152 いざ 波高し
お待たせしました。再開しますが未だ先行きが不安定なので当面は不定期な投稿となります。 最低でも週に数回の投稿を考えておりますが、ご了承のほど。
「何だと 停戦条約が成されたと」
「はっ 陛下。今しがた内偵の者から知らせが入りました」
「詳しく報告せい」
当初の予定とおりアングル都市郊外にて強靭な陣を構えて共に睨み合いの越冬となる模様であったが、急遽互いの使者を通し話し合いがもたれ電撃的な休戦締結が成された。
「領地の話し合いはあったのか?」
「全て凍結にて戦いのみが停戦状態であると各内偵の者から報告がありました」
チェチェ国スネア国にも内偵者や協力者を通して同じ報告が上がってきているので、停戦条約が一時的にしろ互いに認めあった事には間違いなさそうだ。
「うーむ 大臣これをどう読む?」
「はい 思いますに、互いの利益が一致したと思います」
実に中置半端な停戦条約であるが、大臣はまずはスネア国の分析について私見を述べる。
勝利モードにて勢いのあるスネア国ではあるが、一番の問題は兵站が伸び切っているのが問題点として上げた。
雪はそれほど降らない地区ではあるが兵站路は途中山越えの箇所があり、峠越えにおいては雪中行軍となるため大量の品を運ぶにはかなり無理をしなければならない。
最前線には少しづつ運び込み蓄える必要が出てきた。
然るべき日に備えて各種食料品・部材の備蓄を最重要項目に設定したと思われる。
チェチェ国は当初有利の下馬評から敵方有利になりかなり慌てて統率を再度練り直す必要が急務となる。
敵の力を見間違えた事が原因であるが、再度全軍の士気を高める為にも時間が必要となる。
恐らく再戦時には国を上げて必死な攻撃が予測される。
今は部隊編成に時間が必要な時期であろう。
「ふむ 通常なら勢いに乗るスネアがそのままチェチェに襲いかかるのが常だが、新国王の序盤の戦いぶりは実に見事なものだ。なれど天狗にならずに一時休戦に同意する判断も見事」
いけいけゴーゴーはつい戦勝時には行ってしまう行動だが、自軍の問題点を正確に判断して行動するのは言葉では簡単だが、実際には勢いの中で判断を誤ることが多々ある。
かと言って過度な心配はせっさく勝てる戦を負け戦にも変えてしまう事もある。
ここの判断が統率者に求められる大事な点だ。
「スネアの新国王はかなりの戦上手と見てもよいのか」
「はい これまでの戦いぶりから判断しますと、そう考えてもよいと…」
「うーむ 厄介だな。此方はもう少し両国が消耗戦を繰り広げてくれて互いに疲れ果てる事を期待しておったが、そう上手くはいかぬか」
陛下は腕組みしながら深い溜息をついた。
陛下の当初の目算は少しあてが外れたようだ。両国が消耗戦を繰り返している間に此方は侵略への防備を強めていく予定であったのだ。
「まぁ 春までは恐らく動きはなしだな、できるだけの準備を此方も進ませなければな」
「何としても迷人の協力が必要な事態になりますな…」
陛下と大臣はこの国の存亡をかけて話し合うのであった。
両国の停戦は暫くして僻地の新開拓村にも届けられた。
ギルマスも現地情報をギルドの情報網として入手していたのだ。
「それは再戦に向けての一時的な停戦と考えてよいのか?」
ユウゾー宅にてギルマスの報告を皆が聞いていた。
重い空気の中でマーラがギルマスに尋ねる。
「恐らく推測通り一時的なものだろう。互いに再度準備を整えて春以降に…」
新開拓村から半数ほどの冒険者が消えていた。
国から傭兵団の募集がかかり、首都に移動してしまった。
冒険者達は基本小人数での活動が主の為に大人数での組織だった行動には慣れていない。
一時的に軍に組み込まれ組織戦を練習する必要があるのだ。
ひと月ほど訓練期間を過ごして再びこの新開拓村に戻ってくる。
そしていよいよとなった時には再度集合が発せられて戦場へ傭兵として参加する運びとなる。
その訓練中優秀な人材はスカウトされてそのまま首都に滞在する者もいるそうだ。
「ユウゾー新武器の製造状況はどうだ?」
「実は先日城より手紙が届き同じ内容を尋ねてきている。少しでも多くの武器を作って欲しいとな」
そうは言っても今回の新武器は少し製造工程が厄介だ。
まず劣化版複写で歩兵銃とサイコガンの70%性能の品を作らねばならない、その後この二つを錬金術にて合成させる工程が必要となる。
どの工程もかなりの魔力が消費され日に何丁も出来る品ではないのだ。
おまけに出来た品は誰でも使用できる品ではなく、使い手を選ぶ品となる。
武器使用効率としてはあまり良いとは言えない。
だが使い手に問題なければかなり有効な武器となるので、一丁でも多く製造する必要がある。
しかしこの武器は只人族には貸用はあるが、基本売買は考えていない。
最悪手に入れて模造品を作ろうとしても現段階ではオーパーツに近い物なので、そう簡単には模造品は出来ないと思ってはいるが・・。
「少し早めに数を揃えてみるが、日の製造数は限度がある」
「うむ 本来はこんな物騒な武器はお蔵にしたいが現実問題の壁があるからな・・」
ギルマスも新武器に対して少し嫌悪感があるらしい、それはそうだと思う。
ユウゾーとしても出来るだけ目立たぬ様に使用したいと思っているが、自分たちの生活が脅かされる可能性があるなら対応せざるをえない。
今更他の土地に移住するわけにはいかないのだ。
そしてこの森にはユウゾーの祖父と関係深いエルフ達が住んでいる。
そのエルフ達を守らねばならないと考えていた。
「無理を言うが この大森林を守る為にも是非とも手を貸してくれ」
ギルマスや他のエルフ達もユウゾーに期待の目を向ける。
「了解だ 及ばずながら力は貸す」
この冬は新武器作りで終わりそうだなとユウゾーは気合を入れ直す。
温室ハウス内で錬金術を行い新武器を作製していたユウゾーは、隣で一人酒盛りをしているマーラに目をやると錬金術の手を休め。
「なぁ マーラ…」
「うん どうしたユウゾー?」
「この大森林は三方を山に囲まれているよな」
「うむ 唯一の入り口は峡谷の幅百メートル程度の一箇所だけだが…」
「そこに丈夫な門を作れば独立国として成立しないかな?」
あん? マーラは突然のユーゾーの質問に耳を疑った。
何を急に思いついたような提案をこの男はしてくるのだ・・。
一瞬ユウゾーの考えを理解出来なかったマーラであったが、よくよく考えれば国という体裁をなすか成さぬかは別にして峡谷に門が完成すれば、天然の要塞大地帯が発生しそうだ。
東側全面は高さ二百メートルほどの垂直にそびえ立つ岩壁が何百キロも続いている。
高さは左程高くはないがその垂直にも似た岩壁はまともな方法では決して超えることが不可能な地形であり、攻める側には多大の損失が予測される地形である事は間違えない。
この岩壁がさらに南に続き切り立った岸壁となり海に続いて行くと伝書されていた。
実際にはマーラもこの南側の地形は確認したことがなく昔からの言い伝えでしかない。
北は険しい山々が連なっており少人数での突破は可能かもしれないが、大規模での軍隊の行軍は難しい地形となる。
旧日本軍の兵隊なれば未開のニューギニア奥地の山越えを成功させたが、この世界の軍隊ではまず成し得ない行動となるだろう。
問題は西側の大森林が終わる事により発生する大草原地帯であるが、その大草原の先も海に継っていると伝書されている、が誰もそこへ達した者がいないのが現状である。
途中の大草原地帯には草原に適応した魔物が住み着き、まず大軍においても突破には多大の被害が予測されるからである。
不明な地形が多いが峡谷の入り口に門を構えれば、意外と難攻不落な大天然要塞地帯が生まれる可能性は否定できないとマーラは考えつく。
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