147 いざ 最終確認へ
暑い盛りの夏が来た、日中はなるべく休み朝夕に農作業を続けるユウゾー一家であったが、その中でユウゾーはこの国の最悪に対して準備を行っていた。
魔物とは違い人対応に関してどのような手が有効か考えているのだ。
2つの大国の小競り合いが発生し、今後更に大きく状況が動きそうだとギルマスから報告があったからだ。
予想はしていたがとうとう戦端が開かれそうな気配が濃厚になってきた。
太陽の直射を避け木陰にハンモックを設置してゆらゆらと揺らしながら、ユウゾーは生き残りの策を考えている。
そんなユウゾーに近寄ってきた者がいた。
「何を考えておる、ギルマスからの報告の件か?」
マーラがハンモックを吊り下げている木の幹に座り込み話しかけてきた。
「うん 戦いが避けれそうにないからな」
「そうだな 多くの人族が死ぬな」
互いに今後の展望がこの大森林にも及ぶと感じていた。
この戦いの勝者がやがてこの国に押し寄せて来ることが予測される、無論この国が何方かの国に加担して勝利すればその憂いは少なくなるが…。
全てはこの国の国王が最終決断するだろう、何方かの国に加担するか当初の方針通り中立で行くかだ。
「流れ的には中立かな?」
「うむ 勝ち馬に乗りたいが、今現在ほぼ互角では予想がつかんだろうな」
近隣する小国も皆悩んでいるのが現状だ。中には早々と味方する国に特使を派遣している国もある。
なれど状況次第では約定もひっくり返る可能性もある。
どの国も紛争の両国に迷惑を受けている、と同時に生き残りに必死なのだ。
「勝利した国がこちらに攻め込んで来るとしたら兵力は何の位だろうか」
「さてさて キリアーナによると最低数万の兵になるとは言っていたが…」
この国を攻めるのに全兵力は流石にない、各都市に防衛の兵を残さねばならない、それでも数万が動くのか。この国は全兵力で1万が限度であろう。
籠城戦としても苦しい、他の都市を守る兵を考えると首都で5千での籠城戦かな。
他に冒険者達の傭兵が加わってもしれている数だ。
「何かよい策があるのか?」
「…俺は軍人ではない、下手な策はかえって危険だ」
「ならばどう戦うのだ?」
「…遠距離戦しかないだろうな」
敵は圧倒的に多数だ、ならば近づく前に敵の数を減らさねばならない。
ここで面倒なのは戦いの前哨戦ともなる互いの矢攻撃だ。
古今東西戦場で一番の犠牲者数が多い武器とは何か と問われれば無論矢による攻撃だ。
人類史上どれだけの軍人が矢により亡くなったか考えるまでもない。
各自が個別に矢を放つ事はない、弓兵による一斉攻撃による正に矢の雨が降り注ぐ。
行き交う矢の数が数倍違うという事は当然被害も数倍違う事になる。
これでは敵より少ない数の方は最初の矢による前哨戦で更に数を減らす。
無論これは野外に依る戦場戦での話で、籠城戦等ではまた戦い方も変わってくる。
城攻めは攻撃側が守備側より3倍人数が必要と言われるのも良く聞く話である。
少ない人数で多数を相手にするには籠城戦が一番と言われる。
この矢攻撃をいかに凌ぐかが今回のポイントだとユウゾーは考えていた。
弓矢は通常最大百メートルから風向きにおいてはその倍近い飛距離が出る。
ならば弓矢の攻撃範囲外からの攻撃を検討せねば…。
ユウゾー達が使うサイコガンは意外と飛距離が短い、ただ出力を上げればそれ相当の距離は出るがその分撃てる回数も減る。
サイコガンが何百丁もあればまた考えが違うが、互いの距離が近ければ敵の突進も早い、もたもたすれば多数の敵に攻め込まれてずたずたにされてしまう。
敵の機動力は歩兵より騎馬隊が問題となる。
数百メートルなどあっという間に詰められてしまう。
ならば籠城戦となるが、基本籠城戦は味方が駆けつけて敵の後方撹乱が出来るなら有効であるが、単に籠城だけの目的ではいずれ食料問題で詰んでしまう。
さてさてどうするべきか、軍人ではないユウゾーにとっては作戦の立てようがない。
ここは経験豊かなマーラ等に頼らざるを得ない。
ユウゾーの出来る事はもしかに備え長距離戦が出来る武器の開発とその運用方法となる。
できるだけ味方の損害を少なくがユウゾーの願いだが、そうは都合よく行かないであろうとも理解している。
「ふうん 長距離武器か…」
マーラが何やら考えている気配だ。
これが可能であれば野外戦でも籠城戦でも利用出来る。
最低弓矢より倍の飛距離が欲しいとユウゾーは考えていた。
この武器で敵の初撃を討ち果たし数を減らせれば、近よってくる敵、特に騎馬隊へ集中攻撃が可能となる。
「うーん 武器に関しては我等エルフ族は森限定の戦いしか知らぬのでユウゾーの力にはなれん」
森限定での戦いなら左程長距離に関して考えてはいないのだ。
そもそも森のなかでは障害物が多く長距離対応など必要の無い事項だ。
「いいさ まだ時間がある。何か考えてみるよ」
ハンモックに揺られながらユウゾーはしばし思考を停止してゆったりと過ごしていた。
「陛下 両国より支援依頼の親書が届けられましたぞ」
紛争の両国は少しでも味方を増やそうと各国に働きかけていた。
「ふう これで何度目の親書かの」
女王陛下は軽いため息をつきながら親書を受け取り内容を確認する。
「親書の中身はいつもと変わらずですか?」
大臣が心配そうに尋ねる。
「うむ 基本は同じだ。なれど文のあちこちに勝利後の対応が書かれておる。つまり脅しだ」
両国からの文は何方も味方した場合の報酬と従わなかった場合の今後が明記されていた。
「この文面から察するに意外と早く戦闘行為が開始されるやも知れん」
「なんと 来るべきものが来ましたか…」
「グレイシアを呼べ 特使で大森林に向かってもらう」
「承知いたしました」
「お母様 お呼びですか」
会議室に呼ばれてグレイシアは二人の元に参上した。
「うむ まぁ座るが良い」
大臣が引いてくれた椅子にグレイシアが着座する。
「早速だがあの両国がとうとう戦争に突入する気配がある」
両国より届いた親書をグレイシアに渡す。
「まぁ 困った事態になりそうですね」
グレイシアは渡された親書を見終えると軽いため息をつく。
「そこでじゃ 最終確認をしたいが、迷い人はこの国に本気で手助けしてくれるのか そしてどの様な算段があるのか確認してまいれ。夢々この国の将来がかかっておる事を忘れずにな」
「その件につきましては現地に内通者がおりますので、刻一情報が入っております。なれど最終確認の任につきましては承知いたしました。至急に訪問致します」
「うむ お前の想い人に久方ぶりの訪問で嬉しかろう?」
「まぁ お母様!」
二人は途中から緊張感の無い会話に移っていく。