139 いざ ダンカンの本音
土・日は休筆になります。 月曜日に投稿予定です。
マーラはダンカンより聞かされた話しの分析にしばし無言で考え込んだ。
現在大森林に住んでいる者は治外法権状態だ。
この国から支援がないのは勿論、税に関しても関与していない。
それはある意味当然で、エルフ達から見れば後から入ってきたのは人族なのだ。
人族もそれは承知で大森林地帯など開発にどれだけの手間暇と金がいるか想像も出来ないのだ。
国からの治外法権状態は当たり前であった、今までは…。
それが災いして此度の騒動になってしまったのだ。
「ユーラシア国は何故今までユウゾーに接触して来なかったのだ?」
「いや 当然何回かは交渉の人員を派遣している。それをギルマスが断っていたのだ」
ギルマスとしては冒険者ギルドは中立であり、干渉は断ると。
それにこの世界の常識として迷人には干渉せず唯見守っていくがセオリーになっている。
頑として使者を追い返し、現在に至る。
「…もしあの両国が紛争になったら、この国はどう動くのだ?」
あくまでも推論であるが、恐らく当面中立を守るだろう。なれどそれは両国の紛争が終了したならこの国はかなり先行きが怪しくなる可能性が大だ。
言葉の上で中立は可能だが、力もさほどないこの国は何方からも味方にならなかったと疑惑の目で見続けられ、最終的に憂いは消すと判断される可能性があるからだ。
だからこの国はユウゾーと言う切り札を持ちたがっているのだと続けた。
この国が滅びようとエルフ達森に住んでいる者には正直関係の無い事になる。
過去何回もこの国が滅んで来たのを目撃しているからだ。
「問題は輪廻の輪がいつまで続くのかと…」
マーラは独り言のように呟いた、今まで続いたから未来永劫も続く保証など無いのだ。
ある日突然この大陸が一つの国によって統一された場合に、その勢力がこの大森林に向かった場合は幾ら地の利がある森と言えどもエルフ達はひとたまりもあるまい。
その時にはエルフ達はどうすべきなのか…。
奥へ 奥へと逃げるべきか、そう あの神話のある中央部へと…。
いやいや 私ごときが今は考える事ではないな。今はユウゾーにどう事の次第を伝えるかだな。
「裏の事情は了解した。で お前の答えはまだ聞いていないが?」
何故にユウゾー側につくのか理由を述べよと催促する。
「第一の理由は あの戦闘力ですよ」
新ダンジョンで見たあの無双の戦いぶり、いや其れすらまだ本気の対応ではないと後から知らされた。
オレオンのギルマスによるとベヒモスさえ鼻歌交じりで倒したと…。
信じられるかと当初は思ったが、証人が何人もいた。
おまけにダンジョンに居残り1パーティで改めてダンジョン制覇をしただと?!
完全に理解が止まった自分がいた。どうやれば上級ダンジョンを5名で制覇できると?!
やばい こんな人物に敵対したら間違いなく滅亡の一途だろうと確信した。
最後の決め手がここのギルマスから聞いた話だ。
この大森林内のダンジョンから湧き出した魔物1万体をエルフ軍30名にて殲滅したと?!
巫山戯るな!! そんな事が可能な筈など無い! と何度も思ったがユウゾーならばと…。
事実そのエルフ軍を指揮したのはあのユウゾーであると後日判明する。
次第に脳内にあの新ダンジョンにての活躍ぶりが刻み込まれていき、可能かと思いだしたのだ。
最終結論。俺はギルド中枢部へと上がってみせる、其のためには無駄な戦いはゴメンだ。
ユウゾーには極力関わらん、絶対に敵対はしないと決定した。
いや 魔物1万体の内容は半数以上が魔物同士の潰し合いなのだが…しかしあの堅牢な陣地での防衛戦ならば時間はかかるが意外と可能だったかも知れんなと、マーラは考え込みだした。
あの時はサイコガン10丁での対応だったが、これを100名のエルフ達が持ったとして森の中で移動しながらの人族との戦いならかなりな成果が上げられるな。
エルフ得意の地域戦に特化すれば敵が万でもいけるかな…?
「次に其の二なのですが…」
あの不可解な性格に負けた との事だ。
ユウゾーに接して判明したのたが、次第にユウゾーの歳がわからなくなって来たとの事だ。
普段は確か18?の歳に相当する人物なのだが、突然スイッチが入ると老獪な年寄に変貌するとの事だ。
その時のユウゾーは手に負えないと、何だあの変貌ぶりは?
普段は甘っちょろい人物で騙すのも簡単な男と思われるが、何故か突然に冷や汗が出るほどの爺に変わってしまう。
考え方も人の裏を読み始めて、それが的確に指摘されるだけではなく、何となく顔つきも爺臭くなっていく。何故にあんな悪党顔に変身するのだ?
見ていて寒気がするときがあるぞ。
そのくせ普段は言葉は悪いがおっとりと何も考えていないバカ面をしているときが多い!
何も知らないボンボンみたいな様子から、生き馬の目を抜く商人も真っ青と言う見識も持っている。
済まんが私には今まで見たことがないタイプだ。
この世界の一般常識は当然知らないし、時たま馬鹿正直に行動するかと思えば変に頑固で一歩も引かぬ事もある。迷人とはあんな性格が当たり前なのか?
悪いが俺には理解が困難な人物像だ。
そうだな…実際はユウゾーはエルフで外面を変身魔道具で隠している数百歳ほどのエルフだと言うなら、何となく理解出来るかな?
最終結論。
理解不明な男には極力近寄らない。絶対敵対はしないと決定。
この件については返す言葉がないな、マーラも深く賛同する。
「其の三なのだが…」
「…いやその2つで十分だ、真摯な意見に感謝する…」
マーラは力なく頭を振り大きなため息を吐いた。
「おっ お待たせー。換金終わったよ…」
ミーア達が部屋に入ってきて報告するが、何となくおかしな雰囲気に戸惑う。
「いや 何でも無い。さて店に寄って帰ろうか」
マーラ達はダンカンに帰りの挨拶を済ませ部屋から出ていく。
二階の窓からマーラ達3名がにこやかに笑いながら歩いていく姿を見つめダンカンは呟いた。
第三の理由が本当は一番の理由なんだが…。
あんなに個性的な嫁さんが何人もいて、皆がユウゾーさんを中心に動いているなんて信じられない程に素敵な理由だと思うのだがな…。
ダンカンは羨ましそうに歩いていく3名を眺めていた。
はっくしょーん 何だ急にくしゃみが我慢できなくなったが…。
ユウゾーは鼻をすすりながら鍬を振り下ろす作業を続行していた。
「ただいーま 美味しいお菓子買ってきたよ」
ミューが嬉しそうにユウゾーに報告する。
「おっ ご苦労さん。おやつにするか、おーいみんな作業中止だ」
畑のあちこちから元気な声とお菓子への歓声を上げて家に向い始めた。
いよいよ春本番に向けての農作業開始の季節になってきた、ユウゾーは今年植える作物の予定を頭に浮かべながら家に皆と一緒に歩き出した。
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