144 いざ 特使の正体
木曜日に投稿します
今回この地に赴いた一番の懸念に対する問いを大臣に尋ねた。
「もっともな問だな されどギルド内の問題となる為に宮殿側より処分問題には口出しはできぬのだ。なれどそれなりの処分を一考してもらいたいとすでに依頼は出してある」
またもや忖度の押し付け作業かと ギルマスも苦笑いを浮かべる。
しかし国側より出来る事は限られている、この話途中までは誰も悪意はないのである。
皆がそれぞれ思惑を抱いて動いた結果がこの有様になったからだ。
ただ最終実行者が自分等が今まで動いていた事に偶然上からの指示が一致して、あまりに露骨に動きすぎたのが今回の騒動となってしまった。
「非公式だが、現副本部長も今回ギルマスの追い出し工作には関与しておらずに、城からの調査結果に驚いて対応を検討しておるので、それなりの処分が出るとは思うぞ」
「城からの調査結果?」
ギルマスが思わず聞き直した。
「我等が大人しく結果報告を待っていたと思うか?」
陛下が大臣が答える暇なく、これまた愉快そうに笑いながら答えた。
そうか…聞いた事はあったな。城には特殊な調査機関があると、、、。
「…ならばその優秀な調査機関の者が直接ユウゾーに接触すれば良かったのでは?」
「ははは。実はそのつもりで数回接触に向かわせたのだが…」
宮廷側も当初気を使い裏からこっそりとユウゾーに接触する予定であったのだが。
ユウゾーの周りには非常に優秀な者がおり、ユウゾーに接触する前に全て看破されて物凄い殺気を飛ばされ逃げ帰ってきたと、大臣が愉快そうに笑いながら説明する。
ふむ。アーシャかマーラかな?
あの二人なら別格級の腕と感の良さを持ち合わせている。
そうか、開拓地で畑仕事等で多少腑抜け状態かと思ったがなかなか油断していないな。
ギルマスは思わずニヤリと満足げな笑みを浮かべた。
「これキリアーナ殿、露骨な顔で納得しないでほしいのだが。思い当たる人物が居ると言う事かな?」
ギルマスは恐らく2名ほど思い当たる人物がいると告げる。
一人は最近まで活躍していた一級冒険者で、もう一人はエルフ村での戦闘部門の元責任者なる人物で、現在2名共ユウゾーの妻であると。
「ふう それはそれは…。妻が6名いる事は報告が入っていたが、それほどの手練まで囲っておったのか…。益々味方に迎えたいものだが、、」
大臣と陛下が互いに頷きあう。
「キリアーナ殿 一度至急にユウゾー殿に会わせてもらえぬか?正直事態が緊迫しておるのじゃ」
ギルマスは考え込む、合わせたくないと言う思いもあるし、ユウゾー自体もあまりこの世界での介入事は好んでいない。
最近まで冒険者稼業をしていたが、それはあくまでこの世界の適応と自活の為の金稼ぎだと、ユウゾー本人から聞いている。
本人自身は好きな事を好きな者達と一緒に行い楽しく暮らしていきたいと明言している。
ましてあの性格はこの世界での荒々しい環境にはあまり向いていない。
ユウゾーを味方にするにはそれなりの特別な対価が必要となろう。
まず金や名誉には無頓着な所がある男だ、会っても交渉は難しかろう…。
「うーむ 迷人らしからぬ男よのう」
陛下もギルマスからの報告に考え込む、これまでの迷人は何方かというと目立つのが好き、権力もOK、他人が迷惑でも自分はへっちゃら等かなり破天荒な者達が多かった。
其のような者達はそれなりの目先の餌を与えれば凋落も可能であった。
無論ユウゾーの祖父であるリュウゾーみたいにエルフ村で一生を過ごした者も居るにはいるが…。
「なれど時間は限られておる、是非にも一度正式に特使を派遣し人となりを確認させてはくれまいか」
この国としてはある意味ユウゾー いや迷人が最後の切り札として滅亡から防ぐ駒として考えている。
多少の交渉困難など国の滅亡と比べれば無いも同然である。
これはもうワシの手に負えん状態だな、せめてワシも特使に同行して国の無理難題からユウゾーを守るしかないな。
一週間後に国からの特使と共に大森林に向いユウゾーに会いに出掛ける事でギルマスも承諾した。
「ふむ 苦労をかけるが良しなに頼むぞ。派遣する特使には私直々に良く言い聞かせておくので、安心してもらって結構だ」
陛下はニヤリと何か考えがあるのか僅かに思惑顔でギルマスに伝える。
肝心な陛下の顔をギルマスは見届けていなかった。
陛下のお言葉に平頭して聞いていた為に後日後悔する羽目になる。
「なんで貴女様がここにいらっしゃるのですか?!」
大森林に向かう一行がギルマスの滞在する宿前に到着し、ギルマスは先頭の馬車に居る全権特使にご挨拶をすべき馬車内に案内され、誰が特使かと確認したと同時に思わず大きな声を上げてしまう。
「キリアーナ様お久しぶりです、ご機嫌よろしゅう」
全権特使はにっこりと微笑むと、微動だにもせずキリアーナを出迎えた。
そこに特使として座っていたのは、この国の第四王女であった。
唖然と立ちすくむギルマスに彼女の荷物を積み終えた執事が、間もなく出発しますのでまずはお座りくださいと にこやかに対応する。
その声に我に返り軽く咳払いをして第四王女と向かい合わせの席に座り込む。
使節団1行の馬車はゆっくりと大森林に向い動き出す。
「私一人で公務に赴くのは初めてなのです」
ギルマスに話すでもなく独り言の様に今回の移動を楽しんでいるように思われる。
移りゆく景色をそれは熱心に眺め始め、時折微笑んでいた。
首都を離れ農村風景が続く頃にようやく考えが纏まったギルマスは王女に尋ねる。
「グレイシア様 陛下に何を吹き込まれたのですか?」
王族の訪問は相手にとってインパクトはあるであろうが、反面諸刃の剣にもなる。
万一失敗したら笑いものになり、その後の交渉にも禍根を残す可能性が大きい。
通常王族が動く時は事務方が道均しを終えほぼ交渉事は完了状態か、逆に交渉事が乗り上げて動きが取れない場合に起死回生を狙っての訪問が多い。
今回の様に未だ交渉も開始されず状況も今一不透明な場合に特使訪問などは有りえない行動だ。
ましては今回の特使は迷人の人となりを確認するのが主な役割と聞いている。
その役割を成人とはいえ、まだ年若い王女に託する考えが理解できない。
何かしらの秘策を陛下から聞かされているとしか考えられないのだ。
「あら 陛下はじっくりとお話を聞いて判断は任せる としかおっしゃってませんけど」
ギルマスの探るような質問に対し、王女はコロコロとさも愉快そうに笑い出す。
そんな馬鹿な事があるものか、下手をすれば国が滅亡の可能性がある程の重大交渉ともなるのだ、何を隠しておるのやら。
ギルマスは手の内を見せたがらない王女に深い溜息をついた。
「そうそう ご報告がひとつ。ギルド内で例のお二人の処分が決定したとの事です」
気を抜いたタイミングで突然の爆弾発言にギルマスは驚いて王女を見つめた。
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