142 いざ 我が名は
次話は日曜か月曜日に投稿予定です。
久々に姿を見せたギルマスがお客を伴いユウゾー宅に訪れた。
「初めまして、グレイシア・フォン・ユーグランと申します」
はい?! どちら様?!
敷地の門から先触れの馬に乗り白鎧の騎士が数名ユウゾー宅に入り込んだ。
その様子に思わず疑念の眼差しを向けるユウゾー達に馬上の騎士は口上を告げる。
今よりやんごとなきお方がご訪問されるので、皆無礼の無きよう控えておれ。
とそれは高圧にも等しい口調で玄関にて対応したユウゾー達に告げた。
何事かと 皆が集まりだし詳しい話を聞き出そうとした時にその一団が門に現れた。
先導する騎士4名の後ろより絢爛豪華な馬車が入ってきた、一目で乗っている人物が只者ではないと判明する。
6頭立ての白馬に引かれてゆっくりと敷地内を進んでくる。
その馬車にはかなり大きめな家紋が描かれている。
そしてその後からも先頭の馬車には劣るものの、これも立派な作りの馬車がもう一台続く。
そして後ろに警備兵と思われるが計20名程馬上姿にて入ってきた。
事の次第が未だ不明なユウゾーは狐に騙された気分で隣りにいたアーシャの顔を覗き見た。
あれ アーシャの顔が引きつっているな?
何だ マーラの様子も可怪しいぞ?
訝しげにその様子を見ていたユウゾーに後方の馬車の窓から手を振る人物を見つける。
ギルマスだ?!
思わず腰を浮かしかけたユウゾーの気配を、先触れの騎士2名が馬上より恐ろしい気配にて制してくる。
おっと いかん。
慌てて皆と同じく片膝を付き直して一行の到着を待ち構える。
ようやく一行が玄関前に到着すると、先に後方の馬車からギルマスが凝り固まった背中を解しながら降りてきた。
そして先頭の馬車の扉を従者と思われる者が開き、中からゆっくりと現れた人物はどう見てもこの場所には似つかない豪華なドレスに身に纏い、片手を従者に預け一段づつ降りてくる年若い美女がいた。
ギルマスに案内されユウゾーの前に進んだ美女は優雅な儀礼にてユウゾーに挨拶をすると自分の名を名乗った。
呆気にとられて固まっているユウゾーにギルマスが近寄り一言告げる。
「この国の第4王女のグレイシア様であらされる。挨拶せんか」
慌てて固まった体をゆり動かそうとしたユウゾーに、グレイシアがコロコロと澄んだ声で笑い、
「良いのです。迷人様においては此方の習慣に未だ不慣れであるとキリアーナ様より聞き及んでおりますので」
確かにそうだが、不作法にならぬようユウゾーは遠路の苦労をいたわり、2階の応接間に案内をする。
その席にて再度不調法の失礼をわびて互いに席に着いた。
ユウゾー側はユウゾーが真ん中に両サイドにアーシャとマーラが座り、対面には王女とギルマスがいる。
その横に王女の執事が1名と警備の者が2名後ろに控えていた。
当然入り口を守る警備兵が扉の前後にさらに2名づつ配置されており、何かあれば直ぐに対応出来る事は誰の目にも明らかであった。
「そちらのお方は確か1級冒険者の…」
「はい アーシャと申します。その折にはお世話になりました」
数少ない1級冒険者は国側からも昇格の際には宮殿に呼ばれ功績を讃えられる習慣がある、流石に国王が直々とはいかぬが、代役にて王女達がその役を努めている。
その折に第四王女との面識があった事をアーシャはユウゾーに告げた。
出された紅茶に優雅に口をつけて王女は頷く。
「さて 此度の王女様のご訪問にユウゾーも混乱していると思うが、其の当りの話は後日にして本日の王女様のご訪問理由を述べたいと思う」
ギルマスも少し緊張しているように思われる。
こんな姿は初めて見たなとユウゾーは何か得した気分でギルマスからの発言を待っていた。
「お待ち下さいな、その件につきましては私から直接述べたいと思いますの」
王女様から直々に何か報告か頼み事があるのかな?
思わぬ展開にユウゾーは王女から出てくる話に注目せざるをえない。
改めて目の前にいる王女を刮目するとまだ何処か幼さが残る美少女と見える、歳にして15・6かなとユウゾーは判断していた。
一応は成人であろうがこの僻地までわざわざ訪問するとは、並々ならぬ覚悟にての行動であろうとユウゾーは話を聞き漏らさぬように集中していた。
「私は此度 ユウゾー様と婚約の儀を行うために参上致しましたの」
はいい・・・?!?!
その瞬間ユウゾーは一瞬の判断がつかずに無様な声を上げてしまった。
隣りにいたアーシャやマーラも思わぬ展開にどう反応すべきか言葉に詰まっている。
「殿下 そのような直接的な言葉では混乱の元です。今回はあくまでもユウゾー様の人となりを見定めるのが目的な筈で…」
横にいて仕えていた執事から慌てて訂正の一声が上がっていたが、
「あら 私まどろっこいのは好みませんし、母様から気に入ったなら話を纏めてきなさいと進言を頂きましたわ」
あっけらかんと答えた王女に、隣のギルマスも片手を顔に当てて困惑していた。
「うーむ 何から話せば良いのやら…」
王女からの突然な提案にとりあえず双方がゆっくりと判断できる時が必要と、一旦王女一行は隣の新開拓村に引き上げていた。
後に残ったギルマスが皆に囲まれてそれはそれは針のムシロに座らされた気分で、皆からの厳しい追求を受けている。
首都に到着したギルマスは予てから自分の情報網として暗躍していた元部下達との打ち合わせに入っていた。
今回ギルマス下ろしに関わっている人物の最終確認と後ろに居る人物の特定である。
信頼する元部下たちの調査はかなりの優秀さで数名の中心人物が誰であるか判明していた。
なれどその後ろから彼らを操る人物がイマイチ判明しづらくなかなか敵の本丸限定にたどり着けていないのが状況だった。
ならばあぶり出そうとギルマスは考え、ギルド内の異分子退治を進めていけばいづれ本丸が出てくると皆に協力を求めていく事になった。
必要な証拠集めに皆が走ずり周り、ほぼ証拠集めも終わりに近づいた時にそれは起きた。
突然の呼び出しが宮殿からあったのだ。
ギルマスは首都で活動している場所は親しい者にも連絡していなかった。
信頼している仲間数名しか連絡先を伝えていない。
それが相手には筒抜けであったのだ、ギルマスは宮殿に行くべきかどうか迷っていた。
基本国とギルトは互いに干渉せずの間柄であったからだ。
国からの呼び出しに応じなくてもそれが原因で拗れることはないが、礼儀としては褒められた事ではない。
只ギルマスの動向を監視していた組織には正直驚いていた。
いや少なからず畏敬の気持ちもあった。
ならばとギルマスはあえて相手の手の内に乗る作戦に出た。
相手が判明出来れば今後の対応も変わってくると判断して、それなりの準備を終わらせて相手の待つ宮殿へと向かったのである。
ここでひとつギルマスは相手の読み違えのミスをしてしまった。
ギルマスの考えた相手は事の大きさから筆頭政務官クラスもしくは一大臣クラスが絡んでいると考えていた。
事実案内された部屋にはある大臣クラスがギルマスを待ち受けていた。
やはりこのクラスの相手が絡んでいたのだとギルマスは気をひきしめて交渉のテーブルにつく。
なれど一向に肝心な話が表に出てこない、どうでも良いようなくだらぬ話に終始する。
次第にギルマスは嫌な気分に襲われてきた、どうも時間稼ぎの話題に終始しているような気持ちになってきたからだ。
ならば何故時間稼ぎの話をしなければ…。そこまで考えてギルマスはゾッと背筋が凍りつく気分に襲われた。
つまりこの大臣クラスでは単なる接待役に近い存在なのではないかと思いついたのだ。
そうならば更にこの上が絡んでいる可能性があるかも?!
そんな考えに襲われていた時に奥の扉が開き一人の人物がギルマスの前に現れた。
次話は日曜か月曜日に投稿予定です。