続けて撃つ事が出来た。
「…確かに森のエルフ達の魔力量と同一に考えてはいけませんでしたね」
「エルフ殿達とは残念ながら魔力量が違いすぎますな」
将軍は苦笑いしてその事実を認めていた。
「承知しました。追加で1人2個のマガジンを送らせてもらいます」
おお それは助かると大喜びとなった、請求は遠慮せずにと言われたが、前回かなりの高額にて新武器を買い取ってもらった手前、今回は無償にて対応する旨を申し入れた。
やがて陛下達一行が会議室に到着し会議が開催される。
参加者は陛下以下各重鎮たち10数名が参加していた。
進行役の大臣からチェチェ国より自分達の陣営に参加しろとの文が届き、従わぬ場合は兵を送ると強硬な姿勢を持っての交渉文であった。ある意味事実上の開戦文に等しい。
「先の戦いに完勝した勢いもあり、かなり傲慢な文である」
会議に出席している皆が頷く。
「敵の進行ルートと敵勢力の数は予測出来ますか?」
「チェチェ国からの侵入先は中央公道の山越えしか考えられない、他に数箇所道はあるが大軍の移動には甚だ不適当と思われる。そしておそらく敵勢力は最低でも1万5千名以上だと…」
中央公道とはチェチェ国と結ぶ整備された街道になる。
山越えとなるが馬車2台がすれ違える道幅があり、古くから交易の主街道として利用されてきた。
場所てきには王都と第二の都市オレオンとの丁度中間地点に出てくる。
他の街道は馬車1台がやっとの道となり、道自体もかなり険しく補給に関しても苦労する。
中央公道以外には従来2本の道があったが、前回のステア国との戦いにおいて王都の近くに出てくる街道は現在ステア国が管理している。
つまり敵国は中央公道か大森林とオレオンの中間近くに出る細い道の二箇所しかない。
兵力に関しては新しい属国が増え、その兵力がほぼまるまる無傷で吸収されている。
おそらくこの属国から先発隊約5千名、それとチェチェ国主兵力1万が後軍として攻め込んでくると考えられていた。
チェチェ国内は留守兵が更に1万以上、同盟国の兵も6千程残っている計算となる。
それに対してこの国は総兵で1万弱、実際には各都市の警備と王都の留守兵2千名を計算して、敵と野戦に対応出来るのは5千名が限度となる。
「「「5千対1万5千か…」」」
野戦での戦いならはなはだ不利な戦いだ、通常は籠城戦が一番無理の無い戦い方となるが、ここで困るのは中央公道の存在だ。
敵が味方が籠城戦と判断した場合、第二の都市オレオンを押さえる可能性がある。
オレオンの豊かな農業地帯と大森林を押さえられた場合の被害は大きい。
王都軍は分断を恐れ籠城戦を排除して野戦に追い込まれてしまう。
これをチェチェ国は狙っている可能性があるのだ。
つまりチェチェ国としては野戦でも籠城戦でも何方でも良いのであろう。
無論最初から野戦勝負をしてくれれば手間が省けると考えてはいないのか?
会議の参加者全員が黙り込んだ。
確かに籠城戦でも野戦でも何方に転んでもチェチェ国は今までは有利と考えていた。
会議の重い空気を破るかの如く陛下の高笑いが響き渡った。
その声に皆が反応して陛下を注目した。
「聞けば聞くほどにチェチェ国とはやっかいな国であるな。ここまで聞けばあの国にさっさと降伏しておけばと考えたであろうな。なれど、我が国は幸いなことにユウゾー殿と言う強い味方を持つ事ができた。それにより此度のチェチェ国の攻略方まで提案してくれたのだ。それも敵を殲滅してしまう程の新武器まで提供してくれてな」
全員の目が今度はユウゾーに注目する。
や やめてくれ、たしかに武器は提供したが、この作戦を思いついたのはマーラだ…。
皆からの羨望の眼差しを受けて背中がむず痒く感じてきたユウゾーである。
出番かな? ユウゾーは諦めながら口を開いた。
この作戦については陛下と大臣及び将軍は前もって聞いていた。
この会議が始まる前に将軍より陛下が突破口を開くので、その後各参加者に作戦を再度説明して欲しい旨を依頼されていたのだ。