160 いざ 今後の対応相談
暑い夏になる。
森の中なので時折爽やかな風が吹くが、基本暑いものは暑い。
畑仕事は朝早くと夕方に注力して、日中はなるべく家の中か木陰にて過ごすようになる。
特に昼食後は木陰にてハンモックに揺られて皆がのんびり過ごしている。
「そうだユウゾー キリアーナからの報告でチェチェ国が隣国を狙いまた動きが出たようだ」
「…懲りない国だな、狙いはどの隣国なんだい?まさかこの国では、、」
「いや ユーラシアが標的ではないらしい、当初は訓練と思われていたがどうも本気らしいと判明したんだな。どうやら寝返った国への嫌がらせ行為が疑われている」
当初味方していたが停戦後スネア国についた国の国境近くで演習行為を繰り返している。
場合によっては寝返った国が暴発してくれれば儲けもの程度の訓練らしい。
そうなれば大義名分が出来て攻略に勢いがつくとの事だ。
「だがスネアとの戦火でかなり消耗して国も荒れてないのか?」
「あの国は根っからの軍事国家だ、今回奪われた領地も次回には奪い返すと虎視眈々と狙っている。流石にスネアと直ぐに再戦とはいかぬが、裏切った隣国程度なら余裕だろう」
「本当に懲りない国家だな。ある意味感心するな」
「スネアもそこの所は十分理解している。だから深追いせずにあの条件で手を打ったのだ。それにスネアの新王の手の内も今回の戦で十分理解しただろうから、次回には手強い戦いになるぞ」
チェチェ国はまだまだ健在のようだ。
お願いだから少しは懲りて当面大人しくしてもらえばよいのだが…。
恐らくそんな事にはなるまい、何とか良い手はないものかユウゾーには理解外だ、もう一度手痛い目に合わない限り野望は簡単には止まるまい。
マーラ達も同意見のようだ。
こちらは農作業で忙しいのにな、厄介な国があるものだ…。
「何処に攻略先を考えているか不明だが、近いうちにひと騒ぎありそうだな」
妻達も今後を憂いて考えこむ。
「なぁ ユウゾー、例の大森林の入り口に門を構える件はどうなった?」
「…門を構えるのは諸刃の剣となるぞ、必要となれば数日で作ってみせるが最終手段だな。誤解をまねかないように国にも前もって話しておかねば大騒動になるからな」
門を作ればこの大森林地区が一国の独立国となる、当然各方面から注目を浴びてしまう。
経済も今まで通りとはいかない、最悪各国からの流通も支障が出る。
「もし門が完成すれば実際にどの程度の兵を阻止できるのだ?」
アーシャも少し気がかりなようだ。
いつの間にかユウゾーの周りに皆が集まってきている。
「…正直対応してみなければ迂闊な事は言えぬが、城門は最低高さ10米は欲しいな。その城壁から数十名の新型銃を装備した者達がいれば…あるいは万の兵が来ても防ぎきれるかな?無論他にも支援の兵が参加する事が条件になるがな」
「す 数十名の主力人数で何とかなりそうなのか?」
幅100米ほどの城壁の上に5米間隔に新型銃を配備出来れば、正面攻撃に対してかなりの成果を出せるとユウゾーは言う。
新型銃はあくまで基本遠距離攻撃に主をおいて、城攻めの武器や弓矢部隊への殲滅に成功すれば敵の攻撃力はかなり低下する。
一斉攻撃をくぐり抜けた兵は通常のサイコ銃による攻撃を他の守備兵が連射にて倒していけば良い。
基本の形はそれで門にまで辿り着ける敵兵は数少ないだろうと、辿り着けてもほぼ素手の状態では門には何の損害も与えられぬと考えている。
無論ユウゾーは戦いの専門家ではない、集団戦が得意なマーラが新型銃と通常のサイコ銃の効果的な使用方法をギルマスと良く検討して出した答えだ。
「うーむ 確かに敵が正面しか攻撃方法が無いのなら、意外と単純な攻めになるな」
敵が四方八方から攻めてくればそれに対応する人数が必要となるが、正面の敵だけを考えれば良いのであればまして守る距離は百米に限定されるなら少ない人数で対応は可能だ。
城壁百米を一度に万の兵が攻撃出来るはずもない、前面の数百名を次々と撃破すれば理論的には守れる。
その際に厄介なのが攻城武器と敵の矢攻撃を阻止出来ればの話になる。
「敵の矢が一番の被害を生むだろう、そして門の破壊武器さえ移動中に始末出来れば後は一斉攻撃にて味方の被害は少なく、逆に敵の損害は甚大なものになると考えている」
「そ そうなのか、私はあまり頭がよくないのでユウゾーがそうだと言うならそれを信じよう」
ミューは感覚的に問題なさそうだとは思ってみても、実際にはそんな大きな戦いの場に参加した事もなく、何が問題点かよく理解出来ていないようだ。
其の点はユウゾーも同じだ、只過去の戦記等から情報として入っている事を整理しながらの理解となる。
実際の戦場での現場は何が起こるのかわからない、それ故指揮官の能力ととっさの機転が求められる、この点はマーラとギルマスに丸投げするしかない。
「城壁の防衛より問題は野外での一戦の方が数段難しいぞ」
ニーナがミューに諭すように話し出す。
「うん 相手の勢力が数倍違うだけで問題になるのは理解しているぞ」
魔物と違い飛び道具が並ぶ人族の野外戦はある意味人数勝負がこの世界では常識になる。
飛び交う矢の数がある意味初戦の勝負を決めるのはよくあるケースだ。
「今後の野外戦に考えがあるのか?」
黙って聞いていたミーアからの質問が出る。
敵国とこの国との大規模戦の事を言っているのだろうと判断した。
「…難しいがどの地点で戦になるかに勝負がかかっているな」
数倍の敵を相手にするなら守りやすく攻めやすい場所が理想的だ。
時間を稼いで援軍を待つなら籠城戦だが、この国へ支援の兵を送ってくれる国は現時点では皆無だ。
無論この国の王族達が味方になってくれる国に働きかけているが、皆自国の事で手一杯なのだ。
「…戦う場所の選定が必要か、、」
ギルマスからの情報にて国境の山の峠に今懸命に砦を建設中らしいが、無理をすれば迂回路にて山越えで砦の裏まで侵入する事が可能らしい。
万里の長城でも作らねば時間の問題で侵入を許すとの事だ。
時間稼ぎにしかならないようだ。
なれど時間稼ぎに使えるならその間で細工も出来るか?
地形を確認しなければよい案も出ないな…。
マーラが何やらニヤリと笑った気がした?
一瞬あの悪い顔を浮かべてニーナと何やら小声で話している。
また普段の顔に戻ったが、何かよい考えがあるのか?
まぁ 良い、必要な時は説明してくれる筈だ。
よい考えが浮かんだ事に期待しよう。
ユウゾーに出来ることは新型銃を一つでも多く作り置きする事だと自覚している。
作戦行使に関してはギルマスとマーラに任せておけば良いからな。
さてさて 午後の仕事開始とするか、ユウゾーは大きく背伸びをした。