158 いざ 待ち人来たり
二週間近くをかけて馬車は大森林の我が家へようやく到着した。
ユウゾーは真っ先に畑に向い走り出す。
丁度午後の休憩時間であり、皆が集まり大きな木の下でお茶タイムである。
「「「おう ユウゾーが帰ってきた」」」
目ざとく皆が走ってくるユウゾーを見つけて声が上がる。
「只今だ! は 畑は…」
挨拶もそこそこに畑に目を移すとそこは綺麗な畝が出来上がり、各種の野菜の新芽が出揃っている現場を目撃することになる。
「おお 凄い! 芽が出ている…」
王都への往復に約一月近くの時間が取られた、この間ユウゾーは何もできなかった。
「カリナ達が凄く頑張ったぞ」
ニーナが褒めてやれとばかりにユウゾーに笑いかける。
「そうかそうか 有難うな 今回は助かった 本当に有難う」
カリナ達3人の手をとり感謝を伝える。
「いやいや 他の皆も協力してくれたお陰だぞ」
照れくさそうに3人も笑い出す。
ほっとユウゾーは安心した息をはいて、畑の細部を改めて見直した。
「そうだ 今年初めての蜂蜜も取れたんだ、今ライラが台所でお菓子作りの最中だ。まずは家に入って着替えてくれば良いぞ」
アーシャも着の身着のままで駆け込んできたユウゾーに声をかける。
「そ そうだった。まずは家に帰り着替えねば…」
ユウゾーに追いついたミーアと共に家の中にいる者達に帰宅の挨拶に向かう。
家に帰りライラとケイト母娘に王都からの帰還を報告する。
その夜はユウゾーたちの無事の帰還を祝してギルマスも参加しての盛大な食事会が開かれる。
その席で王都での出来事を土産話として皆が盛り上がった。
春を迎え作物は順調に育ち始めたが、一つ問題点も出てきた。
「ユウゾー この規模でこの人数では少し手が足りないぞ」
新しく土地を広げた事により皆の手が限界状態になってきた。
「うーむ 新開拓村から募集するべきか…」
畑仕事が得意ではないマーラも駆り出されて手伝っているが、なかなか捗らないのが現状だ。
「ユウゾー 是非前向きに頼む。我の白魚のような指が泥まみれだ」 とマーラが。
何が白魚の指だ… 怖いから口には出さないが。
それに新開拓村はまだまだ人手が足らない状態であり、募集しても人が集まるか疑問なのだ。
ならば畑を拡大しなければ良かったが、新開拓村の村民たちから新鮮な野菜の要望が強く上がっている、つい勢いで土地を拡大したが人手不足は切実な問題となる。
「…もう少し待てば何とかなるかも知れん」
ニーナが鍬の手をやすめながらマーラとユウゾーに語りだした。
「ほら そろそろ各村から新武器関連で派遣されるだろう…」
なるほど その手があるな…マーラとニーアが悪い顔で相談している。
えーと 何となく考えが分かるが、ほどほどにな…。
ユウゾーの敷地には新客が届いていた。
第一陣として 鶏4羽と山羊のつがいが2頭。
簡単な柵に放し飼いされて飼われていた。
早速 我が家のお姫様たちが遊び相手と認識して柵の中に入り込んでいた。
鶏はまだしも山羊にあまりちょっかいを出すと押し倒されてよく泣き声が聞こえてくる。
それでも好奇心が勝るのかよく柵内で遊んでいるという。
家畜達は何方もこれから繁殖して数を増やさねば…。
近々第二便も届くので楽しみだ。
そうそう我が家の小さなお姫様達はまだ三歳なのに魔法起動が出来るらしい、正確には形として現れていないが、家族の者達が畑等で時折魔法を行い作業しているのを見ていて、見様見真似で発動しようとしている所をマーラ達が魔法起動感知して気づいたようだ。
もう少し経てば形になるから放っと於けば良いと笑っていた。
うむ 流石我が娘とユウゾーはつい頬が緩んでしまう。
何なら生活魔法を自分が教えようかと皆に言うと、呆れた顔で見られてしまう。
解せん…。
さらに一月ほどが経過しギルマスより戦場の最新情報の報告と傭兵訓練の終えた冒険者達も王都より戻り、普段と変わりない日々がこの大森林には続いていた。
ユウゾー達やケイトも益々忙しく日々の暮らしに明け暮れていたある日、待望のエルフ集団が開拓村に到着した。
第三村の補佐役が直々に総勢30名程のエルフと我が子を引き連れて訪問してきた。
エルフの勇者たちの到着になる。
用意してあった部屋と入りきれない者達の為に大型テントを何張りか出してまずは旅の垢を落としてもらおう。
ご苦労さまでした、今夜は歓迎会で盛り上がろう。
えーと ギルマスいつの間にか参加しているようだが…まぁ いいか。
今回到着したエルフの中に見覚えのある顔が何人かいた。
例のダンジョン騒ぎの折に見知った第一・第二村の者達だ。
宴会の折にもあの当時の思い出話で盛り上がった。
酒のせいか随分なつかれてしまったが妻たちの目が怖いので手など出していません。
いや これ以上は正直無理です。
今回の30名は取り敢えず新開拓村の交代要員が半数、それにもしかの時の戦士として逗留してもらうのが半数だ。
無論一大事の時は全員が王都へ向かうことになる。
翌日から早速訓練となる。
まずは確認にて全員の思念力を改めて確認してみた。
流石エルフの猛者達で全員が160~240の数値を叩き出す。
新型銃の取り扱いと実際の実地訓練をほぼ一週間行い、満足する結果を残す。
特に全員にての一斉攻撃はそれは見事なものて゛見学していたギルマスやたまたま城から報告に来ていた使者達が大満足の様子で眺めていた。
戦場の様子もかなり緊迫した様子で両軍が互いに一歩も譲らぬ膠着状態が続いていたが、スネア国の新国王の采配が冴え渡り戦況が動き出したと報告があった。
戦闘訓練と新開拓村の交代要員としての教育が終わり、一年間働いたエルフ達は用意した魔法袋に沢山の手土産を詰め込んで帰還となる。
ついでに各村のオサに城より届けられた軍資金の白金貨10枚を分け与え届けてもらう。
第三村の補佐役も数週間に渡る滞在期間を名残惜しそうに息子ともども別れる事になった。
子供達はすっかり互いになつき別れを寂しそうにしていたが、来年また会えると各村に帰る15名のエルフ達共々に手を振りあっていた。
残った半数のエルフ達はもしかの為の非常要員としてユウゾーの元で引き続き訓練と畑仕事の手伝いとして住み込む事となっている。
まずは今後の事もあり空き地に簡易集合住宅を建設した。
エルフたちの手慣れた作業で30名程度が住める家が完成した。
マーラとニーアがこれで自分たちの畑作業が楽になると悪い顔を浮かべている。
…何も言うまい 妻たちに迷惑かけているのは事実だしな。
この15名が何もなく帰還する時にはそれなりの報酬を払わねば。
明日からの仕事の段取りを考え始めたユウゾーである。