140 いざ バンドン作日本刀
次話は水曜投稿予定です。
「ユウゾー 鍛冶師のバンドンさんが面会したいと訪ねてきたぞ」
ニーナが子供の歩く後から付いて大声で訪問客が来たと伝えてきた。
バンドンさん? インゴットの追加依頼かな…。
出迎えたバンドンは片手に何やら剣らしき物を持参していた。
「おう 忙しい所済まんな。前々から依頼のあった剣が完成したので持ってきたぞ」
あっ こんなのあったらいいなと前にお願いした事があったな。完成したのか?
ユウゾーは応接間にてバンドンから剣を受け取ると、スラリと鞘から片刃の剣を引き抜いて完成した剣を眺めていた。
「なんだ この剣は片刃? でも刀身が綺麗だ…」
隣にいるアーシャが興味深く剣に注目する。
「うん 正式には刀と呼ばれる品物だ。刃紋が綺麗だろう?」
ユウゾーが依頼したのは日本刀と呼ばれる、ただし鎌倉時代の太刀ではなく切先がわずかにカーブしている後期作に近い形状だ。
「苦労したぞ、二重構造の剣など初めての作品だ」
日本刀は西洋刀とは違い硬さの違う材質を合併して作られる。
芯ともなる比較的柔らかい材質と炭素率の高く硬い外側の素材を融合されて完成する。
それにより堅く尚且しなりのある独特の剣が生まれるのだ。
西洋刀は基本剣の持つ重量にて対象物を叩き切ると言う表現に近いが、日本刀は風をも切り裂くその切れ味が持ち味になる。
「有難う 後で試し切りをしてみるよ」
「おう 何か気になる点があれば言ってくれ。そこでお願いが…」
「はは こんないい刀を作って貰ったんだ、遠慮なく言ってくれ」
予想通りインゴットの追加注文を受け、ユウゾーは魔法袋から作り置きしていたインゴットを机に並べ、持ち歩き用に小容量の魔法袋に入れて手渡した。
「済まんな あちこちから追加注文が多く親方と二人でてんてこ舞いの状態だ」
バンドンは嬉しい悲鳴を上げながら引き上げていった。
「ユウゾー可能なら私にもそのカタナを振らせてくれ」
アーシャが何か感じたのか刀に興味が湧いたようだ。
「ああ いいとも、今日はもう夕暮れだから明日の朝に試してみよう」
「うん これは抜けにくいのだが…」
ユウゾーが何回か試し切りを行った後にアーシャに何も言わず刀を手渡した。
アーシャが刀を抜こうとして少し手こずっている、ユウゾーが笑いながら鯉口を切り刀身を抜くコツを教え込む。
「な なる程…こうすれば良いのか、、」
ここでようやく日本刀に関する注意点を教え込んだ。
特に刃筋の立て方が慣れないと難しい点と、叩きつけるのではなく引いて切る意識を持たせねば日本刀は使いこなせない。
何回かユウゾーの指導の元で素振りにて感触を掴み取り、試し切りに移る。
「な なんだこの切れ味は?」
アーシャは呆然と立木の枝が抵抗もなく切り落とせたことに感銘を受けていた。
ユウゾーが作ってくれた剣も驚くほどの切れ味だったが、この刀は次元が違う。
左程力を加えていないのにスパッと切り裂かれる…。
暫し呆然と落とした木の枝と刀身を眺めていたアーシャは再び刀を構え、先程より速度を加えて素振りを行い始めた。
「ふむ 流石アーシャだ、次第に剣先が伸びている」
力を入れて振りまわすだけでは剣先は伸びない、無駄な力を抜いて剣自体の重みを感じながら振り始めると剣の伸びが違ってくる。
剣に関して天才と呼ばれるアーシャである、次第に日本刀の使い方に慣れてきた。
アーシャの動きが止まらない、次第に流れるように剣の重みを使っての体重移動も出来始めた。
「天才か…」
ユウゾーは感心してアーシャの動きを見ていた。
どれほど剣を振っていたのだろうか、やがて全ての動作を止め刀身を鞘に納めアーシャは軽く深呼吸をして息を整える。
「ユウゾー これ欲しい!」
振り向きざまにアーシャは満円の微笑みを浮かべユウゾーに語りかけた。
やはりか、何となく楽しげに素振りを繰り返している姿から予測はしていたが、その予測通りの言葉が発せられた。
剣に関しては平均点のユウゾーが持つより、数倍は有効活用がアーシャであれば可能だ。
ふぅ 俺の剣はまた頼めばよいかな…。
ユウゾーはアーシャの願いを承諾した。
その後 早朝と夕方の日に二回、アーシャが刀に慣れ自分の手足に馴染ます為に庭で素振りの鍛錬を繰り返す姿が見られた。
その成果は意外と早く現れた。
森からオークが数体出現し妻達が喜び?勇んで退治に向かったのだが、アーシャによりそのうちの一体が見事に一撃で首を切断され周りの妻達からやんやの喝采を浴びたのである。
その報告を聞いたユウゾーは思わず彼女の頭を撫で回し、労をねぎらう。
少し照れくさそうにアーシャはユウゾーから貰った刀のお陰だと嬉しそうに答えた。
いやいやそれを使いこなす腕がなければ所詮宝の持ち腐れだからな。
その後もユウゾーとアーシャは朝夕の鍛錬に一層汗を流す毎日が続いた。
「ユウゾー 蜂蜜はそろそろどうだろう?」
今年も順調に巣箱に蜂が居着いてくれた。
現在5箱の巣箱が確認されている。妻達が待ちきれなくてよく聞いてくる。
まてまて もう半月辛抱だ。
蜜蜂用の花畑に妻達が入れ替わり立ち替わり状況確認をしている。
女性の甘味に対する欲求にユウゾーはほとほと手を焼いていた。
あれだけ毎日甘い菓子を食べているのに…まぁ 蜂蜜の甘さは別腹?かな…。
「そう言えばそろそろ各村から交代のエルフ達が来る頃だが…」
一年の約束で派遣業務員の交代になるので季節的にはもう到着しても良い頃だ。
「ここの噂が広がっているので希望者多数で揉めているのかな?」
ミーナが何となく想像できると笑っていた。
一年間派遣業務で頑張っていたエルフ達は寮費に関してはユウゾー持ちの状態であったので、それなりの金額を皆は貯め込んでいた。
そのお金で村のために食料や日用品を買い込み、いつ交代要員が来ても大丈夫な体制を早春には整え始めていたのだ。
かなりの量を買い込んでいたので、ユウゾーが全員に1.2トン用の魔法袋を手渡し皆の荷物を保管するように無償で配布していた。
各村に帰ったら魔法袋を村で有効活用してもらえば良いだろう。
最後の手土産にユウゾー農園で作った野菜関連も手渡す予定になっている。
皆がまだ交代要員が来ないとやきもきしていたが、その後数日して待ち人来たる で総員25名程のエルフ部隊が到着した。
前回は第三村のオサが訪問したので護衛部隊も多かったが、今回も同人数に近いな とユウゾーは不思議に思いエルフの一行を眺めると見知った顔が中心部にいた。
「おっ 補佐役のミランダがいるぞ、子供を抱いている」
マーラが近づいてくるエルフ一行を指差して少し興奮している。
確かにミランダさんだ、ならば抱かれている子は…。
ユウゾーの予想通りユウゾーとミランダの子で間違いない。我が子との初対面になった。
次話は水曜投稿予定です。