151 いざ 内偵者
身内の看護の為今週は休筆いたします。 来週には再開予定となります。
寒い風が大森林を吹き荒れる。
いつ雪が振り始めても可笑しくない状態になってきた。
薪割りを終え、冷える体をお風呂にてユウゾーは暖めている。
冬越しの準備は完了したし、いつでも来いと風呂場から外の景色を眺める。
「何々 いつでも来いとは?」
マーラが風呂場に乱入して来た、思わず身構え防御態勢に入ったユウゾーだ。
「何だ 口と態度は一致しないな」
かけ湯を浴びて浴槽に入り込むマーラに何も言えぬユウゾーであった。
「…で 何故ここに?」
「良いではないか 寒い時はお風呂が一番と教えたのはユウゾーだろう?」
確信犯に近い笑顔でそうのたもうマーラだ。
「はぁ 確かに…、それで何か話し事か?」
「はは 流石ユウゾー、実は少し相談事なのだが…」
風呂から上がってからでも良さそうなのだが、何でしょう?
「マルーの事だ」
カリナの仲間でもあるマルーがどうしたのだ?
「最近判明したが、どうやらマルーは宮廷の内偵者と思われる」
「スパイ??」
こう言っては何だが、とても内偵などできるタイプとは思えない。
気が弱く常にカリナに振り回されて左程自己の主張も強くない、人を観察して注意深く小さな事でも気づくようなタイプでもない。
つまり内偵など一番不得意な人物と思われるのだが、いや実はその姿を他人に分からぬように偽装?
いや其れは少しおかしい…。
彼女と出会った頃からあの調子だったな。
内偵目的で途中で自己を代え始めたのであればカリナ達が先に気づくだろう。
まさかカリナ達もグル?
「いや カリナ達に不審な行動は見受けられないぞ」
ならばマルーだけが何故? いつからなんだ?
「うん それがな…」
マーラが気になりだしたのは今年の春頃だと言う。
それまで皆とは一緒にガヤガヤ騒いでいたが、この春以降時たま一人になることが多く、この家の中を何か探している気配がある、そして少しの時間であるがこの屋敷から出て新開拓村に出かける時があるが、当然怪しまれる程の時間ではなく、そうだな…誰かに手紙でも渡すようなさりげない時間での単独行動がたまに見られていた。
「そ そうなのか、まるで気がつかなかったが…」
「ユウゾーは人物を信用すると、何をしていてもあまり気にしないタイプだろう?」
うーむ 言われればそのケはあるかな?
第一他人を疑う暇があれば、畑仕事や錬金術に汗を流す方が好きかな?
「ユウゾーは其れで良い。人を把握するのは私等に任せておけ」
すまんなマーラ 宜しくお願いする。
「それで 本人には問い詰めたのか?」
「昨夜 マルーを呼び出してニーナと二人で尋問してみた」
何と 何ならその場に呼んでもらえれば…。
「お前は夜は忙しいだろう?」
うん? どういう意味かな… ああ もしかしてお勤め時間の時かな?
「下手に呼んでお前のお相手に中座したら私が怒られるし、それに今日は私の番だから予定がズレるのは甚だ迷惑だ」
…了解しました、、、。
「それに手こずることなく意外に簡単に認めたぞ」
おっ やはり内偵を認めたのか、何を探っておったのだろうか 気になる。
「うむ この家での何か変わった動きの報告が中心だが、当然お前の事が最重要報告内容になる」
何と 本格的な内偵行動だな、少しワクワクするな…。
「特にお前に関して雇い主から注文があってな…」
うんうん その先を早く話しておくれ。私の何が知りたいのだ、やはり迷い人の知識や能力等が気になるのかな…。
「お前の日常事に関しての報告が希望だ。つまりお前の一日の仕事ぶりや趣味それと女性の好み夜の特殊な性趣味等が特に喜ばれるとの事だ」
……はい??
マーラが笑いを噛み殺し肩を震わせている…。
「…もしかして 依頼主とは」
「察したか そうだ第四王女のグレイシアだ」
何なんだ ここまで散々期待させての この落ちは!
「まぁ 一応今日は裏を取りに新開拓村にいる連絡員とも会ってきたが、間違いなさそうだな」
何それ その連絡員もマルーも…。
「どうする 一応内偵は内偵だ、この家から追い出すか?」
「…アホらしい なれど今後夜中に私の部屋の扉にて聞き耳は厳禁だ。約束を破ればバツを加える」
ユウゾーは急に湯あたりした様な気がしてきた、何か頭がクラクラしてくる。
「それと 今までの内偵支払い金を持参してきたので、一応預かっているがどうする?」
「…没収だ。当面皆のお菓子代に決定」
了解した マーラは後ろを向いて笑いを堪えているようだ。
湯あたり防止に二人は立ち上がり、窓を全開にして入る冷気にて頭を冷やすのであった。
「マルー お前な…」
「言わないでくれカリナ 仕方ないだろう王女様直々の頼まれ事だぞ。断れるか!」
マルーの内偵の件が皆に知れて頭を抱えるマルーの姿があった。
「…何故 私に相談しなかったのだ」
「他言無用と釘を刺されたのだ、私に何が出来る」
半分やけになって答えるマルーにカリナを始め皆が深い溜息を吐いた。
「まぁ良い ユウゾーも呆れて物が言えない状態だが、この件別に咎めはしないようだ。只二度目は無いぞ、その点くれぐれも忘れるな」
ニーナがマーラからの伝言を受けてマルーにきつく言い渡す。
「済まない よく覚えておく。ユウゾーに謝ってくる」
フラフラと立ち上がるマルーに皆が慌てて止める。
「ば 馬鹿、この時間帯はダメだ。先程マーラが部屋に訪問したからな」
えっ 何を言っていると少し呆けた顔をしたマルーだが、直ぐに意味がわかった様子で力なく再度椅子に座り込む。
「そうか なら明日だな…」
ほとんど視線が定まっていない状態でぼんやりと皆の顔を見つめるマルーである。
冷たい冬の風も温室ハウス内は暖房が効いて気持ち良い。
酒飲みメンバーがユウゾーの話しを肴に盛り上がる。
「処でユウゾーはまた錬金術か?」
「うむ 良く根が続くわな、関心する」
アーシャの問にマーラが答える。
「紛争のその後の経過はどうなんだ?」
ニーナがマーラに酒を注いで尋ねた。
「キリアーナによるとチェチェ国土の1/3がスネア軍に攻め込まれている、只快進撃もここらで止まる気配だと」
「首都に近づけば防御陣も強力になり、加えて寒さが行軍を遅らせるからな」
「アングル都市付近に冬越し用の陣地構築している噂がある」
「あの場所は防御に適しているからか…」
「なかなかスネア軍も突破出来ぬだろう」
「恐らく彼の地あたりで両軍越冬になるだろうな」
三人は頷きあう、勝負は年明け後になるようだ。
「ユウゾーの武器をどう見る?」
「運用の仕方にかかっているな、武器としては優秀だが数が問題だ」
「それよ 籠城戦に使うだけでは勿体ない気がするが…」
「使用場所を選べばかなり面白い戦い方も可能だ 例えば…」
地面に棒で地図を描きあれこれと対応方法を説明しだした。
「なる程 これなら一気に体制を崩して相手の崩壊も可能だが、こんな都合の良い場所などあるのか?」
「実は一箇所思い当たる場所がある。このルートから敵がくるなら勝負の目はある」
酒を片手にまだ見ぬ敵に対して語りだす三名であった。
身内の看護の為今週は休筆いたします。 来週には再開予定となります。