135 いざ ケイト奮闘中
ケイトが本日より屋台営業を開始する。
ケイトが前準備を終わらせ、いつでも売れる体制になった頃に宿屋から一組のパーティが出てくる。
パーティ員全員が ギヨっと得体の知れないミニカーに目が釘付けになる。
な なんだあれは?
私が知るか 魔物では無いよな?
おい 何やら看板らしき物が、、。
リーダー読んでくれ あたいは文字が読めねぇし…。
馬鹿わたしだってそんなに…なになに ケイトの・美味しい・とくせい・野菜スープ店?
リーダー何故に疑問詞なんだ?
う うるさい 文句あるなら自分で読め!
はて?何やら煩いが・・ケイトが後ろの窓から顔を覗かせ声のする方角を覗き込む。
途端に冒険者達は反応して身構えるが、その正体が可愛い女の子と分かりホッと警戒心を解く。
「おはようございます。美味しい野菜スープは如何ですか?野菜は勿論大きなお肉入りで、おまけに香辛料も入っております。美味しいですよー」
何と言った? 肉入り野菜スープで香辛料入り??
くんくん 間違えない、この匂いは何回か嗅いだ事がある香辛料の匂いだ。
途端に冒険者達は尻込みを始める、香辛料入の料理など年に何回しか味わうことしかない、そんな高価な香辛料入のスープなら容器一杯でいくらするか想像出来るのだ。
絶対に安価ではない筈だと。
急に尻込みした冒険者達にケイトはユウゾーと考えた売り声を響かせる。
「開店記念につき数日間はこの容器一杯でなんと半額の100ゼニーでのご奉仕です。是非とも味わって下さい!!」
なんだと! 半額の百ゼニー?? 聞き間違いか、千ゼニーの間違いでは??
未だ冒険者達は事の判断がつかずガヤガヤ言い合っていた。
いつの間にか宿屋の玄関先には20数名の冒険者達が集まり、ケイトのミニカーと看板を指差して大騒ぎになりつつあった。
だ だめだ あたいは香辛料の匂いに弱いんだ…。
獣人族と思われる冒険者が匂いに誘われて我慢できずフラフラとミニカーに近寄ってきた。
「ほ 本当に百ゼニーでいいのか?」
そう言ってカウンターに百ゼニーを差し出した。
ケイトはにっこり頷き、容器にたっぷりの肉入り野菜スープを冒険者に差し出した。
冒険者は容器を受け取り、頻りにスープの匂いを嗅いでおもむろにスプーンで口に運んだ。
その様子を他の冒険者が固唾を呑んで凝視している。
冒険者は二口目からは夢中になりスープを慌ただしく飲み干した。
う うまーい! こんな野菜スープは初めてだ。お代わりだ!!
更に追加の百ゼニーをカウンターに差し出した。
それが口火となる、冒険者の集団が歓声を上げ我先にミニカーに押し寄せ、野菜スープを寄越せと押し合い状態となった。
うまーい 確かに香辛料が入っておるぞ!
見ろこの肉を 安物の大鼠の肉ではなくオークの高級肉だ!
うぉー その鍋ごと売ってくれぇー!
通りすがりの住民が何事だと、突然の冒険者達の狂気ぶりに呆然と立ち止まる。
ミニカーの後ろにはいつの間にか暴動を警戒してマーラがしっかりと監視体制をとる。
そんな様子を西門の警備兵ともう二人がこっそりと見つめていた。
ユウゾーとケイトの母である、いくらしっかり者のケイトとはいえ、まだ7歳の子供である。
母親としてどんな様子か心配であろうと、ユウゾーが様子見に連れ出したのだ。
「ユウゾーさん こりゃ凄い人気だぜ、商売繁盛だ」
門番兵が顔だけ出して様子を見ている二人に笑いかけた。
「本当に、、良かった。これもユウゾー様のお陰です。あんなに楽しそうに売っているケイトの顔を見たことがありませんでした」
母親はユウゾーのお陰です と感謝の言葉を何度も繰り返した。
大騒ぎの冒険者一団がようやく落ち着いて来たが、それと入れ替わる様に住民たちも好奇心に負けて切れ目なく店先に立ち寄っていた。
皆が満足した顔にて客同士にてにこやかに話し込んでいるようだ。
そんな様子に二人も安心して門から離れ家に向かう。
帰りしなにユウゾーは門番兵にいくばくかの金子を渡し、時折ケイトの様子をそれとなく見て欲しいとお願いした。
門番兵は私も後で食しに行ってみると、ユウゾーのお願いを快く承諾した。
その日の昼前には予定していたスープの全てを売り切り、ケイトは喜び勇んで家へと帰り着いた。
待っていた母とユウゾーに誇らしげに完売したと報告し、売上金をユウゾーに差し出した。
約1万ゼニー程の小銭を皆で丁寧に数えて、約束通り折半にしてケイトに改めて渡した。
その金を嬉しそうに受け取り母へ手渡したケイトであった。
皆がよく頑張ったとケイトを褒めて上げる。
照れくさそうな笑顔を浮かべながら母へ抱きつくケイトに皆が癒やされていた。
昼食後に明日の仕込みに入るとケイトは元気よく部屋から出ていく。
暫く様子を見ながら好きにやらせようとユウゾーは皆に伝える。
開店特売の3日間が過ぎて通常価格での商いになっても人気は落ちず、逆に冒険者達に固定客が付き始めていた。
例え200ゼニーになっても依然割安感が高く、中には開店前のケイトを手伝う冒険者達も現れる程の繁盛になってきた。
彼等は朝の香辛料入の肉野菜スープを飲んでからの仕事が日課になりつつあった。
それは冒険者に限らずいまだ建築ラッシュが続く労働者も同じであり、いつしかケイトの店は屋台になくてはならない位置に上がりつつあった。
安くて美味しい肉も入って満足感の高い屋台として住民からも認知されていく。
朝食をよく抜くギルマスもギルドに向かう前に数日に一回はケイトの店にて済ますようだ。
お客の切れ目に容器を洗うケイトを、直営店に居る妻達が手伝う姿がよく散見されている。
「ケイトのお陰でこの店の売上がこの所伸びておるぞ」
ニーナが笑いながらケイトの頭を撫ぜた。
意味が分からずにポカンとするケイトに、宿屋から出た冒険者は以前はそのまま北門につまり宿屋の玄関から左に進むことが多かったのだ。
それが右に移動してケイトの屋台へ向かう冒険者がほとんどになった、その冒険者達は屋台で食した後に目の前の店、つまりこの店に寄り出したと言う訳だ。
そして西門から出て北の方角へ進む流れになってきたんだ、お陰で少し前までのんびり店番が出来ていたのが忙しくなってしまった と笑い出した。
確かに西門から出ていく冒険者が多いとケイトも気がついた。
そうか 私の店がお姉さんたちの売上にも協力出来たんだね。
ケイトとニーナが互いに顔を見合わせて頷きあった。