14 いざ 訪問者
おかしい? なぜ剣が溶けない??
作業台の前で悪戦苦闘している。
生活魔法の錬金術の習得を目指して汗を流しているユウゾーであった。
かれこれ数時間あの手この手で剣の改造を試みている次第だ。
(そもそも生活魔法に錬金術はありませんよ。理解して下さい)
どこからか声が響いているが、作業に夢中になっているユウゾーには届かない。
なせば成るだ。 錬金術魔法も生活魔法も根っこは同じ魔力だ。
ならば必ず出来るはず!
ユウゾーは確信のない自信があった?
当然この日は夕方まで足掻いても変化はなかった。
流石に疲れたな。続きは明日にするか。
夕食の準備に取り掛かっていた時、突然入り口のドアが激しくノックされた。
誰だ?! こんな場所に訪問者?!
恐る恐る訪問者に正体を尋ねると、意外な声が返ってきた。
「おーい 私だミューだ! 居るなら開けてくれ!」
慌ててドアの鍵代わりの角材を外すと、鎧に厚手の外套を着込んだミューが寒そうに入って来た。
「おおっ! この中は暖かい 天国だ!」
開口一番挨拶もそこそこにミューはストーブの前に座り込んだ。
外は夕暮れ時で雪は溶けているが、風は刺すように冷たい。
暖かいお茶をみゅーに勧めると、美味しそうに飲みながら今回の訪問理由を説明し始めた。
「年末が近付いて塩の需要があがったんだよ。他の都市でも同じく不足気味で開拓村までなかなか必要量が入らないらしい。今年最後の仕事として引き受けたのさ。特別手当も入るしな」
それとギルド長より特別任務も依頼されていたが、その件は口外秘密のお約束で特別手当を頂いている。
何のことはない、ユウゾーの生活ぶりを報告する事だ。
なる程正月特需かな? 冬は保存食作りに塩は必要品だな。
次回大量に運ぶか? いやミュー達の仕事を奪うか… ほどほどだな。
そのミューは人心地がついたのか、興味深く周りを見ている。そのうち我慢しきれずに動き出し、あちらで わぁー こちらで ほー と大きな声を上げている。
極めつけは地下に降りる板を外し内部を確認した時に最高潮に達した。
ユウゾーは食事の準備に忙しく、好きにさせていたが、ミューが地下から飛び出して来るなり興奮した声で叫ぶ。
「凄い! どれだけの食料品を保管しているのだ。何人も一冬過ごせるぞ」
その時お前も現場に居たじゃないか… 思わず苦笑するユウゾーであった。
「よし、食事にしよう。生肉がそろそろ限界だから多めに焼いたので遠慮せず沢山食べろ」
ミューの目が輝いた。おそらくここに来るまで何日も干し肉生活を続けたはずだ。
「なんだ この贅沢に使った香辛料は! 天国だ!!」
…お安い天国でよかったな。
丸くなった腹を抱えて横になっているミューに、寝る前に風呂で温まって寝ろと指示すると、魔道具で湯を張り始めた。
風呂?? 風呂っておいしいの?
なんだ先程覗いていたのに、わからなかったのか?入る時に説明してやろう。
ユウゾーは呆れながら食器を洗い、テキパキと片付けていく。
湯の中に入る前に体をこの石鹸で、こう泡立てて体を擦るんだ。 汚れが綺麗に落ちるぞ。 ついでに頭も洗うんだぞ。 風呂に入ったらゆっくり百まで数えたら出てもいいぞ。 出たらこのタオルを使って…
意外に面倒見が良いユウゾーであった。
フンフンと説明を聞いていたミューは突然ユウゾーの前で服を脱ぎだした。
違う! 服を脱ぐのは中の脱衣場だ!
ミューを中に押し込みカーテンを閉める。
風呂に入ってる間に作業台を片付け、ベットを土魔法で作ると、予備のエアーマットと寝袋を取り出して準備を行う。
ふと気がつくと風呂場から鼻歌らしき声が聞こえてくる。
お風呂を満喫中かな?ユウゾーは風呂上がり用の冷たい飲み水を用意し始めた…
なぁ ユウゾー このヒョロヒョロしたのはなんなんだ?
キノコとは違うしなぁ。
朝食時 肉入り野菜炒めのおかずの中にミューはある物を見つけてユウゾーに問いかけた。
それはモヤシだ。栄養があるんだぞ。
市場で大豆を見つけ大喜びでユウゾーは30kg入の大豆を3袋買い込んだ。
大豆があれば味噌 醤油 にがりがあれば豆腐も出来る。
今回みたいに暗所で育てればモヤシが作れる。万能食材だ。
シャキシャキしてなかなか美味しいな
ミューも気に入った様子だ。
序に今日の予定を確認すると塩を採取して夕方にはここに戻って来るとの事もう一泊して明日村に向かう予定になる。
朝食後ミューを送り出し、ユウゾーは作業台で昨日の続きを始めた…
今日は一日を錬金術に費やす予定だ。
おかしい おかしい 何故出来ぬ?
努力の人ユウゾーであった。
少し前の話 ユウゾーが村から消えてほぼ一ケ月が過ぎたある日の事。
あるギルドマスター室にて2人の老婆?が頭を突き合わせて相談をしていた。
すると例の袋は知り合いの商店に1800万ゼニーで売却されたのだな?
あぁ くれぐれも秘密を約束にして少し値引きを行いその価格だ。
何と 正規なら2000万か…
あぁ 時間付与はある意味商人としては切り札になるからな。
そうじゃな 時間経過が1/3 なら誰しもほしがる。
あぁ なれど問題は其処ではない。
わかっておる 近日中に小僧の状況確認を検討している。
客が帰った後 ギルマスは深々と椅子にもたれ、遠い宙をぼんやり眺めていた。
まさか 生きている間に二度も異邦人と巡り会うとは…
長生きはするものじゃないな。
午後三時 精魂尽きたユウゾーの姿があった。
だめだ!本日はここまでにしよう。
昼食も忘れて錬金術に打ち込んだが返り討ちにあう。
今はただ疲れた体を横にしてベッドに倒れ込む。
ミューはまだかな? 少しだけ寝かしてもらうか。
うぉー 来るな! こっち来るな!!
懸命に魔物の群れから逃げ惑うミューの姿があった。
塩の採取を終えユウゾーの居住地に帰る途中にゴブリンの群れに出くわした。
すぐさま近くの木に昇り数匹のゴブを得意の矢で仕留めたが、後方から近寄ってくる二回り大きなゴブを見つける。
いかん! あれはゴブリンソルジャーだ!
ただのゴブリンとはすべてにおいて桁が違う。
一対一でも手に余る存在だ。それが部下を引き連れて迫ってくる。
逃走!! 瞬間的に判断したミューは身軽な動作で木から飛び降りると、後も見ずに逃げ出した。
逃走先はユウゾーがいるあの洞窟だ。ユウゾーなら何とかしてくれる。
そう思い必死に走る。
ドンドンドンドン!!!
手荒なノックにつかの間の睡眠から目を覚ましたユウゾーは、戸の鍵代わりの角材を外しミューを迎い入れる。
「どうした? そんなに…」
「すまん 魔物だ。追われている!」
息も絶え絶えにミューが転がり込んだ。
反射的にサイコガンを引き抜く。確かに何か複数の気配が森から此方に向かって来る気配がある。
「魔物は何だ?」
「ゴ ゴブリンソルジャーだ。通常のゴブより二周り大きく凶暴だ!!」
説明が終わる間近に森の草薮から数体のゴブが飛び出してきた。
3体だな 一体が弓 他2体は武器系。
瞬間に状況確認を済まし、攻略順位を決定する。
3発サイコガンから発射され 無駄打ちなしで仕留めた。
最初の一撃は 弓をもったゴブを優先した。
よし! 次のゴブを確認しようと森に目を移した時、森の中から何かが物凄い速度で飛んでくる。
ほとんど本能的に床にユウゾーは身を伏せた。
それはわずかに頭の上をかすめると奥の岩壁にぶつかり粉々に破損した。
槍か!! まさに危機一髪の瞬間だ。
ふっ と顔を上げると森の中から大柄のゴブが此方に向かって走り出していた。
くそ、 戦いなれしている奴だ。
運の悪い事に床に伏せた時勢い余り、拳銃から手が離れ50cm程先に落としてしまった。慌てて拾い上げ顔を上げると大柄なゴブはもう間近に迫っていた。
持っている剣をいま振り下ろす、まさにその瞬間だ。
しまった 間に合わない!
ユウゾーは半分固まってしまった。その時一本の矢が深々とゴブの左目に突き刺ささった。その痛みでゴブは思わずたたらを踏む。
いまだ ユウゾー!!
その声に我に返り狙いをつけた。
「ゲーム オーバーだ!」
続けて二発発射され 一つは腹を大きく破損し もう一つは右肩から首にかけ大きく削り取った。
信じられないと言う顔で ゆっくりと後ろに崩れていく。
しばらく相手の様子をうかがっていたが、二度と立ち上がることはなかった。
それは残りのゴブも同じでしばし立ちすくんでいたが、向きを変え森に逃げ込もうとしている。
にがすものか!
ガンの出力を 50→30% に変更して二発連続発射。二体とも地に伏した。