146 いざ 王女の奮闘記
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第四王女がユウゾー宅に居着いて一週間が過ぎた。
おそらく王女が王城から出ての生活など初めての経験であろう。
一週間の間王女はその探究心をかなり発揮していた。
午前中の作業が始まるといつの間にか見学している王女一行がいた。
時たまユウゾーたちの農作業の様子をお付きの者に何やら質問しては熱心に目を輝かしている。
当初は単なる物珍しさと考えていたユウゾー達であったが、一週間近く経っても飽きることなく木陰のテーブルに座りながら観察している様子が見られた。
そして突然にその日が来た、その当日は収穫の為に朝早くから皆が動き出していた。
「えーと 王女様その姿は…」
「うむ 私も手伝うぞ」
その日の王女の出で立ちは昨日までの着飾った姿とは違い、何処で手配してきたのか完全に町娘スタイルにてユウゾーたちの前に現れた。
あっけにとられて皆が固まってしまう。
後ろに控えているお付きの者もどこか困ったような顔でいる。
お付きの者からは反対されたのだろうが、強引に王女が希望したのがその表情から察せられた。
「さあ 手順を教えてくれないか」
にこにこと笑いながら畑に入り込み、皆の前に歩み出た。
妻達が慌てて作物の収穫の仕方を教えると、王女は根菜類の収穫を開始し始めた。
初めての経験であろうと容易に想像出来るが、力加減にミスが出て勢いあまり大きな尻もちを畑について倒れ込む。
お付きの者が真っ青になって走り寄るのを王女は手で止めて、愉快そうに笑いながら起き上がると片手に収穫物を握り締め嬉しそうに眺めていた。
「なる程 この様に作物は実るのだな」
それから一時間程ユウゾー達と一緒に王女は楽しそうに収穫作業を続け、流石に慣れぬ作業に疲れが出て一休憩しながら皆の作業を眺めている。
「思ったより大変な作業なのだな…」
作業は収穫した作物を荷台に積み込む作業に移っていた。
ユウゾー作のリヤカーもどきには大量の品が積み込まれ、買い付けに来ていた業者の手代がそのリヤカーもどきを引いて何度も新開拓村に運び込んでいく。
午前中の仕事が終わり、皆が引き上げる準備になり王女も満足げに皆と一緒に家に向かう姿があった。
「ふむ 迷い人との協力の約束を取り付けたのだな」
首都に帰り着いた特使団は王女から預かった此度の顛末を書きしためた手紙を国王に差し出す。
陛下はその手紙を満足気に受け取り読み終えると念の為特使団に尋ねる。
その答えに再度満足した笑顔を浮かべ、特使団に苦労を労い大臣と共に隣室に向かう。
「やはり王女様は次の第二段階に進むべき、居残りを…」
二人きりになった会議室で大臣が心配そうに陛下へ尋ねた。
「うむ よほど迷人なるユウゾーとやらを気にいったようだ。暫し滞在するつもりだ」
「それは…滞在先があの大森林では某は心配でなりません」
「その件についても報告がある。高さ自体は首都には及ばぬものの壁の丈夫さは首都の城壁に匹敵する程の物をユウゾーなる者迷人一人で作り上げたと書いてある」
「な なんと 迷人一人でですか?それが本当であれば迷人とは噂以上の力が…」
「それにじゃ、今までわだかまりが続いていた森の民 エルフ達とも不可侵条約の締結が結ばれたとも書いてあった」
「おお これで憂いが一つ解決いたしましたな。上出来な結果でございます」
「ふふ やはりあの子は見込んだ通りの働きをしてくれたわ」
「誠に 只々お見事の一文字しかありませぬな」
「但し 大森林での利益の三割がエルフ達に贈答されるとなっておるがな」
「いやいや 今後開発が順調に進めばオレオンの新ダンジョン発見と並び、かなりの収益が見込まれますので十分で御座いますな」
「確かに これでもしかに備えての軍事強化も進む事になる」
「近々 何としても一度ユウゾーなる者に会ってみたいものですが…」
「うむ 意外と近いうちに会えるやも知れぬな」
二人は今後の展望をさらに熱く語り始めた。
「ユウゾーお兄ちやん 行って来まーす」
いつものようにケイトは出掛けるが、いつもと違うのは後ろから何人もの付き人が同行している点だ。
ケイトの動かすキッチンカーに王女が町娘スタイルで乗り込んでいる。
それだけは止めてくれとユウゾー達を始め執事も反対したが、王女の好奇心は止められずにケイトとの同行と相成った。
「これはまた不可思議な乗り物であるな、ユウゾー殿の作か?」
「左様に聞いております、馬も使わずに勝手に動いてくれるとは…」
執事も恐る恐る周りの移りゆく景色を眺めては驚愕していた。
「…これでもう少し速度が早ければ軍の移動にも使えそうじゃ」
「左様ですな、兵の展開にも役立ちそうで御座いますな」
初めて乗るミニカーにその利便性を見抜いた感想を告げる。
その日のケイトの屋台は異様な空気に包まれていた。
注文を受けてケイトが器に特製野菜スープを入れる所までは同じだが、会計に関しどう見ても町娘にしては気品がありすぎる人物が担当している、当然その横には執事姿の者がフォローをしてあれこれと対応していた。
キッチンカーの前面には完全装備の騎士2名が何かあればただちに行動するぞ、とばかりに冒険者達を睨みつけていた。
いつもは賑やかな軽口の一つも出てくる冒険者達も異様な雰囲気にのまれ、緊張の元慌ただしく食して逃げるようにその場から離れていく。
ケイトは深い溜息をついていた…。
「そ そうか、それはお疲れさまだったな…」
昼に戻ってきたケイトはユウゾーに事の次第を報告して、少し気疲れの様子であった。
其れに反し王女は何故か活き活きと楽しげな様子でテーブルに座り、昼食を味わっている。
当初王家の食事とはあまりにも違いすぎる食事をユウゾーも心配していたが、グレイシアは美味しい美味しいとそれは嬉しそうに食している。
それでも執事達にそれとなく食に関してグレイシアが無理をしていないか尋ねてみたが、返ってきた返事は姫は無論付き人や騎士達もユウゾーが作る料理を楽しみにしていると好評な返事が返ってきて安堵していた。
その後一ヶ月が経過して城より王女の引取部隊が到着した。
後ろ髪を引かれる思いでグレイシアは渋々帰路につく。
王女がようやくユウゾー家より離れた事で皆が安堵のため息をついた。
「ふう 居なくなると少し寂しい気もするな」
ユウゾーはなんだかんだと言いながら積極的に皆の中に入り込んだグレイシアを高く評価していた。
「うむ ユウゾーの気を引くことが半分、ユウゾーの迷人としての能力調査が半分と言う所かな」
マーラとギルマスが互いに頷きあっていた。
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