170 いざ 作戦伝授
チェチェ国の次の動きは麦の収穫を迎える初夏以降とギルマスは考える。
無論この国の陛下が色々と考えているだろうから、国からの連絡待ちになる。
ただ此方もいつ指示が出てもいいように準備も必要。
基本ユウゾーの対応待ちになるが、、、。
ユウゾーもコソコソ空き時間で武器を作っているから完成を待つだけだ。
城からの突然の訪問客が訪ねてきた。
第四王女グレイシアである。
お供の騎士総勢10名が同行している。
お供の騎士8名は数日の休憩後に一旦城へと戻る。
側には騎士2名と下女1名が残ることとなった。
また 長期滞在予定かな…。
うんざりとした顔でユウゾーはこの地に残るグレイシアを見つめていた。
そんな空気を読んでか無視してかは知らぬがグレイシアは上機嫌だ。
翌日には町娘スタイルに変身してユウゾー農園の木陰にて優雅にお茶を飲んでいる。
一応特使として今後の打ち合わせと意見交換の大義名分を用意してあった。
ギルマスやマーラ等とこれまでの実情の話し合いと新武器の効果的な活用法を話し合う。
陛下も今後のチェチェ国の動向をかなり気にして内偵の数も増やしているようだ。
敵の進行予定はやはりこの初夏以降か来年春早々が考えられるが、今年は新領土の安定に向けての内政に重きを置くものと予想しているようだ。
スネア国も現在大人しい、此方も内政を第一として考えているように思われる。
このまま共に大人しくしていてくれれば良いが、いつ火種が飛び込むやもしれない。
当面チェチェこくからの侵略が一番脅威として、オレオン市と王都の中間地点にあるチェチェ国に至る山越えの街道に防御を集中している。
山の峠にある砦の防御柵を強化して万一の場合に向けて対応するのだが、何回かの話し合いにてマーラから一つ提案があり、その作戦を検討に入る。
「なる程 あくまでもこの地は時間稼ぎでよい訳じゃな」
グレイシアはその策をじっくりと検討している。
「そうです 肝心なのはそれまでは新武器の所在を秘密にして、この地点にて一気に敵を殲滅する」
マーラは簡易地図の一点を指差し、頷いた。
「ふうむ 砦の山頂より登ってくる敵兵を新武器にて殲滅と作戦は進んでおったが、再度検討させねばならぬの」
「はい 細い山道で大軍を防止は賛成ですが、横に広がり山を迂回して防御柵の手薄な所を突破されれば味方の背後に回り込まれ、最終的には殲滅の危機が考えられます。それよりは…」
「…此方に有利な場所に引き入れて一気に殲滅を…」
「はい 但し簡単に砦から引き上げては敵の不信を買います。それなりの善戦が必要になります」
「うむ 味方の被害も多くなるの…」
グレイシアは多勢に勝てる目処はつけたものの、そこに至るまでの味方の損害も多いと感じていた。
「…それなりの猛者達を配備してもらうしかありません」
「承知した 至急母上様にこの案を採用してもらうよう働きかけよう」
グレイシアはこの晩遅くまでかかり話し合いでの作戦変更の案を書きしたため、王都の陛下へと親書を送り届けるのであった。
暫くして城からの返事がグレイシアに届く。
提案した案に賛同するがより詳細を希望される。
至急に城へ戻り打ち合わせをしたいとの事である。
迎えの騎士を送るので一旦戻ってくるようにとの陛下からの伝言だ。
まだ 帰るには早い とかなり不満げな様子であったが、国の大事がからんでいるのでこれは仕方ないであろう。
再度マーラからこの作戦の骨子と注意点を詳しく確認していた。
そして遅ればしながら到着した騎士達の護衛の中、一路王都へと移動していく。
皆がグレイシアが城に戻りほっとした顔を浮かべている。
もう暫くすると麦の刈り取りが始まる季節だ。
お願いだからそれまでは騒動が無いことを願っている。
「ユウゾー 新開拓村の整備を手伝ってくれ」
ギルマスより依頼を受けて手の空いている者を連れて出かけてみる。
今回は例の貴族用敷地となるため、本来は旧外壁をそのまま残し壁に二箇所の大きな通用門を開けて内部の通行に支障のないようにする。
旧外壁沿いには大きめの道路と花壇を設置して、如何にも庶民街とは違う趣きとなる。
本来はこんな区別はしたくないのだが、ギルマスよりたっての希望があり承諾する。
その分手間賃は弾んでもらいますよ 毎度!
「あれ 確か5区画を予定していたのでは?」
よく見ると真ん中が2区画を合算して計4区画になっている。
「うーむ その予定であったが、どうしてもとの依頼があってな…」
何かギルマスの歯切れが悪い、ああ 無理を承知で頼み込まれたのか、まぁよい その代わりしっかりと足枷の件はお願いする。
何だかんだで1日ギルマスの指示する工事を行い、それなりの貴族用地となる。
こんな事今回で勘弁して欲しいものだ。
しかしこんな僻地の魔物が闊歩する大森林に本気で別荘地として来ることがあるのか?
金持ち貴族の恐らく単なる避難場所として実際には誰も住まず、屋敷の管理者だけがいる不良物件になるだろうと推測されるが、それでも何人かの使用人が住みこんで僻地の人口も増えると考えればそれはそれで仕方ない事かもしれぬ。
「ユウゾー 帰って夕食にしよう」
マーラ達がやれやれ終わったと帰り支度をしている。
自宅に戻ると丁度狩りを終えたエルフ達が戻っていた。
「ユウゾー この武器は最高だな」
敷地内の寮生であるエルフ達は週に一度は交代で森に出かけ魔物を狩ってくる。
肉の食料調達もあるが、かなりの数の魔物を魔法袋に収めており、当面の肉以外はギルドに卸して各自の小遣いとなる為にエルフ達は銃の慣れと訓練も兼ねて皆が楽しみにしている。
「おう 今日の狩りの結果は満足いったかな?」
5名のエルフ達は皆ニコニコして美味しい魔物肉だけを選別していた。
うん お陰でかなりの肉を備蓄しているので今回はほとんどギルドに持ち込む予定になるな。
彼女等の顔が更に嬉しそうに輝いているな、かなりの金額を稼ぎそうだな。
でも新開拓村の悪所にはあまり出向かないようにな。
前の派遣エルフ達から色々な情報が引き継がれているようで、少し心配する。
皆返事はいいが心は別の所に心は飛んでいるような…。
マーラとアーシャが苦笑いをしてミーアが少し怒っているような気がする。
まぁまぁ とミーアを宥める。村を離れ少しは息抜きも必要だからな。
張ったままの弓の弦は切れやすいと言う、何事も程々であろう。
まずはこの美味しそうな肉を皆で解体処理しなければ、1日の仕事が終わった他の者達も集まり賑やかに解体が始まる。
その間何人かが余った魔物をギルドに運び込んでいる。
うん 今日も無事に1日が終わりそうだ。