145 いざ 交渉成立
次話は土曜日に投稿致します。
ギルド内で例の二人の処分が決定したとの事だった。
「何と それは本当の事でございますか」
「はい なれど今回の件はギルド内でも本来関わってはいけない事に関わると言う負い目もありますので、二人共地方へ転属との処分が妥当として処理されたとの事です。ご不満ですか?」
不満が無いかと聞かれれば確かに少し甘い処分ではあるが、ここは我慢か…。
「いえいえ 宮殿からのご支援も頂けたと聞き及んでおります。不満など…」
ギルマスの顔をしばし覗き込みながら王女は何か考えているようだが やがて、
「そうですか、それではこの件は一応決着と捉えてよいのですね?」
「はい 仰せのままに」
「それは上々です。キリアーナ様が本気になって騒動を起こされますと、小さな都市が吹き飛びますからね」
王女はさも愉快そうに可愛らしい声で笑い出す。
いくら何でも そこまで破壊魔ではないぞ。
ギルマスは憮然としてながら王女について考えていた。
もしかして現陛下と性格的に一番似ているのはこの第四王女ではないか と。
首都から離れてもう10年が過ぎたが、他の王女と違いなかなか芯の通った考えは幼少の頃から宮廷内でも評判の高い王女であった事を思い出していた。
現陛下と同じ思考を持っているなら、些か手強い相手になりそうだと 王女との雑談中においてもギルマスは神経が休まる気がしなかった。
見かけの可憐さや歳にユウゾー達が惑わされなければよいが、ギルマスは深い溜息を吐く。
あの陛下からどのような指示の元に動いているのか…。
この第四王女を派遣する事自体、国側としても並々ならぬ意思の現れと感じられる。
これは半分詰んだかな?
ギルマスは前途に暗い暗雲がたなびくような気持ちに襲われていた。
「…なる程、それ程のやり手と判断したのか?」
マーラが感心とも驚愕ともつかぬ面持ちでギルマスの説明を聞いていた。
「ああ くれぐれも見かけに誤魔化されぬようにな」
ギルマスは特にユウゾーに対して念を押す。
「そ そうか。凋落などおよそ似つかぬ風情なのだが…」
ユウゾーは困った様子で考え込む。
「そう思い込む自体もはや術中にはまり込んでおるぞ。しっかりせい」
初対面から第四王女のペースにて始まった交渉ペースに改めて釘を射す。
この世界の人々は早熟の気がある、まして国を治める立場の王族関係は幼いうちからそれなりの教育を受けて育って来ている。
俗に言う海千山千の強者達となる、のんきな日本育ちの者では本来相手にもならぬ存在であるが、流石にそれなりの経験を積んできたユウゾーも見かけとは違う王女に、ここで気分一新すべきだと気合いを入れ直す次第だ。
「で 今後の方針だが、どうする気なのだ?」
ニーナがユウゾーに問う。
「婚約の儀についてはお断りするつもりだが、今後の事は少し検討せねばならない…」
ユウゾーは今後もしこの国が滅んだ場合、次に変わる支配者について考えを巡らせていた。
次の支配者は恐らく現在紛争問題を起こしている、両国の何方かが侵攻してくる可能性が高いと考えていた。
しかしこの両国に関しての情報があまりにも少ない。
ギルマスにこの点について質問してみる。
「うむ あくまで私の私見だが、両国に関して実力的には6:4でチャチャ国が有利と思われる。スネア王国は兵力・国力的にやや劣勢だ。なれどスネア王国は最近王になったゲランダがかなり優秀だと聞いてはおるが…。まぁ何方が生き残っても共に独裁者に近い有様なので、この国を統治したら当然かなりの圧政は覚悟しなければなるまいな。出来れば共倒れ状態で膠着してくれれば良いが…」
たとえ共に戦いに疲れ停戦状態になっても国力回復先としてこの国が狙われる可能性もある。
なんせ国力的にはこの国は両国から見れば自国の半分以下でしかない。
なれど豊かな田園地帯と直接統治ではないが大森林からの収益もあり、それなりに魅力的な国として攻め込まれる危惧は否定できない。
「そうなればこの大森林にも手を出してくる可能性が?」
「無論ある 今までは馴れ合いとは言わぬが、互いに不可侵状態であったが、他国には通用しない理屈であるし当然利益先としてこの森を狙ってくるだろう」
「うーむ せっさく移住先として住み着いたばかりなのにな…」
ユウゾーは自分や妻・子供達にも今後襲ってくる危険を考えると、何としても現状維持の状態が好ましいと判断する。
「…そうなると不本意ながら有事にはこの国を手助けする必要もあるか」
「…正直そう考えてもらえれば助かる。この森を手放したくはないしな」
国からの要請を無碍に断るにはその後のリスクが高いと判断せざるを得ない。
悩みどころだな…。
これまでは魔物が相手とユウゾーは割り切っていたが、対人間となると流石にこれまでと同じ感覚で対応するには無理がある。
戦争か…。
ユウゾーは頭では理解しても、感情的について行けない状態であるのだ。
只座して死を迎える気もない、要はまだ踏ん切りがついていないのである。
第四王女との対談はその後一週間近く行われた。
最後の踏ん切りがつかないユウゾーにグレイシア王女は辛抱強く協力を説き、今後の代償や大森林の今後についてもかなりの好条件を提示した。
これまで慣習的に不可侵を続けていたが、正式に国として契約を締結する旨や、大森林の魔物による利益の一部を森の民に還元する提案もなされる。
これに関しては好ましい提案ではあるがユウゾーが一人で決めることは不可能であるため、各村へ特使が至急派遣される事になる。
その間にユウゾーに対して粘り強い交渉が行われ、ユウゾーもとうとう最後には妻達の賛同も確認して有事の協力を承諾する。
最終の各村のエルフ責任者がユウゾー宅に集まったのはひと月後の事である。
ギルマスが間に入り共に確認しながらの最終調停を行い契約を締結の運びとなった。
数百年前の話になるが、当時現れた迷人の先兵となり国を揺るがす大事件に発展してから互いのしこりが強く残っていたが、ようやく互いに正式に和解に向けての動きとなったのだ。
「ユウゾーお前のお陰で共に和解できた。感謝するぞ」
その夜の締結の祝いの席で各村の代表団から何度もお礼の言葉を受けて、流石にユウゾーも逆に恐縮してしまう。
そんな様子を好ましく見ている第四王女がいた。
やはり私の目に間違いはないようですね。多少決断に慎重な面はありますが、我が夫として合格…。
何やら良からぬことを呟く王女であった。
すったもんだの交渉が終わり晴れて特使団は国王の元に帰還する、何名かを省いて…。
「えーと 宜しいのですか王女様、帰らずとも…」
ユウゾーは隣で共に帰還する特使団に手を振る王女に困った顔で尋ねる。
「はい 暫くはこの身は大森林の皆様の橋渡し等として居残るのが当初からの予定でありますので、お気になさらないで下さい」
そう言って下女と執事それに護衛数名にて今日からユウゾー宅に泊まり込む。
はぁ 何を考えておるのやら…。
ユウゾーの妻達が深い溜息をついた。
次話は土曜日に投稿致します。