149 いざ 王女の決意
新型銃完成の噂はすぐにギルマスの知るところとなり確認に訪れる。
秋の収穫時に向けユウゾーは銃開発による遅れを取り返すべきに夢中になり、畑と格闘中のユウゾーにとっては半分迷惑な訪問でもあるが、大森林の未来にも関わる事と忙しい作業の間にギルマスとマーラと三人にて河原に出掛ける。
「何だこれは!?お前えげつない武器を作りおって…」
ギルマスは新型銃による試し打ちで破壊された木々を呆然と見ていた。
「まだ 細かい点は改良の余地があるが、全ては秋の収穫後だな」
「…お前これで国を奪う気はあるまいな?」
誰がそんな面倒な事を…。
「いや これを何百丁も揃えればあながち夢物語ではないぞ」
マーラも笑いながらユウゾーに可能性を指摘する。
「勘弁してくれ、俺はそんな暇人じゃない」
心底面倒だとユウゾーは顔をしかめた。
ユウゾーにはこの世界での残りの寿命が限られている。
何だかんだと残りの寿命は25年程度に迫ってきている。
争いに明け暮れて無駄に過ごしたくはないと空を見上げてため息をつく。
「…運用方法は何か考えているのか?」
ギルマスは用心深く質問を投げかけてくる。
使い方次第でとんでもない結果が見えただけに気になる点であろう。
「そうだな…基本この村で管理するが何ならエルフの各村に防御用として各数丁は配備しても構わないぞ」
最悪盗まれての悪用も考えられるが、現段階においてこの新型ハイブリット銃はオーパーツに近い存在であるので真似て作製しようとしても無理であろうと説明する。
なんせ構造の半分はヘパフラスコ神様によるサイコ銃がベースだ。
只今までの概念からこれの発展型として火薬銃に移行する可能性はありそうだ。
それでも可能性は低いかなとユウゾーは考えている。
この世界は魔法が満ちている、発想は便利な魔法を発展にする筈だ。
事実ユウゾーもサイコと魔法のハイブリット銃として生み出した品になる。
「ふむ 管理は特に最重要課題だな」
ギルマスとマーラが互いに頷く。
その銃の性能を見て呆然としたのはギルマスだけではない。
秋の収穫も終盤になった頃に訪問したグレイシア一行も只その威力に言葉なく佇んでいた。
「ユウゾー殿…これは一体何なのだ」
「新型の魔法銃です」
あえて魔法銃で押し通すユウゾーであった。
「是非とも大量にこの品を…」
王女の補佐役で同行していた筆頭政務官がすがる目でユウゾーに依頼するも
「残念ですがこの銃は人を選びますし、どんなに急いでも月に数十丁が限度です」
人を選ぶのはサイコガンの特徴に置いて仕方のない事であり、作成できるのはユウゾー本人のみとなれば無理も通用しないと筆頭政務官も黙らざるをえない。
有事の時は出来るだけ多くの銃を持参して参戦して欲しい、と約束を交わすのが精一杯の依頼となった。
ギルマスも参加しての今現在の紛争状態の説明を聞いたのは昨日の事であった。
ほぼ開戦が決定し、この国は最終判断をユウゾーの持つ戦闘力を見極めて行う姿勢がありありと言葉の端々から察する事が出来た。
筆頭政務官は有事の参戦後にはそれなりの官位贈呈を追加約束したが、それにはユウゾーはやんわりとお断りを入れ、大森林への無差別な開拓を行わない当初の約束事で十分だと余りにも欲のない言葉に軽い失望感を味わっていた。
この様なケースの場合大抵はとてつもない要求がこの世界では常識になっている。
過小な要求はかえって相手にとって何か別の思惑があるのかと疑念されてしまう。
その様子をギルマスが可笑しさを堪えながら ユウゾーに下心は無いから安心せい とフォローを忘れない。
ギルマスの言葉にようよう納得した政務官は数日後には報告の為に首都へ急ぐ。
またもや居残りを決めた町娘姿の王女は、妻達の苦虫を噛んだ表情にも我関せずと決めつけ、ユウゾーの後から事ある毎について回る生活を始めていた。
えーと 王女様 ここは厠ですが…。
さすがのユウゾーもグレイシアの積極性に持て余し気味になる。
そんな様子を物陰から観察しているギルマスとマーラが互いに苦笑しながら、
「どうも王女の様子は本気と見えるな」
「うむ ユウゾーも厄介な相手に見込まれたものだ…」
だが考えればこれは相手にとっては有効な手段となる。
欲のないユウゾーに四女とは言えれっきとした王族との婚姻関係が認められれば、国としても迷人の囲い込みが成功したと判断される。
ましてグレイシアは演技としてユウゾーに接している様には感じられない。
「ユウゾーはあの姫を嫁にするのか?」
いつの間にかミーアが近寄りマーラに尋ねる。
「うーむ 状況次第だが、可能性はあるな」
そんなマーラの言葉にミーアは憮然とした態度を見せ、注視していた。
「心配するなミーア。ユウゾーはこの森から別の土地に住む気はないと見た」
ギルマスの言葉に少し安堵感を深めるミーアであった。
秋の収穫及び小麦関連の種蒔きが終えたユウゾーは、冬の準備として温室ハウス作りに取り掛かる。
昨年テストケースとして小型の温室ハウスにてそれなりの成果を上げると、今年は本格的に規模の大きいハウスを二棟作り上げたいと思っていた。
皆の手助けのお陰で温室ハウス作りは完成した。
王女グレイシアも好奇心もろ出しでユウゾーの作るハウスの完成手伝いにも参加した。
「ユウゾー殿 このはうすとやらで冬にも本当に作物が取れるものなのか?」
昨年のテストにおいてそこそこの結果が出たとグレイシアに説明を始める、無論この森にて大量に採取出来る薪があっての対応ではあるが。
「後から設置するストーブにてこのハウス内を暖房する事が条件ですが…」
「ふむ ユウゾー殿は若いのに物知りなのだな、やはり迷人の知識なのか?」
少しでも疑問が湧くとユウゾーに質問を投げかけてくる、王女のその知識欲に関心しながら解りやすく原理説明するが半分も理解できないのは仕方ない事だと理解する。
「これが国中で広まれば冬の野菜不足から解消される訳だな…」
豊かな王宮でも冬は新鮮な野菜不足が発生する、一般人では特にビタミン不足による病が冬季には避けられない問題でもある。
それと保存食が多くなれば塩の摂取量も当然上がってくる、血圧関係の患者が増えてくる。
「そうですね 冬に病で苦しむ人々が少しでも少なくなればと思います」
「ふむ 下々の民の健康維持にもこのやり方は勧めねばならぬな…」
理屈はそうなるが現実は難しいとユウゾーは考えている。
庶民は冬を越すための薪にさえ不足している、無理に伐採を推し進めると森から木が無くなり、また別の問題も発生してくる。
「なる程な そんな知識まで迷人は身につけているのか…是非にもこの国の学者達も教えをこわねば…」
ユウゾーの知識を何とか吸収してよりよい国を作りたいと王女は考え始めた。
今までの迷人達は自己欲に忠実で迷惑のイメージがこの世界ではあったが、ユウゾーみたいな人物も居るのだと認識を新たにさせられる。
その日からユウゾーの空き時間を見つけては質問に熱が入る王女の姿があった。